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「ねえサヴジ、エリンおなかが空いた。コトネも元気になったし、ちゃんとしたご飯食べさせてあげないと」
「……確かに、もうだいぶいい時間ね」
気が付けば、既に太陽の位置が低い。
コトネの顔色も朝よりずっと良くなった。
声や話す調子なども、いつも通りなように思える。
「うん、おなかすいた……かも」
「ほら、ね、サヴジ!」
得意げに言うエリンの言葉に、やれやれと言った様子のサヴジ。
「このままここで皆と食べるのと、食事の間で皆と食べるの、どっちがいい?」
どうやら、お渡り中であるにもかかわらず、エリンの中では皆で食事をとることは確定しているらしい。
一切遠慮する様子のないエリンに、以前なら制したであろうその言葉を、サヴジは否定しなかった。
「このまま……なんて、──いいの?」
「だってまだ完全に元気なわけじゃないでしょ?」
「でも、……」
今は北の国ルーシアにお渡り中だ。
だからこそ、サヴジの前でどこまで甘えていいのかと考えてしまう。
コトネが言いよどむのに気付き、フェリカがちらりとサヴジを見た。
その視線を受け、
「……そうだな」
サヴジは短く頷き、侍女に指示を出す。
すぐに控えていた侍女たちが動き出し、室内の空気がわずかに変わった。
その様子を見ながら、コトネは不思議な高揚感と安心感を覚える。
慣れない感覚に少しだけ戸惑いながらも——それが嫌ではないことだけは、はっきりしていた。
***
食事の前に出されたミントが香る茶には、ミルクと蜂蜜が足されていた。
視線を向けると、サヴジは何事もないように目を逸らす。
(覚えていてくれたんだ)
「……おいしい」
一口、二口と飲み進めるうちに、体の内側から温まるのが感じられる。
それに伴い、空腹感も増してきた。
「そうだったの、毒キノコが……それは大変だったわね。もう落ち着いたの?」
「ああ。管理体制を見直し、新たなルールを徹底した。しかし、いずれはあのキノコ単体で栽培できるよう、品種改良を進めていければと思っている」
次から次へと並べられる料理から、やわらかな香りが立ちのぼる。
「ね、コトネ。このパン食べてみて! すっごくおいしいの!」
「ありがとう……あ、本当だ、いい香り」
勧められたパンは、ふわりと小麦が香り、香ばしい。
それぞれの国にもルーシアの小麦は輸出されているが、それでも産地ならではの味わいは格別だ。
「そうよね、ルーシアの小麦はとても香りが良いの。今、新しい小麦も開発しているのでしょう?」
「そうだ。交互に植えることで土壌を肥やし、気候変動にも備えられるものを考えている」
気候変動、の言葉に、一瞬コトネの肩がぴくりと揺れる。
前の皇貴が南の国サンティエを選んだことで、北の国ルーシアは地脈の流れが変わり、冬が長く続いたのだ。




