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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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1

 儀式を終え、再び導師に導かれ小部屋を出る。

 不思議と、戻るときはしゃらん、という音は聞こえなかった。


 通路を歩いていると、ひゅう、と風が吹く。

 その風に乗って、先程嗅いだ香の香りがふわりと立ち上り、コトネは小さく息を吸い込む。


 ──その弾みに、ふと、中庭の一角にある小さな建物に気が付いた。

 

 コトネが普段過ごしている離れと同じくらいか、それよりもわずかに大きいか。

 周りをぐるりと池に囲まれ、苔生した細い石橋がかかっている。

 橋と橋の間を封じるかのように、赤い細布が張られ、真ん中には銀の鈴があり──

 

(……え)


 その先、扉のすぐ横に貼られていたのは「コトネの間」と記された札だ。

 ただその札も、札に記された墨の薄さから見ても、つい最近記されたものではない。

 

「何事でしょうか」


 歩みを止めてしまっていたコトネに気付き、導師が振り返る。

 

「あ、の──、あの建物って……」


 視線で示すと、導師も一瞬そちらをちらりと見た──ような気がする。

 目深にかけられた布のせいでわからないが、僅かに間があった。


「コトネの間、って、……書いてある、から──」

「それは、今知ることではありません」

「あ……」

 

 “今ではない”

 そう言われると、不思議とそれ以上聞いてはいけない気がした。

 けれど、“コトネの間”という響きだけが、胸の奥に静かに残る。

 

 導師の言葉に、ゆるゆると頷きながら、コトネは導師の元へと歩を進め始めた。

 

「いずれ、知るときが訪れます。それまでは知るべきことではないのだとお考え下さい」

「……わかりました」


 では、と前置き、導師が歩き始める。


 ひゅう、と再び風が吹いた。

 しゃらん、と微かに鈴の音がする。

 けれど、コトネは振り返らず、ただ導師の足元に視線を落とし後に続いた。



 ***



「皇貴様、お戻りになりました」

「滞りなく」「滞りなく」「滞りなく」「滞りなく」


 小部屋に導師の声が響くと、部屋の四隅から諾の声が届く。

 ほどなくしてするすると四面に掛けられていた布が上がり、隅からそれぞれ鈴、紐、石輪、布飾りを携えた白装束の人物が集い始める。


 鈴は鈍い銀色。紐はしっとりとした艶のある、黒。石輪は滑らかな光沢。布飾りには淡い朱が織り込まれていた。

 

「何処に」


 導師の問いかけに、再び「此方に」と四人が声を揃え、手にしたそれぞれの品を掲げてみせた。

 そのひとつひとつを恭しく受け取り、ひと揃えの飾りへと仕立てる。


 出来上がったそれに四人が頭を下げると、最後に導師が深く礼をささげ、部屋を後にした。


 四人は四隅へと下がる。

 再び布が降ろされ、後には、ただ静寂だけが残った。

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