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続けてふたりが来たのは、屋内薬草園だ。
ここでは、ルーシアでも貴重な薬草類が栽培されていて、薬効が高いものも多いという。
扉を開けると、すうっと胸に染み入るような、不思議な香りがしてくる。
「すごい! ここだけ空気が違うみたい!」
思わず一歩踏み込み、大きく深呼吸をすると、頭も心もシャキッと整ったようだ。
さらに一歩、二歩と歩みを進めると、そこに植えられている薬草の種類のせいか、さらに漂う香りが変わる。
「わあ、キレイ! これ、花の中に花が咲いてる……?」
珍しいものを見つけ、どうなっているのかと覗き込もうとした途端、
「近付きすぎるな。少し刺激が強い」
サヴジの声に、コトネはきょとんと目を瞬かせる。
──その瞬間、
「……っ」
視界がぐらりと揺れた。
踏み出した足がもつれそうになった瞬間、腕を引かれる。
「さっき言っただろう、ここは特に薬効が強い」
「ごめん……」
「……まあ、詳しく言わなかった俺も悪いがな」
そう言いながら、コトネの腕から手を放し、手のひらを上に向ける。
「ひとつひとつ説明してやる。その花も適切な距離を保てば、観察も可能だ」
「え?」
(なんだか、今日は……近い)
──婚姻の儀まで、残り11カ月。
決断をするために、こうしてそれぞれの国を一人で訪れているのだ。
それを思えば、こういったことも、今までとは少し違う距離感も、必然なのかもしれない。
(それなら……)
ほんの一瞬だけ迷ってから、そっと指先を重ねる。
すると、重ねた指先を包み込むように、握られた。
「……この花なら、ここからだ」
サヴジの声が、いつもよりもずっと近くに響く。
導かれるままに少し距離を取って花を覗き込むと、先ほどとは違い、香りも刺激もやわらいで感じられた。
「本当だ、クラクラしない。それに、さっきよりも香りが……なんていうのかな」
「さっきは甘かったが、今は柑橘のような香りだろう?」
「そう! レモンを薄めたような感じ」
「なかなか良い例えだな」
ふっと、サヴジの口角がゆるむ。
その表情に、不意に胸が跳ねた。
(さっきもだけど──なんで、今、こんなに意識しちゃうんだろう)
落ち着かない気持ちを誤魔化すように、再び花へ視線を向ける。
立ち位置はそのまま、少しだけ首を伸ばすと、レモンのような香りに、砂糖とバターを混ぜたような香りが混ざった。
「いい香り! でも、このくらい近付くと、もう甘いんだね」
「肝心なのは距離と量だ。この花は薬にも毒にもなる」
指先を包む力が、わずかに強まる。
そのぬくもりに、胸がもう一度だけ、小さく跳ねた。




