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Chapter.87

 文化祭が終わるとすぐに体育祭の準備が始まる。

 今年も相良先生お手製のくじで、役割分担が決まった。

 私は由上さんと同じ【装飾班】になって、みんなから冷やかされた。

 見ようとしていたわけではない美好さんや恵井さん、椎さんの顔が目に入る。三人とも顔こそ笑っているけど、そこに感情はない。やっぱりどうしても胸が痛むけど……同情とか、憐みとか、そういう感情は持ちたくなくて、そういう人の顔を見るたびに、私は心に誓う。由上さんを大切にしよう、って。

 文化祭のときみたいにペンキを塗られたり水をかけられたりすることもなく準備は進む。応援合戦のときに使う装飾品を作ったり、クラス全員おそろいで身に着けるものを提案してみんなで作ったりして、すごく楽しい時間を過ごした。


 体育祭当日、駅で待ち合わせて由上さんと一緒に登校する。

「なんかあっという間だったね」

「ほんとですね」

「懐かしいな、天椙さんの応援団長姿。かっこよかったな~」

「は、恥ずかしいです、やめてください……」

「なんで? いいじゃん。オレあれで惚れ直したんだから」

「えっ、そっ……それは、よかった、です」

 一年前、私はくじで引いた【応援団長】という大役に挑むことになった。最初は私に務まるのかなって不安でいっぱいだったけど、応援団のメンバーに支えてもらってなんとかこなすことができた。無事やり遂げたときには少しだけ、自分の殻を破けたんじゃないか、って気もした。

 それから津嶋くんと親しくなったんだけど……もう、二人でおでかけするようなことはないかな。もし誘ってもらったとしても、お断りすると思う。だって……

「ん?」

 思わず隣の由上さんを見つめてしまったら、由上さんは嬉しそうに小首をかしげた。

「いえ、なんでも」

「そう? なんかあったら遠慮なくどーぞ?」

「はい、もちろん」

 私の隣には由上さんがいてくれて、誰に遠慮することもなく頼りあい、支えあえる仲になった。だから私はもう、誰かに対してあいまいな態度をとるのはやめようって決めた。そして、由上さんの隣に並んだとき、誰にでも納得してもらえるような素敵な女の子になろうって、心に誓ったんだ。

 全学年の装飾班で協力して作ったアーチをくぐって学校の敷地内に入る。なんだか無性にやる気が湧いてくるけど、運動神経が向上するわけじゃないからケガだけはしないように気を付けて挑もうと思う。

 運動神経が良い由上さんは、いくつかの競技に参加することになっていた。過去のケガを心配したけど、肩や肘を酷使しなければ大丈夫らしいと聞いて安心した。


 開会式が終わり、プログラム通りに競技が始まる。

 借り物競争に参加した由上さんは、コース上に置かれたいくつかの中から一枚の紙を取った。中身を読んで少し顔をしかめて、そして一直線にこちらへやってくる。

「いい?」

「えっ、は、はいっ」

 手を差し出された私は、慌てて立ち上がった。私の手を取ってゴールへ向かう由上さんに着いて走る。私の速度にあわせてくれてるみたいだけど、それでもちょっと速い。運動能力の差が歴然だけど、他のクラスの人は【借りるもの】を探すのに手間取っていて、私たちは余裕で一位を取れた。

 ゴール脇で待っていたこと小田嶋先生 (生徒たちからは【サポセン】って呼ばれてる)が由上さんから渡された紙を確認すると、とたんにニヤリと笑みをこぼす。

「ようやく、って感じだな」

「やめてくださいよ、彼女は細かいとこ知らないんで」

「そっかそっか、いやぁ、青春っていいなぁ」

「な、なんて書かれて……?」

「いーよ、だいじょぶ。ないしょ」

 由上さんは【借りるもの】の内容を知らせてくれようとしない。な、なんか変なこと書かれてないよね? って不安になって小田嶋先生を見たら、再度ニヤリと笑って由上さんに見えないように紙の中身を見せてくれた。

【大好きなもの・人】

 紙の中央にはそう書かれていて、嬉しいけど恥ずかしくて見なきゃよかったって変な後悔をする。小田嶋先生は私の態度を見て、またニヤリと笑ってゴール脇に戻り、二位以降の人たちの内容を確認していた。発表するようなことは特にしないらしいけど、審議が必要なときだけみんなに見せて、拍手の大きさで可否を決めていた。

 恥ずかしい気持ちを抱く私を、由上さんは不思議そうに見ていた。私は紙に書かれた内容を知らないふりして、由上さんに笑顔を返す。

 知ってしまったことを知らないようにするのはこんなにも大変なことなんだって、初めて知った。


 お昼には教室に戻ってお弁当を食べる。今日は学食はお休みで、来る途中で買ったものだったり家から持ってきたものだったりを仲のいいグループで固まって食べている。私と由上さんはお弁当で、私はママが、由上さんはお兄さんが作ってくれたもの。おかずを交換したりして、お腹も心も満たされた。


 午後の部のメイン競技である400メートルリレーに、由上さんはアンカーで参戦した。うちのクラスは序盤で抜かされ、ビリから二番目。さすがの由上さんでももう難しいかなって距離を空けられていたけど、諦めムード漂うみんなの想像以上の速さで由上さんがトラックを駆け抜ける。

 歓声と黄色い声と悲鳴が混ざって校庭内に飛び交う。

 最終コーナーで由上さんは見事に逆転して、クラスを一位に導いた。

 やっぱり由上さんはすごい! って見つめていたら、一位の場所でチームメイトと喋っている由上さんと目が合った。気づいた由上さんはとても良い笑顔でピースを出してくれて、私もそれに、小さくピースして応えた。周りから囃し立てられたのは恥ずかしかったけど、これもきっと“いい思い出”になるんだろう。

 総合優勝は惜しくも逃したけど、様々な場面で大活躍した由上さんは敢闘賞をもらっていた。


 期末試験前には二人で一緒に図書室へ行って、ロフトの席で勉強した。今度はノートの切れ端じゃなくて、隣り合わせに座ってコソコソ小声で教えあう。まだ少し照れくさいけど、もう一緒にいることはもちろん、肩や手が触れることに遠慮しなくていい。

 登下校もほぼ毎日一緒にしてる。“ほぼ”というのは、由上さんのおうちの事情で難しかったり、どちらかの予定があったりと様々。でもお互い、それで大丈夫って思ってる。ずっと一緒にいたいけど、ずっと一緒にいなくても大丈夫。

 おうちにいるときはメッセしたり電話したりして、こまめに連絡を取りあってるから寂しくない。卒業まであと一年数か月あるしその前には受験が待ち構えているけど、大学に行っても同じようにできたらいいなって思う。


 11月。

 葉が落ちてしまった桜並木の下を歩く由上さんの髪は、色が抜けて桜色。右手をカーゴパンツのポケットにつっこんで、左手で口元を隠しあくびしている。

 授業開始より30分も早い、二人だけの時間を作ってもらうのに無理して早起きさせてるかなって心配になって聞いたら、今日は弟さんのおでかけの手伝いをするのに、更に早起きしたそう。だからむしろ二度寝防止にもなって一石二鳥だって言ってくれた。

「今日は眼鏡なんですね」

「そー、コンタクト切らしちゃって……帰りに買ってかないと」

「文化祭のときも思ったんですけど、やっぱり似合いますね、眼鏡」

「そう? じゃあずっとメガネにしようかな」

「おそろいですね」

「おそろいだね。そうだ、今度同じフレーム買いに行こっか?」

「そのペアルックは斬新です」

 なんて笑いながらも、後日実際に駅ビルに入っているメガネ屋さんに行ってみた。同じデザインで二人ともに似合うフレームを探すのが楽しくて、でも難しくて、見つけたときには二人でハイタッチしたくらい。というか、由上さんはなんでも似合ってたんだけど、私に似合うもののバリエーションが少なくてちょっと苦労した。でも、いままでだったら選んでいなかったデザインの眼鏡を買えて満足だった。


 12月。

 委員長の提案で、クラスでクリスマス会をやることになった。お祭り好きなクラスメイトはみんな喜んで、文化祭でキッチン班になった人たちの提案で「どうせやるならコスプレしよーよ」ってなった。

 私は由上さん、初音(ウブネ)ちゃん、立川くんの四人で家から少し離れた大きなディスカウントショップへ行った。季節柄かクリスマス関連のコスプレ衣装がたくさん並んでいて、目移りするほど。

 立川くんのクラスではそういうのやらないみたいで羨ましがられた。由上さんが委員長に電話で確認したら、『放課後にやるんだし、少人数なら飛び込み参加もありじゃない?』って言ってくれて、立川くんも参加することになった。

 私と初音ちゃんはデザインが違うサンタさんの衣装、由上さんはトナカイの着ぐるみ、立川くんはクリスマスツリーの着ぐるみで参加した。

 由上トナカイさんと立川ツリーくんは大人気で、文化祭のときみたいな撮影会が始まるほどだった。

「彼女できても人気者は人気者なんだねぇ」とは間野さん談。

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