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銀細工工房へ足を踏み入れると、ほのかに熱を帯びた金属の匂いが鼻をくすぐった。
外とはガラリと雰囲気が変わったのが不思議で、ついきょろきょろと周りを見回すと、壁際には細かな工具が整然と並び、窓辺には磨き途中なのだろう銀細工が淡く光を弾いている。
「これが、銀粘土よ。こねて、形を作って焼くの」
「フェリカが今つけてるブレスレットも、そうして作ったの?」
「ええ。コトネは何を作ってみたい?」
「うーん……」
コトネが耳につけている飾りは、ヤコクで定められているものだ。
それ以外には、フェリカのようにブレスレットをつけているわけでもないし、サヴジのように指輪をしているわけでも、エリンのようにネックレスをしているわけでもない。
「なんでもいいのよ、身につけるものでも、側に置くものでも」
作るという作業はとても面白そうだ。
ただ、何を作りたいかと問われても、すぐには答えが浮かばない。
コトネの部屋には、最初から必要なものが揃っていた。
足りないと思ったことも、何かを欲しいと願ったことも、これまでほとんどない。
本当は他にも欲しいものや、作ってみたいものがあるのかもしれないが、コトネにはまだそれがよくわからなかった。
「──そうね、文机に置く文鎮とか、髪飾りとかでもいいわ」
文鎮は、ひとつある。
そこでもうひとつ作っても、きっと持て余してしまう。
それならば、髪に挿すものが良いかもしれない。
ただ、それはつけてしまえば、自分では見えない。
「髪飾りを作ったら、……フェリカ、つけてくれる?」
コトネの言葉に、フェリカは一瞬だけ言葉を止めた。
「……私が?」
「うん。ダメ、かな……?」
「そんなことはないわ、でも……どうして? 作ったなら、つけたくない?」
「だって、自分じゃ見えない。でも、フェリカがつけてくれたら、見られるから」
フェリカはしばらくコトネを見つめ、それから困ったように小さく笑った。
「そういう理由で贈り物をされるのは、初めてかもしれないわ」
けれど嫌ではないのだろう。
そっと銀粘土へ視線を落とすのを見て、
「じゃあ……いい?」
「ええ、作ってくれるなら、喜んでつける」
「本当!?」
「もちろん。コトネがどんな素敵なものを作ってくれるか、楽しみだわ」
そう言われて、今度はほんの少しだけコトネが困ったような顔になる。
「フェリカが付けてくれるのはすごくうれしい。……でもどうしたら素敵なものができるかな」
「いいのよ、コトネが作ってくれたものなら、きっと大切なものになるわ」
さ、始めましょう、とフェリカが銀粘土に手を伸ばす。
柔らかな銀色を見つめながら、コトネもそっと指先を伸ばした。




