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婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華


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36.動く

 エドワード様が出かけられたので、今日の私の仕事がない。


 今までの経験上、何か聞いても休んでいいよと言われるのは目に見えてる。


 どうしようかなと、考えてふと視線をずらした時。


 視界に棚が目に入る。つい癖で指を滑らせると、埃が付いていた。


 エドワード様が良く通るところは念入りに掃除していたようだけれど、この辺りは人通りが少ない。


 戻ってきた使用人も、まだ少数であれば掃除が行き届かないのは当然だ。


「……せっかくだし、掃除しよ」


 手持ち無沙汰なところに丁度いい仕事を見つけて、私は道具を取りに行った。



 ◇◇◇



 気が付くと太陽は色を赤く変え、その姿を隠そうとしていた。


 夢中になって掃除していたので、時間の感覚が無くなっていたらしい。


 けれどそのおかげで、色々なところを綺麗にできた。


 まだまだやりたいところはあるけれど、今日はここまでにしよう。


 途中から空き部屋を掃除していたので、道具を持って部屋を出る。


 少し歩くと前方から人影が。


 その人影は私を見ると、慌てた様子で近づいてきた。


「ジェイン、探したぞ」


 エドワード様だった。いつ、お出かけから帰ってきたのだろう。

 

「エドワード様。申し訳ありません……。今日はお出かけになられていたのでは?」

「っいや、とっくに戻ってきていたぞ。……その話をどこで?」


 盗み聞きしていましたなんて言えるはずもなく、とっさに誤魔化す。


「いらっしゃらなかったので、お出かけされていたのかと思っただけです」

「……そうか。ところで、何をしていたんだ?」

「掃除です」

「掃除……」

「はい。気になったもので。そうしたらつい、夢中になってしまいました」


 エドワード様が私の話を聞いて、肩の力を抜いた。


 どこか安心した様子で、大きく息を吐きだす様子に、私はまたやらかしてしまったと悟る。


「申し訳ありません。なにかあったのでしょうか?」

「あ、いや。そういうことではない。ただ、皆ジェインがいないと話していたからな。探していたんだ」

「え」


 ということは大分迷惑をかけてしまっていないだろうか。


 まさか家族も探しているとは思わなかった。


「申し訳ありません。そんな大事になっているとは思わず」

「ここにいたのならいいんだ。うん」

「……どういうことでしょうか?」


 エドワード様の言葉の意味が読み取れず、首を傾げてしまう。


 少しして、居心地悪そうにしながらエドワード様は言った。


「その……ジェインが1人で帰ってしまったのではないかと、焦ってしまったんだ」

「……えっと」


 もしかして昨日のことで、帰ってしまったのではないかと思ってしまったということか。


 確かに昨日は一人で帰ろうかな、と思ったことは事実だ。


 けれどその後、エドワード様のおかげでそんな気持ちはなくなっていた。


 そもそも先んじてエドワード様は、私が帰らないように念押ししていただろうに。


 分かっていても、焦ってしまったということか。


 そんな風に慌てたエドワード様を見るのが、なんだか新鮮で。


 もしかしたら昨日も扉越しに、こんな顔をしていたのかもしれないと思うと、笑い声が出てしまう。


「ふふっ。エドワード様が昨日おっしゃったではありませんか。“一人で帰るな”と。お約束したのに、破ることはしませんよ」

「そ、そうか。ジェインはそうだよな。わかっていたんだが、つい心配になって」


 いつもの余裕のある表情からは想像できないくらい、今のエドワード様は動揺を隠せずにいた。


 こう見ると年相応に見えて、弟のようだと思ってしまう。それは以前にもあったことだったな。


 最近は本当に私より年下か? と思うくらいにはしっかりしていたから、勝手に懐かしい気持ちになってしまう。


「失礼しました。家族にも報告しないといけませんね」

「あ、ああ。そうだな。行こう」


 まだ平常運転に戻れないエドワード様に、少し笑いながら歩き出す。


 掃除道具をささっと片付けて、家族に報告すると皆安心したようだった。


 とても申し訳ない。どうして私は、皆に心配をかけてしまうのか。


 ジュリアが一番心配していて、泣きそうになっていたので驚いてしまった。


 家族に掃除すると言えば反対されると思って無言で始めたが、こんな風になるのなら一言は言おうと決意したのだった。


 

 ◇◇◇



 そんな珍事件を挟みつつ、夜は比較的穏やかに過ぎる。


 なんというか、毎日なにかしら事件が起きていないだろうか。


 それの大体の原因が私だと思うと、やるせない。本当に私って、なんでこうも心配をかけてしまうのか。


 何かやろうとしてもから回っている感じがするので、残りは大人しく過ごしていたほうが無難なのではないかと考えていると、御者が歩いているのが視界に入る。


 もう仕事を終えて帰るところなのだろう。


 向こうも私に気が付いて、ペコリと頭を下げた。


「お疲れ様です。お仕事は終わったのですか?」

「ありがとうございます。はい。これから帰るところで」

「そうなんですね。暗いですし、気を付けて帰ってください」

「はい」

 

 あいさつを終えて、帰る御者を見送ろうとして——あることを思い出した。


「帰る前で申し訳ありませんが、ひとつ聞いてもいいですか?」

「何でしょう?」

「今日エドワード様はどこにいかれたのでしょうか?」

「ああ、アッシュリッジ公園です。あそこも大分綺麗になって、以前のような活気を取り戻しつつあるんです」

「……っ!」


 その場所がどういうところか知っている。


 だからこそ、息をのんでしまった。


 動揺した心を出さないように、口角を上げる。


「そうなのですね。ありがとうございます」

「いえ、それではこれで」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 今度こそ御者を見送る。そして気が付いたら私は自室でボーっとしていた。


「アッシュリッジ公園かぁ」


 そこはアトウッド伯爵領の観光地のひとつだ。


 綺麗な景観で、自然豊かな人気スポット。


 アッシュリッジ公園も災害で被害を受けていて、一時期は立ち入りを制限されていた。


 今は観光客も呼べるくらいに戻ったけれど、重要なのはそこではなく。


「あそこって、デートスポットなんだよねぇ」


 もちろん老若男女問わず訪れる場所ではあるけれど、一番多いのはデートをする若い男女だ。


 そこに2人でいったらしい。そして日中盗み聞きした内容を照らし合わせれば。


「エドワード様は、ジュリアを気にかけているということ……」


 という答えにたどり着いた。

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