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Chapter.40

 仕事から帰ってきたパパに家族旅行の日程を聞いたら、幸いみんなとおでかけする予定とは違う日だった。

 おねーちゃんは「受験生を泊まり旅行に連れてくとかどういう神経?」とプンスカしてたけど、パパが考えてる旅行内容を聞いたら少し楽しみになったみたいだ。

 おねーちゃんは第一志望の大学に受かったら上京する予定らしく、家族旅行もなかなかなくなるかもなぁ、ってパパはしんみりしてた。

 私はおねーちゃんの進路を知らなかったから、ちょっと驚いた。そして、寂しくなるなぁって思いながら夕食を食べた。

 自室に戻ってスーパーで買ってもらった雑誌を広げ、自分の顔や体形のタイプに似合うと紹介されてるメイクやコーディネイトを見比べながら色々考えてみる。うーん、正直良くわからない。

 そもそもなにから始めたらいいかもわからなくて、なんとなく、座り姿勢を正して足など浮かせてみる。

 数分やったくらいで効果が出るのか甚だ疑問だけど、やらないよりはマシな気がする。

 気になった服装や髪型、メイクのページで手を止めるけど、必要経費を見るとどうしても文庫本の冊数に換算してしまう。うぅー。どうしたってオシャレよりも読書に興味があるから仕方ないんだけど、欲しかった新刊が何タイトルか買えなくなると思うと……いやいや、頑張ったら由上さんに可愛いと思われるような、隣にいても恥ずかしくないような女の子になれるかもしれないし!

 私にだってママやおねーちゃんと同じ血が流れてるんだし! たとえ私がパパ似だったとしても!

 気持ちを奮い立たせて貯金通帳を確認。うーん、いけなくはない、かなぁ……。

 ママが買ってくれるって言ってたけど、全額出してもらうのは気が引ける。

 いったん、どうなりたいか全部決めてから算出してみようと思って、さらにページをめくった。

 そこには女性の一か月間の予定と、それに合った着回しコーディネイトを紹介する企画が掲載されていた。その中で女性のモデルさんが、彼氏役の人とデートをする場面があった。

 切り出された写真にふきだしが添えられて、セリフが書かれている。

『たまにはカレに合わせてカジュアルに』

 カレに合わせて、か……。

 思い浮かんだのは由上さんの姿。

 彼氏じゃないけど、四人でお出かけをするならきっと隣を歩く場面があるんだからそういうのも考えたほうがいいのかな。

 由上さんが学校に着てきている服をいくつか思い浮かべてみたら、やっぱりカジュアルなものが多い。

 色味はそこまで多くなくてシンプルで、ちょっとオーバーサイズっぽい。細身だからそう見えるだけかもしれない。

 こういうとき、私服オッケーな学校で良かったと思える。制服しかダメだったら、普段どんな服装なのか想像もつかなかった。

 そうやって考えながらもう一度記事を読んだら、漫然とながめていたときより目指す外見がハッキリした気がする。

 私の顔は置いておいて、こういう服装だったら由上さんの隣にいても不釣り合いじゃないかなって。

 気になる服をいくつか見繕って、その中から自分が着てても変じゃないものを組み合わせてみた。

 ……うん。いいんじゃないでしょうか。

 髪型はアレンジでなんとかしてみるとして……ママか初音ちゃんにお願いするのもありとして……ページの片隅に書かれたショップ名と金額をメモして、ネットで調べてみる。どれも都心のショップで買えるみたい。似たようなものなら地元のウニクロか4U(ふぉーゆー)でも買えそうかも。

 明日、ママに提案してみよう、と何ページかにふせんを貼って、雑誌を閉じる。

 その手でルーズリーフを取り出した。

 マンスリーのページを開いて、さっきパパから聞いた家族旅行の日程と、四人で決めたおでかけの日を書き込む。

 よーし、最初の予定がある日までに宿題終わらせちゃお!

 けっこうどっさり出た夏休みの課題を机に積み上げて、苦手な教科のものを上に置く。そうすればきっと苦しいのは最初だけで、あとはそこまで大変じゃない、と思う。

「みーなぁ、お風呂空いた~」

「はぁい」

 ドアの外から聞こえたおねーちゃんの声に返事をして、着替えを見繕って廊下に出る。階段をおりる私の足音は、心情と同じようにウキウキと軽やかだった。


* * *


 お風呂から出て、リビングにいたママにお買い物の予定を聞いてみたら、快諾してくれた。

「お友達とお出かけの日、大丈夫だった?」

「うん、旅行とは違う日だった」」

「なんだ、なんか予定あったんだ」

 かたわらで聞いていたパパが口を開く。

「うん、今年は。お友達と遊びに行くの」

「そうか、それは楽しみだな」パパはにこやかに言って、マグカップに口をつける。「ところで、その中には男の子もいるのかな?」

「え……」

「やぁねぇパパ! いてもいいじゃない。みぃちゃんだってもう高校生なんだから~」

 言葉に詰まった私の代わりにママが答えた。

「いや、だから光依那にはまだ早い」

「私と付き合い始めたの、みぃちゃんとかおねぇちゃんくらいのときだったでしょ?」

「え、そうなの?」

「そ、そうだけど……」

「それにそういうことコマコマ言ってると、“パパうざ~い”って言われちゃうわよ」

「そっ、そんなこと言わないよね? ねっ?」

「えっ、う……」

 困ってママを見たら、片目を細めながら笑ってパパに向かってあごを向けた。

「あんまりだと、言う、かも……?」

 そう言えって合図なのかと思って言ったら、パパがとても悲しそうな顔になってしまった。

「おねぇちゃんだってみぃちゃんだって、いつか未来の旦那さん連れてくるんだろうから、いまのうちに慣れておいたら? あなただって昔、そうやって私と結婚したんだから」

「う…あげる側ともらう側じゃ、違うんだよ……」

 しょんぼりしたままパパがぽつりと言う。

「も~。パパは二人が小さいころからずっとそうやって言うのよ~。ママなんか早く孫欲しいな~って思ってるのに」

「「まっ」」

 私とパパの声が重なった。

「孫はまだ早いよ!」

 パパの言葉に私もウンウンうなずく。

「そおぉ? ま、パパも彼氏くらいはそろそろ覚悟しておいてね~」

 歌うようなママの言葉に、パパはうなだれたまま「うん……」小さく答えた。

 なんだか申しわけない気持ちになるけど、いつかそういう日がくるんだろうかって期待もあったりする。その相手、由上さんだといいなぁ、なんて大それたことも思ってしまう。

 違う違う、私のこの気持ちは憧れであって……!

 誰にするでもない言い訳を考えながら階段をのぼって自室へ戻った。本棚から文庫本を一冊、取り出してからベッドに寝ころんだ。

 もう何回も読み込んでいるお気に入りの小説。

 私みたいに引っ込み思案で勇気も自信もない女の子が、色々な人に出会って色々なことを体験して成長していくという内容の本は、いつも私を勇気づけてくれた。

 小さいころに出会ってずっと読み返していて、その本を読むと主人公のようになれてる気がする。

 ページをめくりながら感じていたワクワク感を、いまは明日に対して感じている。

 ずっと憧れてたそのお話のように、私も色々な人に出会って、これから色々なことを体験しようとしている。だから今年の夏休みは、いままでよりもずっと楽しみで仕方ない。

 最初に読んだころには主人公の気持ちが理解できない部分もあったけど、いまはわかる気がする。

 音ノ羽学園に入って立川くんや初音ちゃんと親しくなれたから……由上さんに出会えたから……私はきっと、これからも変わっていける。いまはそれが怖くない。

 こんな風に思える日が来るなんて、って少し信じられない気持ちをいだきながら、もう全部暗唱できるくらい読み込んでいる文庫本のページをめくる。

 ストーリーを知っていてもドキドキするんだから、どうなるかわからない明日のことを考えるともっとドキドキする。

 それは不安というより期待に近くて、人生ってこんなに楽しいんだなってようやく思えるようになった。

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