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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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 銀細工工房へ足を踏み入れると、ほのかに熱を帯びた金属の匂いが鼻をくすぐった。

 外とはガラリと雰囲気が変わったのが不思議で、ついきょろきょろと周りを見回すと、壁際には細かな工具が整然と並び、窓辺には磨き途中なのだろう銀細工が淡く光を弾いている。


「これが、銀粘土よ。こねて、形を作って焼くの」

「フェリカが今つけてるブレスレットも、そうして作ったの?」

「ええ。コトネは何を作ってみたい?」

「うーん……」


 コトネが耳につけている飾りは、ヤコクで定められているものだ。

 それ以外には、フェリカのようにブレスレットをつけているわけでもないし、サヴジのように指輪をしているわけでも、エリンのようにネックレスをしているわけでもない。


「なんでもいいのよ、身につけるものでも、側に置くものでも」


 作るという作業はとても面白そうだ。

 ただ、何を作りたいかと問われても、すぐには答えが浮かばない。

 

 コトネの部屋には、最初から必要なものが揃っていた。

 足りないと思ったことも、何かを欲しいと願ったことも、これまでほとんどない。

 本当は他にも欲しいものや、作ってみたいものがあるのかもしれないが、コトネにはまだそれがよくわからなかった。


 「──そうね、文机に置く文鎮とか、髪飾りとかでもいいわ」


 文鎮は、ひとつある。

 そこでもうひとつ作っても、きっと持て余してしまう。


 それならば、髪に挿すものが良いかもしれない。

 ただ、それはつけてしまえば、自分では見えない。


「髪飾りを作ったら、……フェリカ、つけてくれる?」


 コトネの言葉に、フェリカは一瞬だけ言葉を止めた。


「……私が?」

「うん。ダメ、かな……?」

「そんなことはないわ、でも……どうして? 作ったなら、つけたくない?」

「だって、自分じゃ見えない。でも、フェリカがつけてくれたら、見られるから」


 フェリカはしばらくコトネを見つめ、それから困ったように小さく笑った。


「そういう理由で贈り物をされるのは、初めてかもしれないわ」


 けれど嫌ではないのだろう。

 そっと銀粘土へ視線を落とすのを見て、

 

「じゃあ……いい?」

「ええ、作ってくれるなら、喜んでつける」

「本当!?」

「もちろん。コトネがどんな素敵なものを作ってくれるか、楽しみだわ」


 そう言われて、今度はほんの少しだけコトネが困ったような顔になる。


「フェリカが付けてくれるのはすごくうれしい。……でもどうしたら素敵なものができるかな」

「いいのよ、コトネが作ってくれたものなら、きっと大切なものになるわ」


 さ、始めましょう、とフェリカが銀粘土に手を伸ばす。

 柔らかな銀色を見つめながら、コトネもそっと指先を伸ばした。

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