誓うのは、自分の意思
(何のため……)
もうじき行われる変化の儀で、自分は消えるかもしれない。
そうしたら、会えなくなる。もう二度と、あんな時間は過ごせなくなる。
そう思ったら、怖くなった。寂しくなったし、悲しくなった。
──だから、会いたくなった。
もう一度顔を見たかった、話をしたかった。だから、願った。
そして、今その願いが叶い、皆が来てくれた。
(それは、──どうして……私は、皆に──何のため……? どうして、会いたいって……どうして)
考える。ひたすら、自分の内にある思いを、感情を、気持ちを、探る。
けれど、わからない。何かをつかんでも、手ごたえがない。
探して、探して、考えて、
「……私が、会いたいって、言った……から」
「違う」
即座に否定され、コトネの目に戸惑いの色が濃くなる。
なぜ、来てくれたのか。
──エリンと目が合う。
涙に濡れた目でじっと見つめた後、さらにぎゅっと力強く、腕に抱きつかれた。
──フェリカと目が合う。
その途端、下がった眉に、結ばれた唇がわずかに上がった。
「お前と共にあるためだ」
サヴジの言葉に、エリンが、フェリカが頷く。
「お前の抱えている秘密が、お前を傷つけなくてはいけないのなら聞きたくはない。だが、お前が話したいというのなら聞く。これは誰に強要されるものでもない。俺の意思だ」
そう言って、サヴジはコトネの手から短剣を取った。
「そこに誓いが必要なら、王国創設時より溶けぬルーシアの永遠氷『アリサージュ』に、ルーシア王子、サヴジ・アリサージュ・エルド・ルーシアがここに誓おう」
「だめ、だめ……っ!」
躊躇うことなく自らの腕に短剣を押し当てようとするのを、コトネが止める。
「違う、だめ、皆にそんな……っ、皆を傷つけるつもりじゃないの、違う──っ」
「何が違う」
「私はいいの、だって」
「俺もかまわない。俺が望んで、俺の意思で誓う。──お前と何が違う」
サヴジの言葉に、コトネは何も返せない。
次から次へと思考が浮かぶが、すべて形を取る前に消えてしまう。
ぱち、ぱち、と何度も目を瞬かせ、うつむき、頭を抱え、首を振る。
「私たちも、同じなのよ。コトネが呼んでくれてうれしかったわ。そして、私たちの意思で、来たの」
「そうよ! コトネの秘密だって、聞くって言ったのはエリンたちよ。それなのにコトネだけが誓約なんて、いや!」
フェリカが、エリンが、すっと立ちサヴジの手に握られた短剣に手を伸ばす。
ハッとしてコトネが後を追い、慌てて首を振る。
「だめ、だめだよ、だめ……ちがうよ……」
声を震わせ、必死で腕を伸ばし訴える。
「そんなことのために呼んだんじゃ──ちがう、ちがうの……っ」
「わかっているわ。コトネは、私たちに会いたいと思って呼んでくれたのよね」
呼吸が乱れ、言葉が出ない。
それでもコトネはあえぎながら、ゆっくりと頷く。
「なら、いいじゃない! 次はエリンたちがお願いする番よ」
未だ涙に濡れた目を輝かせ、それでもエリンがにっこりと笑う。
ずっ、とはなをすすると、今度はエリンがコトネの頭を優しく撫でた。
「──そういうことだ」
そんな様子に口角を上げると、サヴジが、コトネを。それから導師を見る。
すると導師は細く長く息を吐いた後、小さく頷いた。
「だめ、だよ……」
ぼろぼろと涙をこぼしながら、それでもコトネがすがる。
サヴジが、エリンが、フェリカが、自らの意思だと言った。わかっていると言った。『お願い』なのだと言った。
それでも、自分の願いが三人を傷つけることが苦しい。
「知りたいと願うのは俺の意思だ。ただし、お前ひとりに背負わせたいとは思わない。そのための代償は、自分で払う」
「ええ。それじゃ私はイエリ第二王女、フェリカ・ピエラ・イエリとしてここに誓わせてもらうわ」
「エリンも! サンティエ王女、エリン・サンティエール。絶対に言わないって約束するし、誓うわ!」
でも、と首を振るコトネの頬に、今度はフェリカが優しく手を添えた。
僅かにその頭が下がり、小さく体が震える。しゃくりあげ、呼吸を整え、それから、再び顔を上げる。
「皆、ごめ」
「謝らないわ、だって悪くないもの──……そうよね?」
フェリカの笑顔に、それ以上コトネの言葉は続かなかった。
エリンが大きく頷き、サヴジも一度。そして一度目よりも深く、二度頷いた。
コトネの唇が震える。開きかけた口からひゅうう、と息が漏れた。
その顔がくしゃっとゆがみ、
「──うっ……ぅぁっ、あ、──あり、がとうっ……」
かち、かちと歯を鳴らしながら、それでも紡がれる言葉を、三人は静かに受け止めた。




