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「それは──、うん」

「でしょう? エリンね、コトネがエリンのこと好きなの、わかってるもん」


 ぱあっと顔を輝かせ、背中に回した手にぎゅっと力をこめるエリン。

 

 コトネも、エリンがコトネのことを好きなの、わかってるでしょう? 

 と、体全体で気持ちを示しながら楽しそうに跳ねる声に、コトネもつい、頷かされる。

 

 エリンの言葉の端々には、自信と愛情がこもっていて、まぶしいほどだ。

 だからこそ、少し不安になってしまい、コトネは言葉を選びながら切り出した。


「でもね、私……」

「なあに?」

「好き、は、好き──だけど、……なんて言えばいいのかな」

 

 未性別なのだから、自分以外はすべて「異性」だ。

 サヴジも、エリンも、フェリカも、皆そう。


 好きか嫌いかで言えば、もちろん「好き」になる。


 ──が、果たしてその「好き」は、エリンが自分に向けてくれている「好き」と同じなのだろうか。

 

 恋愛というものは、コトネも知っている。

 ただ、それはあくまでも「そういうものがある」という知識としてのもの。


 話に聞いたことはあっても、実際に体験したことはない。


 だからこそ、自分の「好き」が、恋愛としての好きなのか。また、エリンの「好き」がどんなものなのか。


 コトネには「好き」の種類や、深度がわからない。

 

「私はエリンも、サヴジも、フェリカも、……皆、好きなんだ。それで、いいのかな」

 

 それぞれの「好き」は、少しずつ違う。

 どれも特別ではあるが、その違いをしっかりと理解に落とし込むには、まだ経験も知識も足りない。


 迷いながら告げるコトネに、


「いいのよ、だってコトネがエリンのことを好きなことに変わりはないんだもの」


 こともなげに明るく笑うエリン。

 

「だからね、エリンとコトネなら絶対、絶対、ぜーったい大丈夫よ」

「エリン……」

「いつでも、迷ったら今みたいに教えて。そしたらエリンがこっち! ってコトネの手を引っ張ってあげるから」


 その言葉を聞いた瞬間、ふと、ある日のことを思い出した。


 以前、サンティエでの交流会として、ピクニックに行ったことがある。

 

 香り高い洋ナシのムース。

 とろけるような甘さのメロンのジュレ。

 宝石のようにつやめくイチゴをふんだんに使ったパイ。

 ドライフルーツとナッツがぎっしり詰まったパウンドケーキ。

 

 ──すべてを覚えているわけではないが、恐らく30種ほどはあったのではないだろうか。

 

 次から次へとバスケットから並べられる、サンティエの果実をたっぷり使ったデザートを前に、コトネをはじめフェリカ、サヴジまでもがどれから手を付けるか迷う様子を見せた。


 そこで迷う様子もなく「これ!」と手を伸ばしたのはエリン。

 オレンジを皮ごとカットし丁寧に煮詰め、チョコをかけた菓子をつまむ。


「最初はフレッシュなものの方が、繊細な味わいを楽しめると思うが」

「でも今エリンはこれが食べたいの」

 

 熱々の紅茶に口をつけ、マリアージュを楽しみ、満足そうにうなずく。


「コトネも食べて、これすっごくおいしいんだから」


 そう促されエリンに倣うと、確かにおいしい。

 ほろ苦いながらも華やかな香りのチョコと、煮詰めたからこそのオレンジの甘さが、紅茶と合う。

 

「ね! おいしいでしょ? 絶対これだと思ったんだ!」

 


***


 

 懐かしい気持ちになり、コトネの頬が柔らかく緩む。

 あのときも、エリンはこうして、迷う自分の手を引いてくれた。


 けれど、


(性別も、王としての覚悟も……まだ決められない)


「だから、エリンとコトネなら、絶対、絶対大丈夫!」


 その気配にエリンは気づかず、ぎゅっと手を握って微笑む。

 コトネは胸の奥で、小さく揺れる感情を抱えたまま──、ただ、頷くしかなかった。

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