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工房から出ると、既に日は傾きかけていた。
夜間灯に鈍い銀色の光が灯り始め、遠くには渡り鳥の群れだろうか、列をなして飛ぶ鳥が見える。
「そろそろ聞こえて来るわ」
「え、何が?」
辺りを見回した途端、聞こえてきたのはオルゴールのような音色と、鐘の音。
その音の出先を探して辺りを見回すコトネに、フェリカが少し先の建物を指差す。
「あれは、時計台から聞こえてくるの」
「そうなんだ……毎日?」
建物の上部に、鐘が揺れているのが見える。
その奥にかすかに見えるのが音を奏でる仕掛けなのだろうかと、コトネは目を凝らす。
「ええ、そうよ」
ヤコクでは、──少なくとも、コトネの周りではそういったことはなかった。
コトネの部屋には、窓辺に置かれた日時計があり、それでおおよその時間を知る。
それ以外は、侍女が食事を運んできてくれたり、迎えに来てくれたりするのが主で、決まった時間を知らされることはない。
ルーシアでは、王宮の内部に大きな砂時計のようなものがあったのを覚えている。
城下町にも同じようなものがあり、人々はそれを目安に店を開き、火を落とすのだとサヴジが話してくれた。
サンティエでは、広場の噴水時計が時を知らせるたび、市場から歓声が上がっていた。
特に昼時は、その時計の音を合図にあちこちから人が集まり、活気が増していたものだ。
「……国によって、本当にいろんなことが違うんだね」
ほう、と思わずため息が漏れる。
交流会で他国を知った気になっていたが、こうしてお渡りをすることで、その地を──そこに住む人々や、サヴジ、エリン、フェリカのことを、知ることができたような気がする。
「それは本当に、そうね」
カン、キン、と金属を叩く音が通りまで聞こえてくるのは、まだ工房で職人たちが仕事を続けているからなのだろう。
そこで作られているのは、フェリカが話してくれた蹄鉄だろうか、それとも時計の部品だろうか。
「報告で読んだのだけれど、ルーシアでは先日、初雪が降ったそうよ。そろそろ冬の始まりね」
「え、もう!?」
数ヶ月前、ルーシアで過ごしたときは、遠乗りをして汗ばむほどだった。
日は温かく、窓から入る風も心地良いものだったのに、もう雪が降ったとは──
(サヴジ、どうしてるかな)
ルーシアの冬は、長く、厳しい。
見渡す限り一面が雪と氷に覆われると聞く。
だからこそ、ルーシアで行われる交流会は、今まですべて冬以外の時期が選ばれていた。
薬草園で問題が起こったときも、サヴジはひたすら問題解決と対処のために動いていた。
本格的に冬に入るともなれば、その慌ただしさや大変さは、あのときの比ではないのかもしれない。




