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婚期逃したので侍女として働いています。え⁉︎ 地味な私が歳下の公爵令息に溺愛されるんですか⁉︎  作者: 水月華


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35.内緒話?

 私が椅子に座ると、お母様は目の前に食事を置いてくれる。


「これは……」

「覚えているかしら? シェパーズパイよ」

「うん。とても懐かしい。お母様が作ったの?」

「ええ。最近はシェフも戻ってきてくれて、厨房に立つ機会は減ったけれどね。すっかり楽しくなったものだから、たまに作らせてもらっているのよ」


 お母様、本当にお料理が趣味になったんだな。


 もちろん掃除とかもしていたけれど、どちらかというと料理の方に熱が入っていた。


 私は料理の経験が少ないということもあるけれど、掃除の方が好きだ。


 汚れを落として綺麗に保つことがとても気持ちのいいものだと、仕事を通して知ったのだ。


 掃除ができるようになると、自然と自室も綺麗に保てるようになった。


 そういうこともあって、私は働くことを選んで良かったと思う。


 きっとお母様も同じような感じなのかもしれない。


 そう思いつつ、スプーンをパイに差し入れた。


 マッシュポテトはとてもなめらかで、肉のうまみやスパイスを余さず包み込んでいる。


「美味しい」

「良かったわ。以前より調味料とかが拘れるようになったから、味も変えられるようになったのよ」

「うん、良かったよ。ポテトが凄くなめらかなのに、香ばしくて食欲をそそるよ」


 お母様は嬉しそうに笑っている。


 少しずつ会話をしながら、シェパーズパイを味わった。


 食べ終えて一息ついていると、お母様が言った。


「ねえ、ジェイン」

「なあに、お母様」

「公爵家での生活はどうかしら?」

「手紙にも書いたけれど、とても充実しているよ。お母様が料理を好きになった気持ちがよく分かるくらいになった」

「そう。……本当に、2年前とは別人みたいに生き生きしているものね」

「あはは。最初は色々大変だったけれど、同僚のお陰で大丈夫だよ」



 元々侍女を辞めたらもういけるところがないと、必死に食らいついていた。


 けれど切羽詰まっていた状態から、肩の力を抜けたのは同僚たちのお陰だ。

 

 とくにオリーヴにはお世話になった。あの底抜けの明るさに何度救われたか分からないほどに。


「ジェインもこれから大変だと思うけれど、貴女なら大丈夫よ。頑張ってね。なにかあったら、いつでも相談してちょうだい」

「うん、ありがとう。お母様も無理しないでね」


 お母様の優しさに、目頭が熱くなる。


 なんだか最近涙腺が緩くて、ちょっと困ってしまう。


 なんとかお母様の前では泣かないようにして、その日は休んだ。



 ◇◇◇



 次の日。


 お母様とエドワード様のお陰で、気を持ち直すことができた。


 本当、自分の至らなさに情けなさが募る。


 とにかく2人、いやお父様たちが私を支えてくれたのだ。


 もっと頑張らないと。


 気合を入れなおして、自分がどうするべきか考える。


「とにかく家族には、これ以上心配かけたくない……。となれば、やっぱり仕事を頑張るのが一番か。けれど伯爵邸(ここ)でもなにか頑張りたいな」


 私が帰省すると、皆私が休めるようにと気を遣っているのがわかる。


 ある意味、私が働く前と変わっていない状態と言えるが、それはひとえにわたしが仕送りをしているのだからという思いらしい。


 私の生活費を除いて、貰った給金のほとんどを仕送りしている。


 食費などは公爵邸が必要最低限は保障してくれているので、そこまでかつかつにはならない。


 それはさておき。


「家族となるとなかなか難しいなぁ。なにせ2年前も苦労したし……」


 私が目に見える形で頑張ろうとすると、甘やかそうというか止めようとしてくるのが現状だ。


 こちらは中々難しいし、先にエドワード様への恩返しを考えるか。


 もちろん、公爵邸に帰ったら今まで以上に誠心誠意仕えるのは大前提として。


 他にも私ができることはあるだろうか。


 そんな風に考えごとをしながら廊下を歩いていると、ふと耳に話し声が入ってきた。


 思わず立ち止まり、音の出所を探る。


 前の方に、少し扉が開いている部屋があった。どうやらそこに誰かいるらしい。


 何となく気配を消して近づいていくと、男女の話し声が聞こえてきた。


 エドワード様とジュリアだ。

 

 扉が開いているのは、2人が未婚で婚約者がいないからだろう。


 この国では女性の貞操は、割と重要視されている。

 

 ここで私は、好奇心と何か私が役立てるヒントがないかという思いに駆られ、盗み聞きをしてしまう。


 いけないことをしている自覚はあるので、心臓が騒がしく動いている。それを必死に宥めながら、耳を澄ませた。


「ジュリア嬢がついてくれるなら心強いな」

「そういっていただけて嬉しいです。それではこのあとは、お時間ありますか? 良ければご案内します」

「ああ。あまり時間もないからな。ぜひよろしく頼む」


 そう言った後、立ち上がる気配がした。


 私は慌てて気配を消しながら、その場を立ち去る。


 盗み聞きしている手前、バレたくないとそそくさと逃げたのだ。


 ある程度離れたところで、ホッと息をつく。


 先ほどの2人の会話を反芻すると、エドワード様とジュリアはこれからどこかに出かけるらしい。


 街の案内は一応私の仕事だけれど、ジュリアが案内するのだろうか。


 それは別に良いけれど、私に一言言ってくれてもいいのにと、一瞬もやっとした心を振り払う。


 昨日のことを思い出せば、エドワード様が私と出かけるのを避けるのは仕方のないことだ。


 むしろ完全な自業自得である。


 落ち込む資格なんてない。


 けれど2人がどこに出かけるのか、なぜかすごく気になってしまう。


 けれどどうしてか、2人に直接聞きづらいなあ。


 お父様……いや、御者に聞いても良いかもしれない。


 後で御者を捕まえて、聞いてみようかな。


 2人に直接聞けば早いのになぜ私がそう考えたか、自分でも分からないまま、今日の予定を考えていた。

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