第二章:残り11カ月——最初のお渡り
──次の日の朝。
コトネはひとり、朝食の間へと歩いていた。
昨日はエリンと一緒に歩いた通路に、今日はコトネひとりの足音が響く。
フェリカも、エリンも、昨日の内に国へと帰還した。
今後のことについて、それぞれに国内で話し合うことがあるのだろう。
これまで誰かとふたりで会うことは、なかった。
北の国にも、南の国にも、西の国にも、東の国で集まるときも必ず他国の王子王女が参加していた。あけすけに言えば「抜け駆けを防ぐため」なのだが、その分改めて誰かを強く意識しないで済んでいたことに、今更ながらコトネは気付く。
(今朝の朝食は、サヴジとふたり)
昨夜は突然のこともあり、疲れているだろうからと、サヴジはコトネを部屋で休ませてくれた。
侍女が数名ついてくれていたが、サヴジについて触れることもなく。
ただ、ただ、コトネがひとり、自分の時間を過ごせるようにと配慮をしてくれていたのだ。
「皇貴様、ご到着です」
角を曲がり、朝食の間の扉が見えたところで、待機していた侍女がそう告げる。
静々と扉が開かれ、招かれるように足を進め、テーブルにつく。
「昨夜は、よく眠れたか」
先に席についていたサヴジが、静かに声をかけた。
その声が思いがけず柔らかで、コトネはふと顔を上げる。
サヴジのことだから、開口一番に婚姻の儀について話があるかもしれないと思った。
でも、違った。
(そういえば、昨日もサヴジは私をひとりにしてくれた。……気遣ってくれたんだ)
「うん、……あ、少し寝付くまでには時間がかかったけれど」
だからだろうか、気がゆるみ、そんなことを言ってしまう。
けれどサヴジは優しく微笑むと、控えていた給仕にハーブティーを申し付ける。
「ならば食事の前の茶は、胃に穏やかなものにしよう。身体を整え、気分をスッキリさせてくれる」
「ありがとう。ミントが入ったお茶?」
「そうだ。前にも飲んだな」
皇貴として扱われるようになりたての頃、コトネは寂しさや慣れない環境への戸惑いもあり、よく体調を崩していた。
北の国ルーシアに交流会で来たとき、サヴジはそんなコトネにミントティーを勧めたが、ミントが入ったハーブティーは、慣れない内は少しだけ刺激が強い。
慣れた今でも、コトネはミルクと蜂蜜を足す方を好んでいた。
けれど、それを口にしていいのか、少しだけ迷う。
「うん、……ミルクと蜂蜜を足してもいい?」
「無論、お前がそうしたいのなら」
ほんの少しコトネの目に驚きが浮かぶのを見て、サヴジの頬がゆるむ。
「──前にダメだと言ったな。あれは、当時はまだ子供だったからだ」
「そうなの?」
「お前は昔から食が細い。食前にミルクと蜂蜜を入れた茶を飲めば、そればかり飲んで満足してしまっただろう?」
ミルクや蜂蜜を足せば、少しクセがあるこのお茶も、驚くほど飲みやすくなる。
また、胃にも良いとされてはいるが、それでも飲み過ぎてしまえば逆効果にもなりかねない。
何より、ミルクと蜂蜜で腹を満たし、食が進まなくなってしまっては本末転倒だ。
「そっか、だから……」
このお茶が食後に出されたときは、ミルクと蜂蜜を添えてくれた。
だが、食前に出されたときは、大抵いつもストレートだったし、コトネがねだってもサヴジはミルクと蜂蜜を許さなかった。
「そういうことだったんだね、気付かなかった」




