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Chapter.61

 空になったイチゴミルクのパックを捨てるのに、あんなちゅうちょしたの初めて。なんて日記に書きながら少し笑った。

 ページをめくってチェックリストのページを開く。


 ■言ったことを覚えててくれる


 自分でも言ったかどうか覚えてなかったようなこと、覚えてもらえてたって嬉しいけど不思議な感じ。由上さんは周りのこともよく見えていて、気が利くというか気が回るというか、そういうかただから私のことだけじゃなくて、ほかの人たちのことも良くわかってるんだろうな。

 だから私が特別ってわけじゃなくて……。

 机に置かれたクマのリングを指先で揺らす。

「とくべつ……」

 由上さんの“特別”になれたら嬉しい。でも、どうしていいかわからなくなりそう。うしたらいいかもわからないんだから、考えたところで……。

 どんどん埋まりつつあるチェックリストを眺めると、いつも同じことを考えてしまう。でもその答えは、私が由上さんに対してどういう気持ちを抱いているか、がわからないと導き出せない。

 好き、って……どういうのなんだろう。いまのこの感情がそうなのかな。嫌いでは絶対にないし、会えたり喋れたりしたら嬉しいし、二人で一緒にいる時間が大切だし、もっと増えたらいいって思うし……ただその感情は確かだけど、お付き合い、とか、彼氏彼女になる、みたいな、そういう行為や関係性を求めているかがわからない。自分にできるとも思えない。ただ、共通の思い出ができるのが嬉しいだけで……でも由上さんの隣に誰か特定の人がいるようになるのはイヤだ。

 そうなったら、いままでみたいに一緒の時間を過ごせなくなるから、って理由だと思ってたんだけど……


『それって好きってことじゃない?』

 初音(ウブネ)ちゃんに電話で相談したら、そんな答えが返ってきた。

「“好き”……」

『うん。ミイナちゃん、いままで誰か好きになったことないの? お友達として、じゃなくて、初恋、とかそういうので』

「うーん……ないなぁ……」

『近所のお兄さんに憧れてた、とかも?』

「うん……正直あまり、興味なかったというか」

『恋愛マンガとか、小説とかは?』

「それも、あんまり」

『そっかー。じゃあ蒼和ちゃんが初恋の相手だね』

「えっ。そう、なのかな……」

 だとしたら、それは嬉しい。初めての相手が由上さんなの、純粋に嬉しい。

『そうだよ。それにせっかく、りょ……』

 初音ちゃんは言葉を途中で止めて、黙ってしまった……のか、単純に電話機能の問題か。スマホから声が聞こえなくなってしまった。

「初音ちゃん?」

『ごめんごめん。りょ、旅行、行くんでしょ? 家族旅行』

「うん」

『せっかく行くならそこで体験したこととか、メッセ送ってあげなよ、喜ぶよ、蒼和ちゃん』

「そうかな」

『そうだよ。写真とかさ、ミイナちゃんの写真とかも送ってあげたらいいよ』

「それはちょっと、恥ずかしいな」

『そう? まぁ、気が向いたらかまってあげてよ。蒼和ちゃんああ見えて寂しがりだし、気にしぃだからさ』

「そうなんだ……」

 私が知らない由上さんを知っている初音ちゃんが、少しうらやましく思えて口ごもる。

『あれ、ごめん。なんかヤなこと言った?』

 初音ちゃんが心配してくれたから、さっきの考えを言葉にして伝えたら

『そんなの~』初音ちゃんが笑う。『ミイナちゃんのがよっぽど、私だけじゃなくて、誰も見たことない蒼和ちゃんの顔、見てると思うけどなぁ』

「そう、なのかな……」

 私は私だから、ほかの人の体験とか良くわからないけど、でも確かに、ほかの人とお話してるときとは違う表情を見せてくれてるような?

『なんかちょっとしたお土産とか、めちゃ喜ぶと思うよ~』

「お土産……」

『あっ、別に強制とかじゃないからね? おこづかいとかあるしさ』

「うん。でも、それならお返しできるね」

『お返し?』

「あ、うん……えっと……」

 リングのことはもう少し、二人の秘密にしておきたくて、図書室でイチゴミルクを差し入れしていただいたことを報告した。

『へぇ~! マメにしてるんだねぇ!』

 初音ちゃんが感心したように言う。きっと電話の向こうでうんうんうなずいているんだろうなと思う。

「由上さんは誰に対しても、そうじゃない?」

『え~? そんなことないと思うけど~。男子同士だったらわかんないけど、女子にそういうの、しないようにしてるんじゃないかな~。勘違いされちゃうしさぁ』

「勘違い」

『うん。あっ、だから、ミイナちゃんにそういうのするのは、勘違いされてもいいからっていうか、なんていうんだろう。ちょっと難しいんだけど』

「うん。なんか、わかる」

『うん。だから、ミイナちゃんはもっと、自信もっていいよ。蒼和ちゃんに、気に入られてるんだって』

「うん……ありがとう……」

 由上さんを小さなころから知ってる初音ちゃんに言ってもらえると、より一層自信が持てる。

 通話を終えて、ベッドに寝ころんだ。指が自然に動いて、画面に由上さんの写真を表示させた。

 画面の中で微笑む由上さんのそのまなざしは、優しくて、暖かくて、私の胸を熱くさせる。

 好き……って、こういう、感じ……。

 これなら知ってる。由上さんと一緒にいるとき、良くなる。

 そっか……。

 また会うとき緊張したり恥ずかしくなったりするだろうけど、それを乗り越えたら、新しい関係性が待ってるのかもしれない。そう思ったら、少しだけ、見てみたいって気持ちになった。新しい感覚を持って改めて見た宝物たちは、いままでより光り輝いて見えた。

 胸の奥がきゅんと切なくうずく。

「そっかぁ……」

 由上さんとの思い出が綴られたルーズリーフを見て自然と緩む顔が、私の感情を表現していた。

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