フェリカ:「あなた」
「すまない、俺は少し席を外す」
朝食の後、侍従に呼ばれサヴジは席を外した。
北国ルーシアの冬は長い。
春は、そんな長い冬が開け、物事が動き出す季節ということもあり、皇太子であるサヴジも責務が多いのだろう。
「ねえコトネ! エリンね、新しい果実水のレシピを思いついたの」
「どんなの?」
「さっき中庭でとってもきれいな青色の花が咲いてたわ。あれ、レモンを絞ると赤色になるんだって」
「青が赤に……? 魔法みたい」
「そうでしょう!? 作ってあげるから、待ってて!」
勢いよく立ち上がると、エリンはそのままパタパタと通路へと走っていった。
足音が遠ざかり、静かになった朝食の間には、中庭からだろう、鳥の声が柔らかく響く。
フェリカとふたりきりになった朝食の間で、コトネはテーブルに置かれたティーポットから、自分のカップへと紅茶を注ぐ。
「フェリカ、おかわりは?」
「そうね、いただこうかな」
「それじゃ──」
こぽぽぽ、と慣れた手つきで紅茶を注ぐコトネを微笑ましく見つめながら、フェリカは切り出した。
「さっきの果実水の話、面白そうね」
「すごいよね、青が赤になるなんて……どんな風に変わるんだろう」
(確か、酸の効果で色が変わるのよね)
いつのことだったか、どこでだったか、見聞きした記憶が頭をよぎる。
──が、せっかくエリンがコトネを驚かせようとしているのだから、秘密にしておくのがいいだろう。
そう考え、フェリカはカップを手に取りながら、少し微笑む。
青が赤に様変わりするように──
(コトネもまた、誰かを選べば変わっていく)
青の果実水が赤に変わるよりは緩やかな変化ではあるが、関係性は、確実に変化していく。
そんなことを思っていると、おずおずとコトネが切り出した。
「──ねえ、フェリカ」
「なあに?」
「後一年で、……婚姻の儀でしょう?」
王位継承の話は、二人にとって軽くない問題だ。
ほんの少し言いよどむ様子にコトネの不安が感じられ、ゆっくりと優しく頷き同意を示すフェリカ。
「そうね。後一年だなんて、とても早く感じるわ」
「どうして、サヴジやエリンは、あんなに迷いがないんだろう」
「……前の皇貴は南の国を選んだわ。それで地脈が南へと傾いたでしょう?」
「うん」
「そのせいで、北の国は冬が長く続いたのよ」
地脈の流れは、天候にも影響を及ぼす。
北国ルーシアにとって、冬が長引けはそれだけ収穫は減り、国が疲弊する。
「その前は、北が選ばれたでしょう? だから──」
「地脈が北へと傾いた……だよね」
「ええ、そうよ」
このときは、南の国サンティエでは日照が短くなり、気温も下がった。
選ばれなかった側の国にも地脈の恩恵は届くが、確実に弱いものになる。
(唯一の例外となるのが、西の国を選んだケースだけど……)
この場合は地脈がまっすぐに西に向かい、北と南へ同時に流れる。
そのため、いの一番に地脈が流れるときに比べれば幾分弱まるものの、選ばれず最後になるときとは段違いだ。
「ふたりとも、国を背負い、次の王になる立場だもの。どうしてもコトネに選んでほしいと思うのでしょうね」
そう言って、フェリカは一瞬、僅かに目を伏せる。
(――私は、コトネに選ばれても王にはなれない)




