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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko
第十九章

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コトネの秘密


「まず、変化の儀が行われるのは明後日です」

「明後日……?」


 導師の言葉に三人の間に戸惑いが走る。

 いぶかしげな顔になるサヴジ。首を傾げるエリン。そして、僅かに目を細めるフェリカ。


「変化の儀とは、皇貴様がその身に最も適した姿へと成るための儀です」

「それで、コトネは王子様か、お姫様になるのね……?」

「歴代皇貴様は皆、そのように成られております」

 

 コトネは小さく頷くと、許可を求めるようにちらりと導師を見る。

 その顎が僅かに引かれるのを確認し、口を開いた。


「変化の儀で、……身体ができてから、婚姻の儀になるんだって。でも、──」

 

 そこで僅かに、言葉に詰まる。

 視線がほんの数秒、下へ。そして横へ。それから、再び三人へと戻る。

 

「変化の儀で失敗をすると、──私は、……消えちゃう」

「なっ」


 思わず、サヴジが声を漏らす。

 エリンも弾かれたように顔を上げ、フェリカは目を見開いた。


「過去にも、失敗して消えちゃった皇貴がいたんだって」

「すごく昔から皇貴がいて……」

「──皆、名前は、コトネっていうの」

「私は、変化の儀で消えなかったら、『第五十三代皇貴コトネ』になるんだ」


 コトネはひとつひとつ、言葉を紡いでいく。

 口元に手をやり黙って耳を傾けていたサヴジだったが、

 

「私もね、……ちょっと前に、色々教えてもらったんだ」


 その言葉に、待て、というように反対側の手を上げた。

 小さく、細く吐く息が震えている。上げた手をぐっと握り、何かをこらえるように、もう一度息を吐く。


「──すまない、だが……」

「サヴジ……?」

「お前は、お前のことなのに、……これまで何も知らずに生きて来たのか?」


 問われてコトネは僅かに首を傾げ、唇を開く──が言葉が出ない。

 何度か目を瞬かせ、所在なさげに指が動く。

 

 何も知らなかったわけではない。自分が皇貴だということは知っていたし、様々な書物も与えられた。ただ、知らないことがあっただけだ。

 

(でも、そこには理由があった)

 

 答えを待つべく、まっすぐに見つめているサヴジに、コトネは小さく首を振る。

 

「……変化の儀で、消えないため──だったの」

「──っ、……悪かった。続けてくれ」


 そんなコトネの言葉に、サヴジは強く唇を噛み、言葉を飲み込む。

 小さく頭を下げ、続きを促す言葉に、今度はエリンが口を開いた。


「ねえ、……コトネは、──コトネは、消え──るなんて、ないわよね……?」

「エリン……」

「いやよ、いや、エリンはいや……コトネが消えちゃうなんて、絶対いや、いやなの、それなら変化の儀なんてしなくていいわ、しないで!」


 ぶんぶん、とエリンが首を振り、コトネの袖をつかむ。

 その指先は白く、小刻みに震えていた。


「王子様にならなくてもいい、コトネはコトネのままでいいの、だから変化の儀なんてしないで」

「皇貴様にとって変化の儀は、成人の儀。それを受けなければやはり、内に眠る種は枯れ、皇貴様も同様の道をたどることになるのです」

「なんでっ──どうしてっ……なんで、なんでコトネに──そん……っ」


 ──それ以上は、言葉にならなかった。


「皇貴は、変化の儀の前に、なんでも聞ける時間をもらえるの。その後、願いをひとつ叶えてもらえるんだ」


 コトネはエリンの髪を優しく撫でる。

 声を殺し、ぶんぶんと頭を振り、それでも強くしがみついてくるエリンに微笑みかけると、


「もし、失敗したら──もう、会えなくなる。それが、すごく寂しかった。……だから、会いたかったんだ」


 会って、話したかった。

 そう、続ける。


「明後日、……なのね」


 静かに尋ねるフェリカに、黙ったままコトネが頷く。

 その口角が僅かに上がっているのを見て、フェリカの唇が僅かに震える──が、すぐにきゅっと結ばれ、ゆるゆると上がる。


「……なぜ、笑う」

「全部、話せたんだなって、思って……」


 サヴジの問いに、コトネが答える。


 何も、わからなかった。何も、知らなかった。何も、できなかった。

 でも、今は違う。


(ちゃんと、知った。願いが、叶った。皆に会えて、話せた)


 胸の中で泣くエリンが。

 笑みを返してくれたフェリカが。

 唇を噛み、それでも自分を見つめてくれるサヴジが──


(なんて言えば、いいんだろう。すごく、うれしくて、温かくて、いっぱいで……)


 その想いを表す言葉が、わからない。名前があるのかも、知らない。

 それでも、その温かさを胸いっぱいに感じながら、コトネはゆっくりと顔を上げた。

 

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