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路面のすべてがレンガで舗装されているイエリでは、乗合馬車も多く走っている。
カツ、カツ、と蹄鉄の音と、車輪が規則的に回る音を聞きながら、コトネとフェリカはのんびりと歩道を歩く。
「それで──サンティエではお着替え会をしたんですって?」
ルーシアで熱を出したことがフェリカとエリンに伝わったように、お渡りでのことは各国にも詳細が届く。
「うん、そうなんだ」
「以前エリンが演者として参加したいと言っていた、アレよね?」
「うん」
「……ということは、エリンは諦めていないということね」
うーん、と首をかしげるフェリカを見て、思わずコトネは笑ってしまう。
実際にエリンは、『そうよ、だから次の歌劇祭なの。それならサヴジにも時間はあるし、フェリカだって練習できるわ』と笑っていたのだ。
「歌は苦手なのよね……」
「それも、『それにどうしても歌が苦手なら、かわりにエリンが歌うもの』って言ってたよ」
「……仕方ないわね」
その途端、吹き出すコトネを見て、フェリカが首をかしげる。
「どうしたの?」
「絶対、フェリカはそう言うと思ったんだ。『仕方ないわね』って。それで、サヴジは反論するけど結局押されちゃうんだろうなって、さ」
楽しそうに言うコトネの言葉に、想像ができたのだろう。
つられてフェリカも笑いながら頷く。
「そうね、きっとそうなると思うわ」
「だから、次の歌劇祭では──」
言いかけて、停まる。
次の歌劇祭の頃には、コトネの性別も決まっているのだ。
三人の内の誰かと契りを交わし、その国に移り、そこでどんな生活をしているのだろうか。
黙り込んでしまったコトネに、
「……それで、お着替えをした感じは、どうだったの?」
フェリカが優しく続きを促す。
あ、と顔を上げ、小さく呼吸をすると、
「うん、王子の衣装を着たとき、エリンは似合うって言ってくれたよ。サヴジの衣装も、フェリカの衣装も、エリンの衣装も着てみたんだ」
「確か、私の役は司祭様、なのよね」
「うん。すごくきれいな布でできていて、つい見惚れちゃった。フェリカにぴったりだって思った」
ただ、自分にはあまり似合わなかった。
サイズが合わなかったこともあるけれど、衣装に着られているような気がしてしまった。
そう付け足す。
「サヴジが、草原の王でしょう?」
「そうなんだ、重厚で格好いい衣装だったよ。サヴジにすごく似合うだろうな」
ただ、自分には重くて、大きかった。
王子の衣装の方が、王の衣装よりはしっくりきたかもしれない。
コトネの言葉に、フェリカは何度か頷く。
「そしてエリンが、トケイソウの乙女ね」
「可愛くてきれいな衣装だった。衣装のイメージも、エリンにすごく合う」
ただ、自分には少し違和感があった。
素敵な衣装だけど、普段肌を出さないからかな、なんだか落ち着かなかった。
コトネの言葉に、フェリカは小さく目を細める。
石畳を打つ蹄鉄の音が、規則正しく二人の間を通り過ぎていった。




