エリン:「コトネ!」
「コート―ネー!」
朝食に向かおうと通路に出た途端、エリンが駆け寄り、勢い余ってコトネに抱き着いた。
ふわりと金髪が揺れ、それと同時にさわやかなオレンジの香りがして、思わずコトネは目を細める。
(エリンはいつも、いい香りがするな)
南の国サンティエは果物が豊富で、朝には果実水を飲む習わしがあるらしい。
ベッドの上でそれを口にし、乾いた体を潤してから一日を始めるのだとか。
だからだろうか、エリンからはいつも、甘くさわやかな香りがした。
「ね、ね、エリンね、昨日コトネの夢を見たのよ」
今朝もその風習に倣い、元気いっぱいといった様子のエリン。
目をキラキラと輝かせ、どんな夢なのか聞いてと言わんばかりの笑顔でコトネを見上げてくる。
「どんな夢?」
「コトネと一緒に、エリンの葡萄園をお散歩するの!」
果実で有名な国というだけあって、サンティエでは王家の人物もそれぞれに果樹園を所持しており、エリンは葡萄園を任されている。
交流会のときに皆で摘んだあの葡萄は、ワインに仕立てられた。
婚姻の儀には、それが供されることになっている。
「コトネね、すごくかっこよかったわ。腰に剣を差して、エリンの手を引いてくれて」
「黒髪を高く結い上げて、王冠を被って」
「エリンのためにワインを開けてくれたの!」
頬を赤く染め、恥じらいながらもまっすぐに自分を見つめてくる。
恥ずかしいから、と目をそらすこともない。
言葉に詰まることも、誤魔化すことも、ない。
いつだってまっすぐで、自分の気持ちに正直なエリンは、まるで太陽のようだ。
明るく元気でオープンなのが南の国の気質だというが、王家だからか。
それともエリンだからか。
「エリンね、コトネは絶対素敵な王様になると思うわ」
「そう、かな?」
(誰を選ぶのか、どの性別を選ぶのか)
(……まだそれも決められないでいるのに、私はちゃんと王としてやっていけるのかな)
王になって、国を統治する。
それがどれほどの重責なのか、考えただけで眩暈がしそうだ。
皇貴として伴侶を選ぶ責任ですら押しつぶされてしまいそうだというのに。
何より、決断を下したとしても、それで終わりではない。
むしろ、そこから新たな性別と役割を担い、人生が始まるのだ。
「絶対よ、だって、エリンがそう思うんだもん!」
自信たっぷりな言葉で、迷いの暗雲にぴかりと日が差したような気がし、ふわりと笑みが浮かぶ。
「エリンはコトネが好き。コトネも、エリンが好きでしょ?」




