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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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2

***


 ふう、と静かにコトネは息を吐く。

 まだ体に、先程の香の香りが残っているような気がする。


(不思議な部屋だったな。歩くたび、しゃらん、と音がした)


 爪先をつく。それから、踵を降ろす。

 そのひとつひとつの感覚を、丁寧に思い出す。


 (それから──)


 『コトネの間』と書かれた、あの建物。

 物心ついた頃から、自分はこの離れで生活をしている。

 今日出向いたあの場所も、あの中庭も、これまで一度も行ったことはない。


「……それとも、もっと小さい頃に住んでいた場所なのかな」


 記憶を探ろうとするが、思い出せない。

 覚えている一番古い記憶は、この部屋でぼんやりと天井を眺めていたときのことだ。


「でも──私にも」


 そこまで呟いて、一瞬、言葉に詰まる。

 少し考えて、ためらって、

 

「……家族、……がいたんだよね?」


 さらに記憶をさらえば、微かに温かな空気がよみがえるような、気もする。

 けれど、それ以上に胸の奥がすうっと冷えるような、寂しいような、……そんな気配が押し寄せてきて、コトネは小さく首を振って考えるのをやめた。


(あの部屋は、なんだったんだろう)


 再び、例の建物へと意識が移る。

 苔生した石橋。凛と張られた赤布に、鈴。そして、『コトネの間』と書かれた札。

 

 どれも、知らない。わからない。見たことも、ない。


 わかっているのは、あの部屋については『今知るべきことではない』。

 そして、『いずれ、知るときが訪れる』のだということ。


 それならば、今は考えるべきときではないのだ。


(これから、どんな儀式をするんだろう)

(……でも、『今知るべきことではない』って言ってた)

(それなら──)

(フェリカのところへのお渡りは、いつになるんだろう)

(あと何回、お渡りができるんだろう)


 ひとつ疑問を沈めれば、また次から次へと疑問が浮かんでくる。

 けれど、恐らくそれも、『今知るべきことではない』のだ。


 ふう、とひとつ、細く長く息を吐く。

 そうっと、目を閉じる。


 爪先をつけて、踵を降ろす。


 ──音は、しない。けれど、耳の奥で、あの『しゃらん』という音が聞こえた気がした。


 

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