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──それから、一時間後。
急いで責務を終えて戻ったサヴジの視界に飛び込んできたのは、エリンとフェリカに囲まれすっかり元気を取り戻したコトネの姿だった。
その手には、自分もまだ味を見ていない新品種のベリーをたっぷりと使った果実水。
そこを視線がかすめた瞬間、僅かにサヴジの眉が上がる。
——本当は自分が最初に、コトネに渡すつもりだった。
そんな思いがよぎる。
だが、目の前で嬉しそうにしているコトネの様子に、何も言えなくなる。
(いや、何も言う必要などない)
差し出されたそれを口に含むと、連日の激務で疲労が蓄積した体に、程よい酸味とさわやかな喉越しの果実水は実によく染みた。
小さく息をつく姿に、おずおずとコトネが切り出す。
「これ……サヴジが品種改良してたやつだよね?」
「そうだな」
「だよね、先に味わっちゃってごめん」
「コトネは悪くないよ! エリンがあのベリーで作ろうと思ったんだから」
そんなコトネとサヴジの間に割り込むように、エリンが立ち上がる。
「でも、喉が渇いたって言ったのは私だから」
「コトネは悪くないの!」
きっ、とサヴジを強い目で見つめるエリン越しにサヴジとコトネの目が合った。
今までならこういう場合、サヴジはエリンに中庭への立ち入り禁止を命じるなり、コトネに使いをよこすように言うなりしただろう。
だが、
「気にする必要はない」
「……ずいぶん寛大なのね」
思いもよらない反応に、フェリカが問う。
「……立場が変わった。それだけだ」
「どういうこと?」
サヴジの言葉に、エリンが首をかしげる。
「今はコトネが婚姻の儀の相手を選ぶ時期だ。これまでの交流会とは趣が違う」
そう、淡々と言うサヴジの言葉に、様々なことが腑に落ちるコトネ。
(だから、今までと態度が少し違ったんだ)
前までなら許されない部分が、許されるようになった。
ちょっとした気遣いに、『特別』を感じるようになった。
今までは話さなかったことも、話すようになった。
そういったことのひとつひとつにサヴジの意志や気持ちが感じられて──ふいに、胸の奥が落ち着かなくなる。
「そうね、今はルーシアにコトネのお渡りがある時期だわ。それなのに、押しかけてしまったことを謝らないといけないわね。ごめんなさい」
「エリンは謝らないよ! だって心配だったんだもん!」
フェリカとエリンの言葉を受け、自分も何か言おうと思うが、まとまらない。
熱を出したせいで、ふたりを結果的に呼び戻してしまった。
サヴジにも心配をかけた。
……だが、こうして話もできた。
ごめんなさい、か、ありがとうか。
頭の中で言葉を探していたところで、
「コトネも謝らないよ! だって悪くないもん!」
エリンにまっすぐに言い切られて、コトネは一瞬だけ目を瞬く。
そんなコトネに、優しく微笑みかけるフェリカ。
そして、小さく頷くサヴジ。
「……ありがとう」
胸の奥に、あたたかいものが静かに広がっていく。
——これが、このお渡りの意味なのかもしれない。
ずっと消えずにあった不安や恐れが、やわらかくほどけていく気がした。




