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残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


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9


 ──翌朝。

 エリンとフェリカは、それぞれの国へ戻ることになった。


「また来るからね! エリンのところにも、はやく来てね!」


 明るく手を振るエリンに、コトネは思わず笑みをこぼす。


「あまり無理はしないでね、コトネ」


 フェリカは穏やかに微笑み、そっとコトネの手を取った。短いやり取りのあと、二人は馬車へと乗り込んでいく。

 やがて、それが見えなくなる頃には——あたりは静けさを取り戻していた。


「朝食の準備が整っている。戻るぞ」

「うん」


 背後からかけられた声に、コトネは振り返る。


「……なんだかちょっと、寂しいね」

 

 ぽつりとつぶやくと、サヴジの視線が肯定するかのように、微かに和らいだ。

 その様子に、つい、口が軽くなる。

 

「部屋に入ってきたとき、サヴジ、びっくりした顔してたよ」

「通達を出したが、二人があれほど早く来るとは思わなかったからな」

「それに、……皆でご飯を食べられるなんて思わなかった」


 そう言った途端、サヴジの眉が僅かにあがった。

 何かを言いかけ、やめるのを見て、コトネが首を傾げる。


「サヴジ?」

「……悪くはなかった」


 それだけ言うと、くるりと背を向け、歩きだす。

 その背を、コトネは一瞬だけ見つめてから静かに後を追った。


 ***

 

 用意された食卓には、すでに料理が並べられていた。

 焼き立てのパンに、ベリーのジャム。ふわりと湯気を立てるスープ。

 その手前に置かれた茶は、ミントだけではなくやや華やかな香りのハーブも入っているようだ。


(これ、どこかで嗅いだことがある……)


 最初は、少し。続けて、大きく。

 すうっと息を吸いながら、香りを確かめる様子を見て、サヴジの頬がゆるむ。


「それは、先日のあの白い花だ」

「……あ! 呼吸が深まるっていうやつ?」

「そうだ。お前には特に良く効くようだな」

「どこかで嗅いだことがあるなと思ったから。初めて嗅ぐ人にも、効果があるのかな?」

「あると言われている。この花は懐かしさを呼び覚ましたり、心を安らげたりするからな」


 そう聞いて、なるほどと思う。

 現に、先程までの寂しさは薄れ、朝食に気持ちが向いているのだ。


(サヴジ、気を使ってくれたんだな)


 ちらりと視線を上げるが、向かいに座ったサヴジは、特に何も言わずいつも通り食事を始める。


「……いただきます」


 小さくそう言って、コトネも同じように手を伸ばす。

 外では小鳥の鳴く声が聞こえ、風に乗って微かに中庭の噴水の音が聞こえてくる。どうやら今日もいい天気になりそうだ。


 パンをちぎり、ジャムを塗り、一口。

 そしてまた一口と食べ進めながら、ふと気づく。


 ——緊張していない。


 昨夜の四人での食事と同じか、いや、それ以上かもしれない。

 

 ハーブティーのおかげだろうか。パンを口に含めば小麦の香ばしさが感じられ、ジャムの甘味と香りをしっかりと味わえる。スプーンでスープをすくい、口に運び、飲み込む。鼻から抜ける香りも、きちんと感じられるし、するすると喉を通る。

 

(朝ご飯、……おいしい)

 

「体調は、問題ないか」

「うん。もう大丈夫」

「そうか」


 再び会話が途切れ、静かな時間が流れる。

 糸で釣ったようにピンと背筋を伸ばし、整った所作でパンをちぎり、口元に運ぶサヴジ。


(サヴジの食べ方って、キレイだな)


 一切れ食べ終えると、バターを乗せてもう一口。その弾みに、上唇についた油脂を親指で拭ったところでコトネと目が合った。

 何事か、とたずねるようなまなざしを向けられ、慌ててなんでもないと首を振る──と、僅かに口角が上がるのが見えた。

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