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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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第五章:サンティエとトケイソウ


 ***

 

 エリンに連れられたどり着いた部屋の扉を開けると、色とりどりの衣装が並んでいた。


「わあ、すごい……!」

「でしょう? サンティエの歌劇祭では、皆素敵な衣装を着て楽しむの!」


 南の国に古くから伝わるという伝統衣装もあれば、華やかにレースをたっぷりとあしらったドレス。

 神々を模した荘厳な衣装や、村祭りでよく着られるという揃いの羽織。

 そして、各衣装に合わせた、様々な装飾品。

 

 あまりの鮮やかさに、コトネは思わず声を漏らしてしまう。


「エリンはね、皆で『トケイソウの乙女』を演じたかったのよ」

「どんなお話?」

「昔ね、サンティエは草原の国って言われたの。いつでも温かい風が吹く、緑豊かな国だから」


 衣装の間をゆっくり歩きながら、エリンが続ける。


「でも、あるとき、寒さで作物が全部だめになって……皆、どうしたらいいかわからなくなったの」


 地脈の流れは、天候にも影響を及ぼす。

 フェリカの言葉が思い出されて、コトネは僅かに視線を落とした。


「王様も、司祭も、どうにもできなくて――それで、時の神に祈ったんだって」


 くるりと振り返ると、


「そうしたらある日、王子の左手に光が差したの」


 ぐ、と握った手を見せるエリン。

 それから、ぱっと開く。


「すると、そこには一粒の種があったのよ」

 

 時の神からの贈り物だと受け止め、王子はその種をまく。

 凍り付いた土地で種が無事に芽吹けるよう、残されたわずかな蓄えを持ち寄り、皆で守った。


 そのおかげで小さな芽が顔を覗かせ、しっかりと大地に根を張る。

 やがて花が咲く頃には、凍り付いた時が戻り、大地に緑が戻り始めたという。


「……どうして、トケイソウの『乙女』っていうお話なの?」

「凍りついた世界の中で咲いたその花は、まるで祈る乙女みたいだったんだって。だから後に、その歌劇は『トケイソウの乙女』と呼ばれるようになったの」

 

 

 それから、サンティエでは『トケイソウの乙女』という話が語り継がれてきたのだそうだ。


「素敵なお話でしょう?」

「うん、……そうだね」

 

 ――時は戻された。

 そして、サンティエには今のように穏やかな気候が戻ってきた。

 

 (でも……)


 窓の外を見れば、先程まで真上にあった太陽は既に低く、外がオレンジ色に染まっている。

 日は登り、落ち、そうして季節は移ろっていく。


 「……」


 コトネは小さく息を吸い——ほんの一瞬だけ、言葉を探す。

 けれど見つからず、細く息を吐いた。

 

 そんな様子に、エリンが首を傾げる。

 どうしようかと一瞬迷うが、


 「……それでも、もし、──また凍りついたら?」


 コトネの問いに、エリンは迷わず頷いた。


「そのときは、また皆で祈るわ。だってサンティエはそうしてきたんだもの」

 

 再び凍り付く時が来たとき、途方に暮れてしまわないように。

 誰一人、凍えて苦しむことがないように。

 ――そう願って手を取り合う。

 

「それが、サンティエなの」


 まっすぐに見つめられ、何か言おうとするが言葉が出ない。

 

 それが、サンティエ。

 エリンの目には、迷いもなければ、疑問もない。

 夕日に照らされ、僅かな曇りもなく、キラキラと輝いていた。

 

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