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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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 「それでね、最後がコトネのよ」


 エリンの声に、コトネははっと顔を上げる。

 指し示された先にあったのは、深い藍色を基調とした衣装だった。

 

 サヴジのものが夜の闇なら、こちらの衣装は宵の口。

 重厚ではないが、どこかしなやかさを感じさせる。

 胸元には銀糸で装飾が施されており、草の意匠が細く伸び、ひとつの紋をかたどっていた。

 華やかではあるものの、エリンやフェリカの衣装とは違い、裾は大きく広がらず、全体的にすっきりとしている。


「素敵な衣装でしょう?」

「うん」

「絶対コトネに似合うわ」


 エリンが嬉しそうに言う。


「そう……かな」

「そうよ、だってコトネはエリンの王子様なんだもの」


 (王子……)

 

 一瞬、思考がそこで止まる。

 

 素敵な衣装だとは、思う。

 ただ、自分がその衣装を着た姿が想像できない。

 かといって、エリンやフェリカの衣装を着た姿を想像できるかと問われれば、それもまた別の話だ。


「ね、着てみて?」


 エリンがくいっとコトネの手を引いた。


「でも、サイズが合うかな」

「大丈夫よ、だって次の歌劇祭で着たくて、皆に合わせて作ったんだもの」

「えっ、だってサヴジは完璧に仕上げるには時間がなくて、フェリカは歌が得意じゃない、って──」

「そうよ、だから次の歌劇祭なの。それならサヴジにも時間はあるし、フェリカだって練習できるわ」


 それから軽く息を吸い、楽しげに一節歌ってみせると、


「それにどうしても歌が苦手なら、かわりにエリンが歌うもの」


 あっけらかんと言われて、思わず笑ってしまう。

 きっとサヴジは反論するも押され、フェリカは仕方ないわねと付き合うことになっただろう。

 

「絶対似合うわ、ね? それとも、違う衣装を着てみたい?」


 コトネの顔を覗き込むようにして、少しだけ首を傾げるエリン。


(どれを着たいかって言われると……わからない)


「それなら、最初にこれを着て、それから次どうするか考えればいいわ」


 ためらう間もなく、衣装を手渡される。

 そのまま部屋の片隅にある小部屋へ案内され、


「着方がわからなかったら言って、手伝うから」


 にっこりと笑ってぱたんと扉を閉められた。


 手渡された衣装を見下ろす。

 ハリのある深い藍色の布で仕立てられた、王子の装束。

 それは、見た目よりもずっしりとしているように感じられた。


 (これを、着るんだ……王子の衣装を)


 そう思った瞬間、わずかに指先が強ばった。

 けれど――ゆっくりと袖を通す。


 布は思っていたよりも柔らかく、するりと腕に馴染んだ。

 

 前を合わせ、紐を結ぶ。

 ひとつ、ひとつ、形を整えていく。

 その途中で、ふと手が止まる。

 サイズは、エリンが言った通りぴったりだ。しかし──


 (……本当に、似合ってるのかな)


 確かめる術はない。

 胸元に視線を落とす。

 それから、ぎこちなく身体を動かしてみる。

 こういった装いが初めてなこともあって、なんだか落ち着かない。


 ――そのとき。


「コトネ? 大丈夫?」


 扉の向こうから、エリンの声がした。

 一瞬迷うが、衣装は整っている。あとは――扉を開けるだけだ。

 小さく深呼吸をすると、


「う、うん……もういいよ」

「開けるわね!」


 勢いよくドアが開けられる。

 その瞬間――エリンの表情が、ぱあっと明るく弾けた。


「――すごい……!」


 ぱん、と胸の前で手を合わせるとキラキラと目を輝かせる。


「なんて素敵な王子様なの!」


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