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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko
第十八章

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誓うのは、自分の意思

 

(何のため……)


 もうじき行われる変化の儀で、自分は消えるかもしれない。

 そうしたら、会えなくなる。もう二度と、あんな時間は過ごせなくなる。

 

 そう思ったら、怖くなった。寂しくなったし、悲しくなった。

 

 ──だから、会いたくなった。

 もう一度顔を見たかった、話をしたかった。だから、願った。

 そして、今その願いが叶い、皆が来てくれた。

 

(それは、──どうして……私は、皆に──何のため……? どうして、会いたいって……どうして)


 考える。ひたすら、自分の内にある思いを、感情を、気持ちを、探る。

 けれど、わからない。何かをつかんでも、手ごたえがない。

 探して、探して、考えて、

 

「……私が、会いたいって、言った……から」

「違う」


 即座に否定され、コトネの目に戸惑いの色が濃くなる。

 なぜ、来てくれたのか。

 

 ──エリンと目が合う。

 涙に濡れた目でじっと見つめた後、さらにぎゅっと力強く、腕に抱きつかれた。

 ──フェリカと目が合う。

 その途端、下がった眉に、結ばれた唇がわずかに上がった。

 

「お前と共にあるためだ」


 サヴジの言葉に、エリンが、フェリカが頷く。

 

「お前の抱えている秘密が、お前を傷つけなくてはいけないのなら聞きたくはない。だが、お前が話したいというのなら聞く。これは誰に強要されるものでもない。俺の意思だ」


 そう言って、サヴジはコトネの手から短剣を取った。


「そこに誓いが必要なら、王国創設時より溶けぬルーシアの永遠氷『アリサージュ』に、ルーシア王子、サヴジ・アリサージュ・エルド・ルーシアがここに誓おう」

「だめ、だめ……っ!」


 躊躇うことなく自らの腕に短剣を押し当てようとするのを、コトネが止める。


「違う、だめ、皆にそんな……っ、皆を傷つけるつもりじゃないの、違う──っ」

「何が違う」

「私はいいの、だって」

「俺もかまわない。俺が望んで、俺の意思で誓う。──お前と何が違う」


 サヴジの言葉に、コトネは何も返せない。

 次から次へと思考が浮かぶが、すべて形を取る前に消えてしまう。

 ぱち、ぱち、と何度も目を瞬かせ、うつむき、頭を抱え、首を振る。


「私たちも、同じなのよ。コトネが呼んでくれてうれしかったわ。そして、私たちの意思で、来たの」

「そうよ! コトネの秘密だって、聞くって言ったのはエリンたちよ。それなのにコトネだけが誓約なんて、いや!」


 フェリカが、エリンが、すっと立ちサヴジの手に握られた短剣に手を伸ばす。

 ハッとしてコトネが後を追い、慌てて首を振る。


「だめ、だめだよ、だめ……ちがうよ……」


 声を震わせ、必死で腕を伸ばし訴える。


「そんなことのために呼んだんじゃ──ちがう、ちがうの……っ」

「わかっているわ。コトネは、私たちに会いたいと思って呼んでくれたのよね」


 呼吸が乱れ、言葉が出ない。

 それでもコトネはあえぎながら、ゆっくりと頷く。


「なら、いいじゃない! 次はエリンたちがお願いする番よ」


 未だ涙に濡れた目を輝かせ、それでもエリンがにっこりと笑う。

 ずっ、とはなをすすると、今度はエリンがコトネの頭を優しく撫でた。


「──そういうことだ」


 そんな様子に口角を上げると、サヴジが、コトネを。それから導師を見る。

 すると導師は細く長く息を吐いた後、小さく頷いた。


「だめ、だよ……」


 ぼろぼろと涙をこぼしながら、それでもコトネがすがる。

 サヴジが、エリンが、フェリカが、自らの意思だと言った。わかっていると言った。『お願い』なのだと言った。

 それでも、自分の願いが三人を傷つけることが苦しい。


「知りたいと願うのは俺の意思だ。ただし、お前ひとりに背負わせたいとは思わない。そのための代償は、自分で払う」

「ええ。それじゃ私はイエリ第二王女、フェリカ・ピエラ・イエリとしてここに誓わせてもらうわ」

「エリンも! サンティエ王女、エリン・サンティエール。絶対に言わないって約束するし、誓うわ!」


 でも、と首を振るコトネの頬に、今度はフェリカが優しく手を添えた。

 僅かにその頭が下がり、小さく体が震える。しゃくりあげ、呼吸を整え、それから、再び顔を上げる。


「皆、ごめ」

「謝らないわ、だって悪くないもの──……そうよね?」


 フェリカの笑顔に、それ以上コトネの言葉は続かなかった。

 エリンが大きく頷き、サヴジも一度。そして一度目よりも深く、二度頷いた。

 

 コトネの唇が震える。開きかけた口からひゅうう、と息が漏れた。

 その顔がくしゃっとゆがみ、


「──うっ……ぅぁっ、あ、──あり、がとうっ……」


 かち、かちと歯を鳴らしながら、それでも紡がれる言葉を、三人は静かに受け止めた。

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