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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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5


 ヤコクではずっとひとりで食事をしてきた。

 ルーシアでは、サヴジと食事をした。


 (そういえば、サヴジには年の離れた弟がいるって言っていたけれど──)


 同じ城にいるはずなのに、顔を合わせることはなかった。

 それが当たり前だと思っていた。



「そうよ、だってみんなで食事をして、こうやっていろいろ話せば、誰が困っているかすぐわかるでしょう?」

 

 そういえば、さっきの使者とのやり取りもそうだった。

 書簡を受け取る場面でも、言葉を交わすときも、エリンは特に声を落とさない。


 周りを見渡せば、食事をしながら会話を続ける者もいるが、何人かは自然とエリンの方へと顔を向けていた。


(もしかして──)


 ふと、昼間のことを思い出す。

 エリンは「イチゴを食べていくといい」と言われたとき、ごく自然に摘果の話をした。

 ジャムにすることも知っていたし、籠がどこにあって、どう摘むかも知っていた。

 

 コトネからすれば初めてのイチゴ摘みと、新鮮なイチゴやベリーを味わう楽しい時間だった──が、それもまた手伝いのひとつだったのかもしれない。


「……うん」


 その言葉は、自分でも驚くほど静かに胸の奥へと落ちていった。

 

 広間では、まだ賑やかな声が続いている。

 誰かが話し、誰かが笑い、料理が運ばれ、また皿が空になる。


(……不思議)


 ふと、視線を落とす。

 手元の皿には、まだ半分ほどシチューが残っている。


(ひとりで食べるのが、普通だったのに)


 なのに今は、

 隣にエリンがいる。

 向こうにも誰かがいる。

 

 同じ空間で、同じものを食べている。


 ――そのことに、少しだけ戸惑う。


「コトネ?」


 名前を呼ばれ、顔を上げると、エリンがこちらを覗き込んでいた。


「ぼーっとしてる。もうお腹いっぱい?」

「あ、ううん……大丈夫」


 慌ててスプーンを手に取り、口へと運ぶ。

 少しだけ冷めていたが、それでも不思議とおいしかった。


***

 

 部屋に戻り、コトネはひとり、ベッドに座る。


 慣れている、ひとり。

 そのはずなのに、どこか落ち着かない。


(ひとりで決めなくていい、って……)


 サヴジにも、似たようなことを言われた。

 でも、それとは少し違う気がする。


 (フェリカは、なんて言うだろう)


 婚姻の儀まで、残り10ヶ月。

 なんだか部屋が妙に静かすぎるようで、耳の奥にさわさわと音が残っているようで、自分の中にある感情が、感覚が何なのかわからない。

 

(私は混乱している……?)


 それが一番近いのかと思って自分を見つめ直してみるが、しっくりこない。

 迷っているのかと考えてみるが、それも少し違うような気がする。


(驚いている……も違う。なんだろう、この感覚)

 

 わからない、けれど、不快ではない。

 空腹感にも似ているようで、それでいて満腹感のようなものもあるのが不思議だ。


 

 ──ふと、窓の外を見る。


 遠くに、まだ人の声が残っているような気がした。


 

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