Chapter.41
夏休み初日の朝、午前中の涼しいうちに課題を進める。自室の窓から入ってくる風はあまりないけど、曇り空だからか日差しはそこまで強くない。今日は少し、過ごしやすそう。
「みぃちゃん、いい~?」
ママに声をかけられて「はぁい」ドアを開けた。
「ママ、家のこと終わったから、みぃちゃん大丈夫なときにお洋服、買いに行く?」
「うん、行きたい。課題、切りのいいとこまで終わったら支度しておりる」
「うん、焦らなくていいからね~」
「はぁい」
返答して、机に向きなおる。元々予定してたページまで終わらせてから身支度を整えてリビングへおりた。
「あら、終わった?」
「うん」
「早かったわね。お昼ご飯外で食べる?」
「おねーちゃんは?」
「好きなときに食べるって言ってたから、冷蔵庫のものどうぞって言ってある」
「そうなんだ。じゃあ、お店空いてたら」
「あぁ、そうね。もう学生のコたち、みんな夏休みよね」
なんて言いながらママも出かける準備を終えて、二人で家を出た。
前と同じく原宿とかまで出ようかって話もしてたけど、混んでそうだからって地元の駅ビルに行くことにした。
「あらぁ、ここも混んでるわねぇ」
「ホントだね」
学校帰りにたまに寄るけど、そのときよりも混雑している。子供からお年寄りまでさまざまだけど、夏休み初日って感じの混み具合。
「とりあえずお洋服買っちゃおっか~。お昼、並んでたらなにか買って帰りましょ」
「うん」
ママと一緒にエスカレーターに乗ってアパレルフロアまで行く。雑誌で見ていたお目当てのお洋服とテイストの近いものを探す。頭に浮かんでいるのは、“由上さんの隣に立ってる自分”だ。
立川くんや初音ちゃんも一緒だけど……そこはごめんなさいして、二人だけの姿を思い浮かべる。
店員さん目線のママと相談しながら買うものを決めていく。
「こないだよりマニッシュにするのね。だったら髪型変えたほうが似合いそう」
ママの中に、選んだ洋服を着た私が見えてるみたい。少し考えながらほかの服も提案してくれる。
「一緒に遊ぶコたちは普段どんな服装なの?」
「えっと……」
まずは初音ちゃんの説明。可愛くておしゃれが好きで、服に合わせて髪型とかメイクを変えるような感じ。
立川くんと初音ちゃんはお付き合いしてて、服装もおしゃれ。美術が好きだからなのか、色彩というか、色の組み合わせがいつも素敵。
そして由上さんは……うーん、とにかく、かっこいい。目立つ。オーバーサイズの服が似合う細身の人。あとはー……思いつく限りの説明をしていたら、ママの顔に笑みが広がっていく。
「な、なに?」
「ううん? そっか、みぃちゃんはそういう男のコがいいのね~」
「そ、そういうのじゃない……」
「そう? なるほど、そういうコたちと遊ぶなら、カジュアルなほうがいいかもね。ママ的にはスカートも推したいけど~、どこに遊びに行くんだっけ?」
「えっと……」
答えようとしたら、バッグの中でスマホが鳴った。メッセの新着音だ。
「あ、ごめん」
「うん」
ママに断りを入れてスマホを見たら……わっ、由上さんからだ!
思いがけない相手に慌てて画面を開く。
sowa{急なんだけど、今度の土日って空いてる?〕
〔はい、空いてます。}みーな
sowa{中学んとき住んでた地域で夏祭りやるんだけど、一緒にどう?〕
sowa{三咲と枚方もくるから安心してね!〕
〔行きたいです!}みーな
返事を送信して「あ」思い出す。
「お友達?」
「うん……週末、お祭り行かない? って」
「あら、いいじゃない。確かさっき、浴衣セールしてたわよね。見てみる?」
「見たいけど……大丈夫かな」
「着付けならママできるわよ?」
「でもちょっと遠いとこまで行かないとならない、はず」
確か由上さんと美好さんが話してた気がする。由上さんが中学のころ住んでた地域、学校まで急行で何十分かかかるって。
「あら、そう。じゃあちょっと不安か」
「うん…崩れたりしたら直せなさそう」
「それはやり方教えてあげるけど」
「うーん」
悩んでいたらまた新着音が鳴る。
sowa{ご家族の許可が下りたら、だけど、泊まりとかどう?〕
……えっ?! えぇっ?!
予想外の展開に、思考が一瞬止まった。とまとま、泊まり?! ど、どこに?! キャンプとか??
慌てていたら、その感情を察知したかのようにもう一度、新着音が鳴った。
sowa{説明長くなるから電話していいかな〕
ビックリして、でももう既読付いちゃってるから、と思ってあわてて返事を打つ。
〔はい、大丈夫です。}みーな
文面では平静だけど、身体は熱くて心臓が暴れている。電話で喋るの初めてなんだけど! ってはわはわしてたらメッセの着信画面が表示された。
「い、いい?」
「いいわよ。ママ自分のお洋服見てるから」
「ご、ごめん」
間違えて拒否のボタンを押さないようによく確認して、通話ボタンを押した。
「はっ、はい」
『あ、もしもし? ごめんね?』
「い、いえ。大丈夫です」
耳に直接入ってくる由上さんの声がくすぐったい。
電話をしながら邪魔にならなさそうな場所を探してお店の壁際に移動する。
『泊まりの話さ、変な意味じゃなくて、オレのじーちゃんばーちゃんが民宿やってるのね?』
「そうなんですか」
『うん。で、三咲も枚方も子供んころから夏になると泊まりに来てて。今年もみんなで行くんだけど、今年は天椙さんもどうかな? って思って』
「あ、そういうことですか……」
ホッとガッカリが混ざったような声が出て、自分でも驚いた。別に変な期待なんてしてない……
『…なんか変な想像とか』
「ちっ! ちがいます。キャンプとか、そういうのかなって……」
『あー、そういう』由上さんが小さく笑う。『ちゃんとメシも風呂もあるし、男女で部屋別だからそこは安心して。無理そうだったらいいんだけど』
「お、親に確認してみます」
『うん。ダイジョブだったらメッセもらっていいかな? じーちゃんたちに一人増えるって連絡入れるから』
「はい」
『来てくれたら枚方も喜ぶし、オレも嬉しいな』
「わっ、私も、行けたら嬉しいです……!」
『うん。急でごめんだけど、よろしくね』
「はい」
『じゃあ、また』
「はい。また」
耳元で電子音がして、通話が切れた。
わ、わ、嘘みたい。メッセが来るだけでも嬉しいのに、電話しちゃったし誘ってもらえちゃった。
早速ママに大丈夫か聞いたら
「あらぁ、いいじゃない。行っておいで。パパにはうまく言っておくから」
ママは二つ返事で許可してくれて、協力までしてくれることになった。
「じゃあお泊り用のものも買わないとね~。あと浴衣もね」
なんだか私よりもママのほうが楽しそうで、申し訳ない気持ちもいつしか薄れて行った。
夜、日課の日記を書く。
由上さんが連絡をくれたこと、夏祭りに誘ってくれたこと、それがとても嬉しくて楽しみなこと。
そして、今日もまたチェックリストにふたつ、完了のしるしをつけた。
■連絡してくれる
■誘ってくれる
チェックリストがどんどん埋まっていくのが嬉しくて、もっと由上さんと交流が持てたらいいなって思う。
今度会う時に着ていく服のコーディネイトを考えていたら、顔がニマニマ緩んでいた。
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