表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残り12ヶ月、未性別の皇貴は誰を選ぶ━━三国の王子と王女の国取り婚姻譚  作者: ぬこ@nuko_nuko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/61

4


 続けてふたりが来たのは、屋内薬草園だ。

 ここでは、ルーシアでも貴重な薬草類が栽培されていて、薬効が高いものも多いという。


 扉を開けると、すうっと胸に染み入るような、不思議な香りがしてくる。

 

「すごい! ここだけ空気が違うみたい!」


 思わず一歩踏み込み、大きく深呼吸をすると、頭も心もシャキッと整ったようだ。

 さらに一歩、二歩と歩みを進めると、そこに植えられている薬草の種類のせいか、さらに漂う香りが変わる。


「わあ、キレイ! これ、花の中に花が咲いてる……?」


 珍しいものを見つけ、どうなっているのかと覗き込もうとした途端、

 

「近付きすぎるな。少し刺激が強い」


 サヴジの声に、コトネはきょとんと目を瞬かせる。

 ──その瞬間、

 

「……っ」


 視界がぐらりと揺れた。

 踏み出した足がもつれそうになった瞬間、腕を引かれる。


「さっき言っただろう、ここは特に薬効が強い」

「ごめん……」

「……まあ、詳しく言わなかった俺も悪いがな」


 そう言いながら、コトネの腕から手を放し、手のひらを上に向ける。


「ひとつひとつ説明してやる。その花も適切な距離を保てば、観察も可能だ」

「え?」


(なんだか、今日は……近い)


 ──婚姻の儀まで、残り11カ月。

 決断をするために、こうしてそれぞれの国を一人で訪れているのだ。

 それを思えば、こういったことも、今までとは少し違う距離感も、必然なのかもしれない。


(それなら……)

 

 ほんの一瞬だけ迷ってから、そっと指先を重ねる。

 すると、重ねた指先を包み込むように、握られた。


「……この花なら、ここからだ」


 サヴジの声が、いつもよりもずっと近くに響く。

 導かれるままに少し距離を取って花を覗き込むと、先ほどとは違い、香りも刺激もやわらいで感じられた。


「本当だ、クラクラしない。それに、さっきよりも香りが……なんていうのかな」

「さっきは甘かったが、今は柑橘のような香りだろう?」

「そう! レモンを薄めたような感じ」

「なかなか良い例えだな」


 ふっと、サヴジの口角がゆるむ。

 その表情に、不意に胸が跳ねた。


 (さっきもだけど──なんで、今、こんなに意識しちゃうんだろう)


 落ち着かない気持ちを誤魔化すように、再び花へ視線を向ける。

 立ち位置はそのまま、少しだけ首を伸ばすと、レモンのような香りに、砂糖とバターを混ぜたような香りが混ざった。

 

「いい香り! でも、このくらい近付くと、もう甘いんだね」

「肝心なのは距離と量だ。この花は薬にも毒にもなる」

 

 指先を包む力が、わずかに強まる。

 そのぬくもりに、胸がもう一度だけ、小さく跳ねた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ