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──それから、数時間後。
食事を終えて部屋に戻り、窓の外を眺めているとドアがノックされた。
「コトネ様、お届け物が届いております」
「届け物?」
「はい。ルーシアと、イエリからです」
侍女が運んできたのは、2つの包み。
ひとつは深い青の布で丁寧に包まれた、ずっしりと重みのある箱。
もうひとつは淡い生成りの布に包まれた、小ぶりで繊細な包みだった。
礼を言って受け取ると、侍女はにっこりと微笑む。
おやすみなさい、良い夢を。
扉を閉める間際、そう声をかけられ、コトネは目を瞬かせる──が、なんとか頷く。
(良い夢を……)
そんな風に声をかけられたのは、初めてだ。
(──私もそう言えたら良かったな)
確か、今の侍女の名前はアリシエと言ったはずだ。
夕食のとき、珍しい果物を前に、どう食べるか迷っていたら声をかけてくれた。
(明日は、私からも言ってみよう)
テーブルに置かれたふたつの包みに視線を落とす。
青い布の方は、サヴジだろう。生成りの布は、フェリカのはずだ。
どちらから開けるかほんの一瞬迷い、僅かに近い方にある青い布に手を伸ばす。
しゅるり、とほどくと木製の箱が入っていた。
手に取ると、その下に一枚の紙があるのに気付く。
『必要なら使え』
書かれているのは、たった一言。
黒いインクの跡を指でなぞると、筆圧の強さが感じられる。
「これって……サヴジの、字……?」
箱を開けた瞬間、嗅ぎ覚えがある薬草の香りがふわりと広がる。
以前、サンティエでの交流会で、半日ほど草原で過ごした。
天気も良く風が気持ち良い日だった──が、その日の夕方、コトネは顔や手などが日焼けで真っ赤になったことがある。
ヒリヒリとした痛みと熱感が引かず、氷水袋が手放せなくなった。
熱が出て眠れなくなるかもしれないと思ったとき、サヴジが『使え』と手渡してくれたのが、小さな器に入ったバームだ。
火傷や皮膚の腫れ、切り傷などにも良いとされるハーブから作られたもので、それのおかげで熱感も引き、翌日を楽しく過ごすことができた。
(──この香り、屋内薬草園の中で嗅いだものも入ってる……?)
指先でそっとすくい、手の甲に乗せる。
塗り伸ばせば、体温でほろりとほどけ、ふわりと澄んだ香りが立ち上った。
(もうしばらくしたら、ルーシアは本格的な冬になる。……サヴジ、きっともっと忙しくなるんだろうな)
地脈が南へ傾いている今、ルーシアの冬は以前より長い。
だからこそ、冬支度も、薬草の備蓄も欠かせないのだとサヴジは言っていた。
(もし地脈が北へ傾けば、それも──変わるんだよね)
そのかわり、トケイソウの乙女の話のように、再びサンティエが凍り付いてしまうかもしれない。
どれほどの影響があるのか想像もつかないが、果たしてそのとき、サンティエはどうなるのだろうか。
エリンは、そのときはまた皆で祈ると言っていた。
(だけど──)
地脈がどちらかに寄れば、もう片方はその恩恵を受けにくくなる。
誰かが笑えば、誰かが苦しむ。
そんな未来を選ばなくてはいけないのだ。
「……ふう」
考える内に、呼吸を止めてしまっていたらしい。
息苦しさを覚え、コトネは大きくため息をつき、息を吸う。




