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しばらく歩いた先で、畑仕事をしていた女性にエリンが声をかけた。
「こんにちは!」
「あら、エリン様──その子……ミモ、ミモね! どこに行ってたのミモ!」
名を呼ばれて、ぱたぱたと耳を動かし、子ヤギが女性の足元にすり寄る。
「ごめんなさい、目を離した隙にはぐれてしまったのね」
「そうみたい、街道の花壇にいたの」
「今日初めて外に出したの。きっとひとりじゃ戻れなかったわ。本当にありがとう」
「ううん」
エリンはそう言って、するすると草のロープをほどく。
ぶるん、と軽く体を震わせて、子ヤギは女性の側でまた草をはみ始めた。
すっかり安心しきった様子に、エリンはにっこりと微笑むと、
「それじゃ、またね!」
それだけ言って、くるりと背を向ける。
「さ、行きましょう、コトネ」
***
「わあ……」
そよそよと風が草原を吹き抜ける丘を越え、見えてきた西の湖の美しさにコトネは思わず声を上げる。
湖面は太陽の光を受け、キラキラと輝く。
あちこちから鳥の声が聞こえてきて、とても賑やかだ。
「さ、ここで休憩にしましょ」
てきぱきと手慣れた様子で木陰にマットを敷き、ティーセットを整えるエリン。
慌ててコトネも駆け寄り、バスケットを降ろす。
「すごく素敵なところだね」
「そうでしょう? 本当は次の交流会をここでしようと思ってたの」
15になれば、婚姻の儀があることはわかっていた。
けれど、こんなにも突然、事態が動き出すとは思っていなかった。
エリンも、フェリカも、サヴジも──誰ひとり、これからどうなるのかは知らない。
もちろん、それはコトネ自身も同じことだ。
(あと何回、お渡りができるんだろう。もう4人で会うことはないのかな)
そう思った途端、胸の奥にひゅうと風が吹いたような気がして、コトネは小さく息を吐いた。
「皆で花冠を作ったり、ボートに乗ったりもしたかったわ」
(そういえば──)
エリンの言葉に、ふと思い出す。
湖でのピクニックに、収穫祭。
花壇づくりに、年始めの歌劇祭。
エリンは、サンティエのあちこちに皆を連れて行きたいと話していた。
中でも歌劇祭には、「演者として参加したい!」と言ったものの、
サヴジからは「完璧に仕上げるには時間が足りない」と言われ、
フェリカからは「あまり歌は得意ではないの、ごめんなさい」と言われ、
その薔薇色の頬を膨らませてすねていたことを覚えている。
「……ふふっ」
「どうしたの、コトネ」
「エリンが歌劇祭の話をしたときのことを思い出してたんだ」
「歌劇祭!」
ぱんっ、と両手を合わせて立ち上がるエリン。
危うく側の紅茶がこぼれそうになり、慌ててコトネが受け止める。
「そうよ、いいこと思いついたわ!」
「急に立ったら危ないよ」
「ごめんなさい、でも、すごく素敵なことを思いついたの」
「どうしたの?」
目をキラキラと輝かせ、楽しくてたまらないといった顔で、すうっ、と大きく息をすうエリン。
「お着換え会をしましょう!」




