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Chapter.39

「ただいま~」

「おかえり。なんだかご機嫌ね」

「夏休みだもんね~、ごきげんにもなるよ」

 リビングに声をかけたら、ママとおねーちゃんの声がした。

「うん」

「いいなー、みーなも来年には勉強地獄だぞ~」

 麦茶を飲みながらおねーちゃんが言う。おねーちゃんはいま高校三年、受験生だ。

「じゃあ今年、満喫しておかないと」

「そうそう。夏休みなんて学生のうちだからね。みぃちゃんもおねぇちゃんも、学生のうちにやりたいことやっておくといいわ~」ママは歌うように言って席を立つ。「お昼ご飯、チャーハンでいい?」

「うん、ありがとう」

「私も食べる」

 私服に着替えてリビングで待ってる間、ママがキッチンでパパッとご飯を作ってくれた。

 いつか私もママみたいになれるかな。そのとき一緒にいるのは誰なんだろう。由上さんだといいな。って考えてハッとする。

 “カノジョ”になりたいわけじゃないのに、なんでそういうこと思うんだろう。

 ただ憧れていただけのころより近くなった距離感に勘違いをしているみたい。

 恥ずかしくなって、一緒に出された中華風の卵スープを飲み干して、カップでママとおねーちゃんから顔を隠した。


 勉強をしに部屋に戻ったおねーちゃんの分も一緒に食器を片付ける。由上さんを見習って、じゃないけど、夏休み中、出来る限り協力してみようかな、なんて思った。

「ね、このあと夕ご飯のお買い物に行くんだけど、なに食べたい?」

 ママが食器を洗いながら言う。

「うーん、食べたばかりだから思いつかないなぁ」

「そっか。お昼は中華だったから、夜は和食とかがいいかな~」

 鼻歌を歌いながら食器洗いを進めるママに、

「一緒に行こうか? 荷物持つよ」

 なんて言ってみる。

「あら、いいの?」

「うん、たまには」

 いままでは少し恥ずかしかったけど、一緒に洋服を買いに行ってから、その気持ちも薄れていた。たまには荷物持ちくらいしてもいいかな、って気分。

 それもきっと、さっきまで一緒にいた由上さんから(勝手に)もらったパワーのおかげだ。

「じゃあお願いしちゃおっかな。メニューは買い物しながら考えるか」

「うん」

「じゃあ、みぃちゃんの準備ができたら行こうかな」

「はーい」

 食器洗いのサポートを終えて階段をのぼって自室に入り、トートバッグにスマホと日傘とお財布を入れた。リビングに戻ってママに声をかける。

「お待たせ」

「ううん、全然。じゃあ行こうか」

「うん」

 ママと二人で外に出る。日はまだ高くてアスファルトの照り返しが熱い。

 バッグから日傘を出して、パチリと開いた。ママも同じように自分の日傘をさしている。

「日傘、いい感じ?」

「うん、いい感じ。軽いし、案外涼しい」

「直射日光防ぐと違うわよねー。日焼け止めもこまめにね」

「うん」

 こまめに、は忘れがちだけど、朝家を出る前には塗るようにしてる。本格的な夏になる前、ママとおねーちゃんに日焼け対策について熱弁されたからだ。

「それにしてもホント、急にどうしちゃったの? ファッションもそうだけど、お手伝いとかもしてくれるようになっちゃって。ママとしては嬉しい限りだけど」

「ん……もう、高2だし、そろそろな~って……」

 由上さんのことは家族には話してないから、ちょっと言いづらい。いっぱい聞かれても話せるような関係性でもない……と思うし、言えずにいる。

「そっかー。みぃちゃんもそんなトシなのね~。おねぇちゃんも来年には大学生だしね~」

「おねーちゃんはもう、進路決めてるのかな」

「うん、そうよ? みぃちゃんも三者面談そろそろ?」

「だねぇ。プリントもらったら渡す」

「うん。なにかこんなとこがいいな~とかあるの?」

「ん~……いまいち……よくわかんない」

「まぁそういうものよ。ちょっとでも興味あることができたら、調べてみたらいいわ。いまは手軽にネットで調べ物もできるんだし」

「うん、そうだね」

 そっか。おねーちゃんは将来のこと考えてるんだ。

 ふと、日傘の影を見てあの日のことを思い出す。由上さんと二人の秘密ができた屋上のこと。

 高校卒業したら、由上さんとのつながりは、スマホの中の連絡先だけになってしまうんだろうな。もしかしたらメッセだって、いずれ使えなくなってしまうかもしれない。

 いま以上に連絡することを躊躇してしまう距離感になるのだろうし、そうなったらもう、会うどころか、なにをしているのかすらわからなくなる。

 それは、いやだな……。

「みぃちゃん」

「んっ」

「着いたわよ」

「あ…うん」

 考え込んでいたら、目的地であるスーパーの前を通り過ぎそうになっていた。

 日傘をたたんで肩からかけたバッグに入れた。

「かご持つ」

 なんとなく手持ち無沙汰になったから申し出てみる。

「あら、ありがとう」

 ママには“いつものルート”があるようで足取りが軽い。普段はあまり行くことのないルートだから、ママの少しあとを着いて行く。

 ママは野菜や生鮮食品をじぃっと眺めて、かごに入れたり棚に戻したり。

 いつもこうやってお買い物してるんだなーってぼんやりと眺めていたら、レジのすぐそばに雑誌ラックがあるのが見えた。

 夏休みのおでかけに着ていくのに良さそうな服、載ってたりするかな。

「みぃちゃん、欲しいものあったら言ってね」

「ありがとう。あとで雑誌見てもいい?」

「いいわよ~。いま行ってきたら? ママちょっとあっち見てくるから、欲しいのあったらかごに入れておいて」

「はぁい」

 なんだか小さい子がお菓子をねだったときの返答のようで、少し恥ずかしくなったけどここは甘えてしまおう。

 買う物が入ったかごを手に、レジの横に移動する。足元にかごを置いて、並べられた雑誌の中かファッション誌を眺めていると、表紙に書かれた一文が目に入った。

【憧れは、手に入る。】

 “努力は必ず実る”みたいな言葉だなぁ、と思いながら雑誌を手に取り、ページをめくった。

 気になったキャッチコピーは特集記事のタイトルで、巻頭の数ページに渡って顔立ちや年齢、髪型などでわかれたタイプごとのメイク術や着こなしコーディネートなんかが載っていた。

 そもそもこういう雑誌を手に取ること自体、いままでの私だったらありえないことで、立ち読みしてるだけでなんだか気恥ずかしくて落ち着かない。

 おねーちゃん持ってるかな。貸してって言ったら貸してくれそうだけど……。

「決まった?」

 いつの間にか近くに来ていたママに声をかけられた。

「えっ、や」

「あら、いいじゃない、買ったら? おねぇちゃんが好きなのとは別のタイプのだから、おねぇちゃん持ってないわよ? きっと」

「そうなんだ」

「うん。お手伝いのおだちんってことでいいなら」

「ありがとう。じゃあ……お願いします」

「うん」

 手に持った雑誌を足元のかごに一冊入れて、持ち上げた。

「あとは?」

「うーん、こんなものかしら。レジも()いてるし、これでいいかな」

「はーい」

 ラックのすぐ横にあるレジ台にかごを乗せてから窓際に移動して、ママが会計を済ませるのを待つ。窓添いに設置された長いカウンターには、ロールのビニール袋とセロハンテープがセットされた金属製の台が等間隔で並んでる。

 なんていうんだっけ、この台。なんかクイズ番組で見たような。なにかのスポーツと同じ名前の……あ、サッカーだ。サッカー台。

「お待たせ~」

 よいしょ、とママがサッカー台の上にかごを置いた。

「重いからふたつに分けよっか」

 ママはバッグから畳まれたエコバッグを出して、手際よくかごの中身を移していく。

「そういえば夏休み、パパが家族旅行行くって言ってたわよ」

「え、急」

「ねー、いっつも勝手に決めちゃうのよね~。おねぇちゃん受験生よって言ってるのに、息抜きも大事とか言っちゃってさぁ」

「私、予定ある日あるんだけど……」

「あら、お友達と?」

「うん……」

「そう」ママは心なしか安心したように微笑んだ。「じゃあ、パパが帰ったら日程聞かないとね。おねぇちゃんの都合もあるし」

「変更できるものなの?」

「パパの夏休み期間中ならいいんじゃない? 泊まりとか言ってたけど」

「予約してるんじゃ」

「かもねぇ。どうしても無理だったらパパ一人で行ったらいいわよ」

 そんな話しているうちに、袋詰めは終わっていた。

「みぃちゃんそっちの、雑誌入ってるほうお願いね」

「うん。日傘さすよ」

「あら、ありがとう。ママのやつのが大きいから、そっちにしよっか」

 買い物袋と日傘を渡されて、ママと一緒にスーパーを出る。パチンと音を立ててさした日傘。

 秘密基地みたい、って言った由上さんを思い出して、思わずニヤニヤしてしまった。

「おでかけ用のお洋服、どうするの?」

「あ、えっと……」

「またお買い物行く?」

「いいの?」

「いいわよ~。こないだ買ったやつ、夏には向かないもんね」

「ありがとう」

「うん、欲しいもの決まったら教えてね。また二人でお出かけしよう」

「うん」

 まだ夏休みは始まっていないのに、もういくつも予定が決まってしまった。

 帰ったらすぐに宿題に取り掛かって、早めに終わらせてしまおうと心に決めた。

 その先に由上さんとの楽しい予定が待ってるって思ったら、それだけで頑張れると思えた。

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