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だからこそ、北の国としてはこの代こそ、なんとしても皇貴を迎えたいという思いがあるのかもしれない。
(サヴジが優しくしてくれるのは、……だから、なのかな)
自分が男になっても、女になっても、別に構わないと言ってくれた。
前例がないわけではない、と。
(──でも、急激な気候変動に備えて、品種改良をしてるって言ったよね)
それは、北の国の事情を踏まえずに、選べるようにという気遣いなのだろうか。
だとしても、地脈の流れは様々な面で影響を及ぼす。
(それなら……)
「コトネ、スープが冷めてしまうわ」
「あ……」
考え始めて、手が止まってしまっていたようだ。
フェリカに促され、コトネは慌ててスプーンを手に取る。
けれど、胸の奥に残った思考は、完全には消えなかった。
***
食事を終えた後、部屋が整えられ、サヴジたちが退出する。
扉が閉じられると、室内はしんと静まり返った。
つい先ほどまでの賑やかさが、まだどこかに残っているような気がする。
それを懐かしむ気持ちと同時に、ぽつりと取り残されたような感覚があった。
誰かと食卓を囲むことには、どうしても慣れない。
それは——ヤコクでの暮らしのせいだった。
コトネは、交流会を除けば、誰かと食事をともにすることがほとんどない。
皇貴という立場は、ヤコクでも特別なもの。
王族に迎えられはしたものの、王宮の離れに立てられた一角に一人で住まわされている。
理由はひとつ。
第三者からの影響を、できる限り遠ざけるため。
どの国を選ぶか、誰を選ぶか、どうあるべきか。
こういった部分において、誰かの思惑が加われば、それは争いの火種にもなりかねない。
ゆえに、王宮の奥深い離れに一人隔てられ、交流会でのみ外の世界に触れる。
そうして、時を待つ。
皇貴とは、地脈を動かすために在る存在。
これまでの歴史において、例外なくそう扱われてきた。
だからこそ過去の皇貴について、歴史に記録はほとんど残されていない。
どのような人物だったのかも、詳しく語られることもない。
何年に生まれ、どの国を選び、何年に没したか──記されているのはそれだけだ。
皇貴は、重要で貴重な存在として、崇められ、大切にされている。
けれどその中に、“コトネ”という個人は含まれていない。
王族に迎えられ不自由のない暮らしをすることはできるが、元の家族とは二度と会うこともなく、私的な会話をする者もいない。
──それが、皇貴というものだった。




