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ヤコクではずっとひとりで食事をしてきた。
ルーシアでは、サヴジと食事をした。
(そういえば、サヴジには年の離れた弟がいるって言っていたけれど──)
同じ城にいるはずなのに、顔を合わせることはなかった。
それが当たり前だと思っていた。
「そうよ、だってみんなで食事をして、こうやっていろいろ話せば、誰が困っているかすぐわかるでしょう?」
そういえば、さっきの使者とのやり取りもそうだった。
書簡を受け取る場面でも、言葉を交わすときも、エリンは特に声を落とさない。
周りを見渡せば、食事をしながら会話を続ける者もいるが、何人かは自然とエリンの方へと顔を向けていた。
(もしかして──)
ふと、昼間のことを思い出す。
エリンは「イチゴを食べていくといい」と言われたとき、ごく自然に摘果の話をした。
ジャムにすることも知っていたし、籠がどこにあって、どう摘むかも知っていた。
コトネからすれば初めてのイチゴ摘みと、新鮮なイチゴやベリーを味わう楽しい時間だった──が、それもまた手伝いのひとつだったのかもしれない。
「……うん」
その言葉は、自分でも驚くほど静かに胸の奥へと落ちていった。
広間では、まだ賑やかな声が続いている。
誰かが話し、誰かが笑い、料理が運ばれ、また皿が空になる。
(……不思議)
ふと、視線を落とす。
手元の皿には、まだ半分ほどシチューが残っている。
(ひとりで食べるのが、普通だったのに)
なのに今は、
隣にエリンがいる。
向こうにも誰かがいる。
同じ空間で、同じものを食べている。
――そのことに、少しだけ戸惑う。
「コトネ?」
名前を呼ばれ、顔を上げると、エリンがこちらを覗き込んでいた。
「ぼーっとしてる。もうお腹いっぱい?」
「あ、ううん……大丈夫」
慌ててスプーンを手に取り、口へと運ぶ。
少しだけ冷めていたが、それでも不思議とおいしかった。
***
部屋に戻り、コトネはひとり、ベッドに座る。
慣れている、ひとり。
そのはずなのに、どこか落ち着かない。
(ひとりで決めなくていい、って……)
サヴジにも、似たようなことを言われた。
でも、それとは少し違う気がする。
(フェリカは、なんて言うだろう)
婚姻の儀まで、残り10ヶ月。
なんだか部屋が妙に静かすぎるようで、耳の奥にさわさわと音が残っているようで、自分の中にある感情が、感覚が何なのかわからない。
(私は混乱している……?)
それが一番近いのかと思って自分を見つめ直してみるが、しっくりこない。
迷っているのかと考えてみるが、それも少し違うような気がする。
(驚いている……も違う。なんだろう、この感覚)
わからない、けれど、不快ではない。
空腹感にも似ているようで、それでいて満腹感のようなものもあるのが不思議だ。
──ふと、窓の外を見る。
遠くに、まだ人の声が残っているような気がした。




