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それからぐるりと薬草園を案内してもらって、ひと息つこうとしたところで、
「コトネ、動くな」
低く、鋭い声とともに手を引かれる。
それまでとは違う響きに驚き、見上げる──が、
「誰だ、ここをこの状態にしたのは」
サヴジの目は、コトネの数歩前。
赤い軸を持つ、小さなそれから動かない。
初めて見る険しい表情に、何事かと不安になり、つないだままの手に軽く力をこめる。
すると、その感触に気づいたのか、サヴジがようやくこちらを見た。
「あのキノコは、触れるとひどく皮膚がただれる。熱が出ることもあるし、万が一口に入ればただでは済まない。つぶした汁が蒸発したものを吸っただけでも、被害が出るほどだ」
「えっ……あれ、キノコなの!? そんな危険なものもあるの?」
「ああ。それ単体では毒でしかないが、ある種の草の根と併せることで細菌の繁殖を抑える効果があるんだ」
「どうしてそれがここに?」
「おそらく、剪定の際にこぼれたのだと思う──が、それでも危機管理ができていないことは確かだ」
後半は、声音も低く。
サヴジは鋭く辺りを見回し、他に落ちてはいないかを素早く確認する。
……が、どうやら見渡す限り、それらしいものはないようだ。
僅かに張り詰めた空気がゆるんだのを感じ、思わずコトネもほっと胸をなでおろす。
なら、これで安心だし、奥も見に行こう。
そう言おうと息を吸ったところで、
す、とサヴジが左手を上げた。
途端に、周囲の空気が再び、ぴりりと張り詰める。
「換気を。東側の窓を開けろ」
その言葉が終わると同時に、控えていた者たちが、弾かれたように動き出した。
自分たちが入ってきたのは東側の入り口だ。
その東側の大きな窓が開けられたことで、背中側からひゅう、と風が吹き込んでくる。
さわ、さわ、と草花が一斉に揺れ、コトネとサヴジを通り越し、奥までたどり着いたところで風が天窓へと抜けていくのだろう、上の方から小さな風切り音がした。
「全室徹底的に状況確認を。明日までに報告しろ」
そのとき、ひときわ強い風が吹いた。
(わっ)
反射的に髪を抑えようとして、つないだままの手を放してしまう。
「サヴジ様、西棟管理者から、届いた数に間違いはなかったとのことです」
駆け寄った従者が、一通の書類を捧げ持つ。
それを受け取り、真剣な表情で目を落とすサヴジ。
「ならば収穫の本数が違っていたか」
「はっ、そちらも現在確認中です」
吹き込む風が、屋内の温度を少しずつ下げていく。
なんとなく肌寒さを感じ、隣を見上げる──だが、新たに駆け寄ってきた従者達に囲まれ、サヴジとの間に距離ができてしまう。
(……さっきまであんなに近くにいたのに、な)
まるで別人のようで、落ち着かない。
すぐ隣にいるのに、手の届かない場所にいるような気がしてしまう。
口を挟むこともできず、コトネはただ様子を見守るしかできなかった。




