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──翌朝。
エリンとフェリカは、それぞれの国へ戻ることになった。
「また来るからね! エリンのところにも、はやく来てね!」
明るく手を振るエリンに、コトネは思わず笑みをこぼす。
「あまり無理はしないでね、コトネ」
フェリカは穏やかに微笑み、そっとコトネの手を取った。短いやり取りのあと、二人は馬車へと乗り込んでいく。
やがて、それが見えなくなる頃には——あたりは静けさを取り戻していた。
「朝食の準備が整っている。戻るぞ」
「うん」
背後からかけられた声に、コトネは振り返る。
「……なんだかちょっと、寂しいね」
ぽつりとつぶやくと、サヴジの視線が肯定するかのように、微かに和らいだ。
その様子に、つい、口が軽くなる。
「部屋に入ってきたとき、サヴジ、びっくりした顔してたよ」
「通達を出したが、二人があれほど早く来るとは思わなかったからな」
「それに、……皆でご飯を食べられるなんて思わなかった」
そう言った途端、サヴジの眉が僅かにあがった。
何かを言いかけ、やめるのを見て、コトネが首を傾げる。
「サヴジ?」
「……悪くはなかった」
それだけ言うと、くるりと背を向け、歩きだす。
その背を、コトネは一瞬だけ見つめてから静かに後を追った。
***
用意された食卓には、すでに料理が並べられていた。
焼き立てのパンに、ベリーのジャム。ふわりと湯気を立てるスープ。
その手前に置かれた茶は、ミントだけではなくやや華やかな香りのハーブも入っているようだ。
(これ、どこかで嗅いだことがある……)
最初は、少し。続けて、大きく。
すうっと息を吸いながら、香りを確かめる様子を見て、サヴジの頬がゆるむ。
「それは、先日のあの白い花だ」
「……あ! 呼吸が深まるっていうやつ?」
「そうだ。お前には特に良く効くようだな」
「どこかで嗅いだことがあるなと思ったから。初めて嗅ぐ人にも、効果があるのかな?」
「あると言われている。この花は懐かしさを呼び覚ましたり、心を安らげたりするからな」
そう聞いて、なるほどと思う。
現に、先程までの寂しさは薄れ、朝食に気持ちが向いているのだ。
(サヴジ、気を使ってくれたんだな)
ちらりと視線を上げるが、向かいに座ったサヴジは、特に何も言わずいつも通り食事を始める。
「……いただきます」
小さくそう言って、コトネも同じように手を伸ばす。
外では小鳥の鳴く声が聞こえ、風に乗って微かに中庭の噴水の音が聞こえてくる。どうやら今日もいい天気になりそうだ。
パンをちぎり、ジャムを塗り、一口。
そしてまた一口と食べ進めながら、ふと気づく。
——緊張していない。
昨夜の四人での食事と同じか、いや、それ以上かもしれない。
ハーブティーのおかげだろうか。パンを口に含めば小麦の香ばしさが感じられ、ジャムの甘味と香りをしっかりと味わえる。スプーンでスープをすくい、口に運び、飲み込む。鼻から抜ける香りも、きちんと感じられるし、するすると喉を通る。
(朝ご飯、……おいしい)
「体調は、問題ないか」
「うん。もう大丈夫」
「そうか」
再び会話が途切れ、静かな時間が流れる。
糸で釣ったようにピンと背筋を伸ばし、整った所作でパンをちぎり、口元に運ぶサヴジ。
(サヴジの食べ方って、キレイだな)
一切れ食べ終えると、バターを乗せてもう一口。その弾みに、上唇についた油脂を親指で拭ったところでコトネと目が合った。
何事か、とたずねるようなまなざしを向けられ、慌ててなんでもないと首を振る──と、僅かに口角が上がるのが見えた。




