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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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7


 しばらく歩いた先で、畑仕事をしていた女性にエリンが声をかけた。


「こんにちは!」

「あら、エリン様──その子……ミモ、ミモね! どこに行ってたのミモ!」


 名を呼ばれて、ぱたぱたと耳を動かし、子ヤギが女性の足元にすり寄る。


「ごめんなさい、目を離した隙にはぐれてしまったのね」

「そうみたい、街道の花壇にいたの」

「今日初めて外に出したの。きっとひとりじゃ戻れなかったわ。本当にありがとう」

「ううん」


 エリンはそう言って、するすると草のロープをほどく。

 ぶるん、と軽く体を震わせて、子ヤギは女性の側でまた草をはみ始めた。

 すっかり安心しきった様子に、エリンはにっこりと微笑むと、

 

「それじゃ、またね!」

 

 それだけ言って、くるりと背を向ける。

 

「さ、行きましょう、コトネ」



 ***



 「わあ……」


 そよそよと風が草原を吹き抜ける丘を越え、見えてきた西の湖の美しさにコトネは思わず声を上げる。

 湖面は太陽の光を受け、キラキラと輝く。

 あちこちから鳥の声が聞こえてきて、とても賑やかだ。


「さ、ここで休憩にしましょ」


 てきぱきと手慣れた様子で木陰にマットを敷き、ティーセットを整えるエリン。

 慌ててコトネも駆け寄り、バスケットを降ろす。


「すごく素敵なところだね」

「そうでしょう? 本当は次の交流会をここでしようと思ってたの」


 15になれば、婚姻の儀があることはわかっていた。

 

 けれど、こんなにも突然、事態が動き出すとは思っていなかった。

 エリンも、フェリカも、サヴジも──誰ひとり、これからどうなるのかは知らない。

 もちろん、それはコトネ自身も同じことだ。


(あと何回、お渡りができるんだろう。もう4人で会うことはないのかな)


 そう思った途端、胸の奥にひゅうと風が吹いたような気がして、コトネは小さく息を吐いた。


「皆で花冠を作ったり、ボートに乗ったりもしたかったわ」


(そういえば──)

 

 エリンの言葉に、ふと思い出す。

 

 湖でのピクニックに、収穫祭。

 花壇づくりに、年始めの歌劇祭。

 エリンは、サンティエのあちこちに皆を連れて行きたいと話していた。

 

 中でも歌劇祭には、「演者として参加したい!」と言ったものの、


 サヴジからは「完璧に仕上げるには時間が足りない」と言われ、

 フェリカからは「あまり歌は得意ではないの、ごめんなさい」と言われ、

 

 その薔薇色の頬を膨らませてすねていたことを覚えている。

 

「……ふふっ」

「どうしたの、コトネ」

「エリンが歌劇祭の話をしたときのことを思い出してたんだ」

「歌劇祭!」


 ぱんっ、と両手を合わせて立ち上がるエリン。

 危うく側の紅茶がこぼれそうになり、慌ててコトネが受け止める。


「そうよ、いいこと思いついたわ!」

「急に立ったら危ないよ」

「ごめんなさい、でも、すごく素敵なことを思いついたの」

「どうしたの?」

 

 目をキラキラと輝かせ、楽しくてたまらないといった顔で、すうっ、と大きく息をすうエリン。


「お着換え会をしましょう!」

 

 

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