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数日後。
コトネは、サンティエへ向かう馬車の中にいた。
「サンティエへのお渡りが決まりました。これよりご出立いただきます」
目を覚ましたときそう伝えに来たのは、昨日とは違う侍女だった。
名前を聞きそびれてしまったな、と少し寂しく思うが、聞いたところで恐らくもう二度と会うことはない。
鳥の声が聞こえて窓から外を眺めると、南へと向かう渡り鳥の群れが見えた。
街道がサンティエのものに変わったのだろう、先程とは少し違う規則正しい揺れが体に伝わってくる。
「間もなくサンティエ王宮に到着いたし――」「――トネ! コトネー!」
御者の声に重ねて、聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。
窓を開け、外を覗くと、
「コトネ! エリン、待ってたの!」
サンティエ王宮門前で、ぶんぶんと手を振りながら叫ぶエリンの姿があった。
***
「ここがサンティエ王宮よ.エリンの部屋はあっち、それからコトネの部屋はここ」
到着早々果実水で迎えられ、それを飲みながら王宮を歩く。
先日訪れたルーシアでは、高い天井に広い廊下が印象的だった。人払いをされていたからか、城内を歩いてもそれほど人とすれ違うことはなかった。
その一方で、サンティエでは城内でも多くの人に会うし、そのたびに声をかけられる。
いくつか会議などの間なのだろうか、部屋はある──が扉がない。通りすがりに、数名が顔を突き合わせ何事か話をしている様子がちらりと見え、コトネはドギマギしてしまうがエリンはお構いなしだ。
「あっちが父上の部屋で、こっちが母上。それから広間はこの角で――」
「あの、エリン」
「なあに?」
「その……いいの? こんなにあちこち案内してもらって」
その言葉に、きょとんとした表情になるエリン。
「だって、場所がわからないと困るでしょう?」
「う、うん、それはそう……だけど」
「それにこのお渡りは、コトネにたくさんサンティエを知ってもらうんだもの。まだまだたーっくさん、案内するわ」
にっこりと微笑まれ、思わず頷いてしまう。
廊下の窓は城下町に向けて大きく開け放たれていて、何の香りだろうか、運ばれてくる甘い香りにコトネは思わず目を細めた。
***
その後も王宮内を隅から隅まで案内され、合間に庭でベリーを摘んで食べた。
門の外へと出たところで、大きな瓶を抱えた夫婦とすれ違う。
「やあ、エリン様」
気さくに声をかけられ、エリンも笑って挨拶を返す。
「紹介するわ、ヤコクのコトネよ。エリンのお婿さん候補なの!」
「えっ、あ、――あの、……コトネ、です」
慌ててぺこりと頭を下げると、夫婦は人の良さそうな笑顔で応えてくれた。
「昨日王様の果樹園でカイガラムシを見かけたから、これを撒いてやろうと思ってね。エリン様もコトネ様も、城下に行くならうちのイチゴを食べていくといい。甘いぞー」
「カイガラムシが出たの!? じゃあエリンのところもいるかも」
「それならついでだから見ておくよ」
「ありがとう! じゃあ、エリンもイチゴ食べながら摘果しておくわ」
「ありがとう、助かるよ」
それじゃ、と手を振り、夫婦は王宮の方へと歩いていく。
「えっと……お城の人?」
「デュカ? イチゴ作りの名人なの。デュカのイチゴ、甘くてとってもおいしいのよ」




