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それから数時間後。
エリンの案内で、コトネはサンティエの城下町を楽しんでいた。
案内された市場では、店先の果物に、誰かが気軽に手を伸ばしている。店主と客が笑い合う声に、あちこちから漂う食欲をそそる香り。すぐそばの公園でじゃれ合う子供たち。普段接することのないすべてが新鮮で、ついきょろきょろと見回してしまう。
(こんなふうに、人が集まっている場所にいるのは初めてだ)
「やあ、エリン様!」
「こんにちは、カリーナ」
誰かに会う度気さくに声を掛けられ、婿候補だと紹介される。
それを好意的に受け止められ、笑顔を向けられることにコトネも少しずつ慣れてきた。
──が、
「今夜は取れたてのコイツで、おいしいシチューを持っていきますよ」
カリーナと呼ばれた農婦が、荷車に積まれたたくさんのキャベツを見せた。
楽しみだとエリンが喜び、それではまた夜にと別れる様子を見て、コトネは首をかしげる。
「……また、夜に?」
「そうよ、今日は皆で食べる日なの」
***
「今年は雨が多くてね」
「南の畑は順調だよ」
「そうそう、東の池で水草が増えてるんだって?」
「ふむ。西の──誰かが水草を欲しがっていなかったかな」
「ああ、フィヨルですね! 伝えておきましょう」
広間の大テーブルに、所狭しと並べられた様々な料理を食べながら、昼間あった農婦をはじめたくさんの人が楽しそうに話をしている。
──が、それだけではない。エリンの両親である国王に王妃も、同じテーブルについているのだ。
国王も、王妃も、気さくに周囲の人たちと話をしながら食事を楽しんでいる。
同じ大皿から料理を取り、誰かが自然に次へと差し出す。
(ひとりで食べるのが、普通だったのに)
戸惑いながら、エリンが取り分けてくれたシチューに手を伸ばす。確か、夕方に会ったカリーナが持ってきてくれたものだ。
温かい湯気がふわりと立ち上り、そうっと一口含む。くたくたに煮込まれたキャベツの柔らかな甘みが心地良い。
「おいしい……」
「そうでしょうコトネ様! ティアナのところのパンと合わせると絶品ですよ」
思わず漏れた言葉を向かいに座っていた男性に拾われ、名前を呼ばれ、コトネは目を瞬かせる。
だがそんな様子を気にすることなく、どうぞ、とパンのかごが回されてきた。
「前にしっかりお日様が出てくれたおかげで、オレンジも順調だったんですよ」
「そうね、今年のジャムはいつものより香りが良くて、味が濃いの!」
そこからまた別の話題へと移り、エリンも楽しそうに言葉を返す。
あちらこちらでも会話が途切れることなく、国王も王妃も皆と同じものを食べ、笑い合っている。
──とそこで、エリンが何かに気付き、顔を上げた。
つられてコトネも視線の先を追うと、いくつかの書簡を抱えた人物が通路の方に向かっているのが見える。
スプーンを置き、席を立つと、人物の方へと向かうエリン。
相手もエリンが近付いて来るのに気付き、ぺこりと頭を下げる。
「すみません、エリン様。大臣様にご相談があって……」
「ああ、ごめんなさい。リーヤは今いないの」
「えっ」
「ヤギの子が生まれてね。様子を見に行ってるの」
(大臣が……ヤギの世話で?)
聞こえてきた会話に、再びコトネが目を瞬かせる。
だが、周囲の人物は誰も気にしていないようだ。「ああ、そういえばそろそろだって言ってたね」「元気に生まれた?」「双子だったらしいぞ」「まあ!」などと笑い合っているのだ。




