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儀式を終え、再び導師に導かれ小部屋を出る。
不思議と、戻るときはしゃらん、という音は聞こえなかった。
通路を歩いていると、ひゅう、と風が吹く。
その風に乗って、先程嗅いだ香の香りがふわりと立ち上り、コトネは小さく息を吸い込む。
──その弾みに、ふと、中庭の一角にある小さな建物に気が付いた。
コトネが普段過ごしている離れと同じくらいか、それよりもわずかに大きいか。
周りをぐるりと池に囲まれ、苔生した細い石橋がかかっている。
橋と橋の間を封じるかのように、赤い細布が張られ、真ん中には銀の鈴があり──
(……え)
その先、扉のすぐ横に貼られていたのは「コトネの間」と記された札だ。
ただその札も、札に記された墨の薄さから見ても、つい最近記されたものではない。
「何事でしょうか」
歩みを止めてしまっていたコトネに気付き、導師が振り返る。
「あ、の──、あの建物って……」
視線で示すと、導師も一瞬そちらをちらりと見た──ような気がする。
目深にかけられた布のせいでわからないが、僅かに間があった。
「コトネの間、って、……書いてある、から──」
「それは、今知ることではありません」
「あ……」
“今ではない”
そう言われると、不思議とそれ以上聞いてはいけない気がした。
けれど、“コトネの間”という響きだけが、胸の奥に静かに残る。
導師の言葉に、ゆるゆると頷きながら、コトネは導師の元へと歩を進め始めた。
「いずれ、知るときが訪れます。それまでは知るべきことではないのだとお考え下さい」
「……わかりました」
では、と前置き、導師が歩き始める。
ひゅう、と再び風が吹いた。
しゃらん、と微かに鈴の音がする。
けれど、コトネは振り返らず、ただ導師の足元に視線を落とし後に続いた。
***
「皇貴様、お戻りになりました」
「滞りなく」「滞りなく」「滞りなく」「滞りなく」
小部屋に導師の声が響くと、部屋の四隅から諾の声が届く。
ほどなくしてするすると四面に掛けられていた布が上がり、隅からそれぞれ鈴、紐、石輪、布飾りを携えた白装束の人物が集い始める。
鈴は鈍い銀色。紐はしっとりとした艶のある、黒。石輪は滑らかな光沢。布飾りには淡い朱が織り込まれていた。
「何処に」
導師の問いかけに、再び「此方に」と四人が声を揃え、手にしたそれぞれの品を掲げてみせた。
そのひとつひとつを恭しく受け取り、ひと揃えの飾りへと仕立てる。
出来上がったそれに四人が頭を下げると、最後に導師が深く礼をささげ、部屋を後にした。
四人は四隅へと下がる。
再び布が降ろされ、後には、ただ静寂だけが残った。




