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「……あの時も」
ぽつりと、サヴジが呟いた。
「お前は迷ってたな。演奏会か、それとも先に花噴水か」
不意に向けられた言葉に、まるで心を読まれたようでコトネは目を瞬かせる。
あの時サヴジは、エリンと話をしていたはずだ。
フェリカの提案を受け、どうするべきかと考えていた自分とは話をしていない。
──それなのに、迷っていたことを見抜かれた。
「だから、俺が決めた」
8年前も、サヴジは全体を見て物事を決め、自分の意志を周囲に伝えることをためらわなかった。
今も、その声音にも、真っすぐに人を見る視線にも、何1つ揺らぎはない。
「……今も変わらないな」
(15になったら誰かと結婚をするということはわかっていたけれど──)
当時は、15歳というのは遥か未来のことのように感じていた。
14歳になる頃には、精神的にも成長し、迷いなく伴侶を決められる。そうして婚姻の儀に向け、余裕をもって準備を進めていくのだと。
──なのに14歳になった今でも、自分の心は何1つ決まっていない。
「いつだって、お前は迷う。だから、俺が決める」
「でも──」
「ちゃんと考える、と言ってもうどれだけ経つ。何1つ心が決まらないまま、婚姻の儀を迎えるつもりか」
「……考えてはいるよ。ただ、自分でも──どうしたらいいか、……わからなくて」
情けないことを言っているのだということは、自分でもわかるのだろう。
後半にかけいたたまれなくなったのか、うつむいてしまうコトネに、サヴジは腕を組み小さくため息をついた。
「俺は王子で、お前は皇貴。婚姻は、お前ひとりの問題じゃない。様々な国や人々の生活にも大きくかかわって来る」
「……うん」
「お前ひとりだけの問題ではない。──ならば、お前がひとりで抱えることもないだろう」
元々一国の王子や王女として生まれ育ったサヴジ、エリン、フェリカとは違い、コトネは平民の生まれ。
ある日突然、自分が未性別であることが判明し、理由もわからぬまま半ば強制的に王族に迎えられた。
家族と引き離され、背負わされたのは──国の命運。
慣れない生活。
慣れない称号。
そして、定められた期限。
自分の決断が、国や多くの人たちの運命を左右するという責任。
──その日から、コトネの日常は大きく変わった。
そんなコトネが、迷うのは仕方のないことかもしれない。
「お前は俺を選べばいい。あとは全部、俺が引き受ける」
だからこそ、「これが正解だ」と力強く言うサヴジの言葉に、コトネはどこか安らぎを覚えてしまう。
けれど同時に、その安心感に対する迷いと、罪悪感も沸いてくる。
そうしてまた、コトネは言葉に詰まってしまうのだ。




