38.買い物
ジュリアのためにもエドワード様のためにも役に立てる時がきたのだ。頑張らないと。
昨日はデートスポットに行ったのだから、少し趣向を変えてもいいかもしれない。
善は急げとエドワード様を連れてきたのは、小さめの雑貨屋。ここは災害前から評判の良い店だ。
貴族なら何かプレゼントするほうが、相手に気に入られやすい。
けれど突然にネックレスや指輪なんて贈るのは、さすがに重いだろう。
ならば実用性のあるものを贈るのが吉だ。
この店なら、そういったものが揃っている。あとジュリアが気に入っている店でもある。
扉を開けると、木材をいくつか合わせたドアベルが優しげな音が鳴る。その音に気が付き、いかにも職人といった風貌の店主が奥から出てきた。
「いらっしゃいませ」
言葉は丁寧であるが、少しぶっきらぼうに言う店主。伯爵領の職人は、大体そんな人たちばかりだ。
それでも昔に比べて、接客態度は和らいでいる。以前は今よりもっと無愛想だった。
技術だけではやっていけないと知ったからなのだろう。さらにエドワード様が、見るからに高貴な身分だと分かるということもあると思う。
「ジェイン、ここは?」
「ここはアトウッド伯爵領のなかでも、特に実用的で使いやすいものが揃っているんです。きっとエドワード様のお役に立つかと思いまして」
「なるほど」
エドワード様は私の簡単な説明に頷くと、意図も理解したらしく商品を眺める。
その後についていって、アドバイスを求められれば応える方がいいだろう。エドワード様なら、プレゼントも選び慣れているだろうし。
「すごいな……。これはすべて、木材でできているのか?」
「はい。この繊細な模様も職人が魂を込めて作っているのです」
「お嬢さん、よく知っているな」
私が説明していると、店主が感心したように言う。
きっと私はエドワード様の従者だと思っているのだろう。気持ちとしてはあっているので、訂正する必要はないだろう。
そう思ったけれど、エドワード様が少しだけ不服そうに言った。
「当然だろう。彼女はアトウッド伯爵家のご令嬢だぞ」
「っ!? し、失礼しました……っ!」
その言葉を聞いて、店主は慌てたように私に謝罪する。
確かに本人からしたら、失態を犯してしまったと思うだろう。安心させるように微笑む。
「気にしないでください。私はあまり皆様の前に出ていませんので、知らないのも無理はありません」
「い、いえ……。我々が今も生きているのは伯爵様のおかげです。そのご息女に無礼な態度をとったこと、まことに申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。今アトウッド伯爵領があるのは、父だけでなく皆様の尽力があってのこと。それなのにどうして、責められましょう」
「あ、ありがとうございます……。ではどうぞごゆっくりご覧ください」
「はい。ありがとうございます」
そうしてエドワード様に向き直る。
「エドワード様、ありがとうございます」
「……いや、ジェインがいいなら構わない」
私のために苦言を呈してくれたことは、感謝している。けれどそれは仕方のないこと。私が特に何もしていないのも事実だ。
お礼を言うと、エドワード様は少し視線を落とす。
けれど気持ちを切り替えるように、再び商品を見繕う。
まだここにいるという意思表示にホッと安心する。これで店から出ようとしたら、どうしようかと思ってしまった。
ここに並んでいる商品は、物によっては端材を使って作っている。
木材を余すことなく使い、そして管理し育てているのだ。別に物が悪いことではない。その積み重ねが、アトウッド伯爵領を育ててきたのだ。
たくさんの商品を一通り見た後、エドワード様は言った。
「ジェインはどんなのが欲しいんだ?」
「え? 私ですか?」
突然そんな風に言われて、私は驚いてしまう。これは私にアドバイスを求めているということだろうか。
商品をしっかり見ていたから、確かに購入する意思はあるのだろう。そしてプレゼントしたいと思えるほどに、商品が良かったということでもある。
「ああ」
こちらをしっかり見て、頷くエドワード様。
きちんと考えて答えないと。ジュリアのためにも。
きっとジュリアにプレゼントするものを考えているに違いない。姉である私に聞いて好みから大きく外れないようにしたいのだろう。
「どの商品も、職人が丹精込めて作ったものです。この品質であれば、プレゼントに喜ばれるでしょう。エドワード様がお選びになっただけでも、とても価値があるものです。……ですが必要とあれば、私も精一杯協力します」
「……? ああ。頼む」
エドワード様が一瞬固まったけれど、考えに集中していた私はそんなエドワード様の様子には気が付かなかった。
私は改めて商品を確認する。
(うん、このくらいなら災害前と変わらないクオリティになっているね。まだまだ大きな家具は難しいと聞いていたけれど、少しずつ良くなっている。これならエドワード様がお買い上げしたとしても、とやかく言われることはないでしょう)
そもそもとやかく言う存在が、ここにいるはずもないのだが。
「ちなみにエドワード様が気になったものはありますか?」
「そうだな。このような、ランプシェードは素晴らしいと思う。ちなみに明かりが灯るとどのようになるのだろうか?」
「とても美しいですよ。……ここでつけても良いでしょうか?」
「もちろんです」
職人がランプシェードの明かりをつけると、周囲に模様が浮かび上がりとても幻想的な雰囲気を演出する。
これをもう少し暗いところでつけたら、更に美しくあたりを照らしてくれるだろう。
「これは……美しいな」
「そうですね」
エドワード様に感嘆の表情が浮かぶ。気に入っていただけたようで、何よりだ。
店主もホッと息を吐いていたので、ずっと緊張していたに違いない。
そりゃあ、貴族を怒らせたとなれば人生の終わりを錯覚するよね。
エドワード様がそんな方ではないから大丈夫だろうと私はわかっていても、職人は気が気じゃなかったに違いない。




