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「それでね、これがその衣装よ」
エリンが指し示すのは、壁にかけられた四着の衣装だ。
「これがサヴジ。草原の王役で――」
風にたなびく草を模したとされる王冠。
そして、夜の闇に溶け込むような、深い色のマント。
さらりとした風合いの裏地には、月と星が静かに輝いている。
肩から流れる布は重厚で、まるで大地の民すべてを背負い、統べる王のようだ。
「……サヴジに、似合いそう」
「そうでしょう? エリンもそう思うの」
だから絶対皆でやりたかったのに、と再び頬を膨らませる。
──が、すぐに気を取り直し、
「こっちがフェリカ。司祭様よ」
エリンの指が、次の衣装へと移る。
それは、白を基調とした、静かな一着だった。
やわらかな布が幾重にも重ねられ、光を受けるたび、淡く揺れる。
「司祭様はね、皆の願いをしっかり聞いて神様に届けるのよ」
「フェリカにぴったりだ」
胸元の細やかな模様に目を引かれ、近付く。
刺繍だと思ったそれに、指先を寄せて、止まる。
糸ではない。
幾重にも重ねられた薄布が、光を受けて揺れ、模様のように見えている。
ひらりと風に揺れた一瞬、それは祈りの言葉のように見えた。
「それで、これがトケイソウの乙女」
エリンが誇らしげに指し示したのは、ひときわ鮮やかな緑のドレスだった。
葉を模した布が幾重にも重なり、やわらかく広がっている。
細い弦が身体に沿うように刺繍されており、まるで生きているかのように絡みついていた。
胸元にはひときわ大きな、一輪の白い花。
幾重にも重なる花弁の中心には、時を閉じ込めたかのような宝石がひとつ、静かに輝いていた。
裾に向かうにつれて、まるで大地に根を張りながらも空へと伸びていく命のように、緑は深く、濃く変わっていく。
「ね、きれいでしょう?」
「うん。エリンが着たらすごくいいだろうな」
振り返るエリンの笑顔は、いつものようにまっすぐで、疑いがない。
細い弦ながらも力強さを感じさせる、大きな花。
その姿がまるでエリンのようで、素直にコトネは頷く。
「トケイソウはね、サンティエでは“時を戻す花”って言われてるのよ」
毎年この花が咲く頃になると、皆で失敗を振り返ったり、仲違いした相手に謝ったりするのだという。
そうして、わだかまりを解き、より良い未来を目指す。
そのための祭りが、サンティエの歌劇祭なのだそうだ。
「だから、失敗は怖くないわ」
「やり直せる……から?」
「そうよ。また凍りついても、また咲かせればいいの。皆で、何度でも」
(やり直せる……何度でも──)
その言葉が、胸のどこかに静かに留まる。
にっこりと微笑むエリンに、コトネはただ、小さく頷いた。




