2
それから少し歩き、二人がたどり着いたのは、先程の夫婦のものだというイチゴ園だ。
エリンに連れられるがまま、コトネも柵を越え、イチゴ畑の中に入る。ひょい、ひょい、と危うげない足取りでエリンは畝を乗り越え、しゃがみ込むとイチゴを摘んでぱくりと食べた。
「あまーい! ね、コトネ、その大きいの食べてみて」
「うん……でも、いいの?」
「うん」
コトネの問いに笑顔で頷き、ひとつのかごを手渡すエリン。
「食べながら、おいしそう! って思うのを摘んで、これに入れてね」
そう言いながら、ひとつ摘んで口に運び、またひとつ摘むと別のかごへと入れる。
促されるまま恐る恐るイチゴに手を伸ばし、エリンがするようにして摘み取るコトネ。
(本当に、いいのかな……?)
エリンを見ると、何かあったのかと不思議そうに見つめ返された。
「コトネ、イチゴは嫌い?」
「ううん、好き」
「じゃあ食べてみて、すっごく甘いから」
にっこりと笑顔を向け、またひとつ摘んで口に運ぶエリン。
おずおずと摘んだイチゴを口元へ運ぶと、それだけでふわりと甘い香りが漂う。
少し歩いてきた分、喉も乾いた。何より、先ほどからエリンが美味しそうに食べる様子を見ているのだ。ついつい、こくり、と喉が鳴る。
「いただき、ます」
ぱく、と小粒のそれを一口に食べた瞬間、
(甘い……!)
「ね、甘いでしょ!」
驚いて目を見開くコトネを見て、エリンが嬉しそうに笑う。
「デュカはね、ここの他にもサンティエ中でイチゴを育ててるのよ」
「こんなに甘いイチゴ、初めて食べた。すごくおいしいね」
「そうでしょう? デュカのイチゴだもの。こうして摘んだイチゴは、ジャムにしたり、果実酒にしたりするの。パンにつけて食べると、最高なのよ」
そう言いながら、ひとつ、ふたつ、と慣れた手つきでイチゴを摘んではかごに入れていく。
端まで行くと、また別の小篭を抱え、隣の列に並んでいる真っ黒いベリーを摘み始めた。
「そのベリーは、食べないの?」
「ふふっ、このベリーはそのまま食べたらすごくすごく酸っぱいの。顔がしわくちゃになっちゃうくらい」
こんなふうにね、とぎゅうっと口をすぼめてみせるエリンに、つい笑ってしまう。
「……食べてみたい?」
「ちょっとだけ、興味がある……かも」
「じゃあ、ひとつだけ一緒に食べましょ」
エリンの小さな手に乗せられた黒い果実をそうっとつまみ、
「せーのっ」
エリンの合図で口に運び、そうっと歯を立てた──瞬間、思わずコトネは肩をすくめ口を押える。
「……っ、──すっ、ぱいっ……」
「ううっ、すっぱーい!」
エリンもぎゅうっと口をすぼめ、目を閉じ頭を振る。
なんとか飲み込み、酸味の衝撃が落ち着いて、ひと呼吸したところで、
「あはははっ、コトネったら、涙目になってる」
「エリンだって」
顔を見合わせて、ふたり同時に笑いがこみ上げてきた。




