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chapter.28

 初音(ウブネ)ちゃんと一緒に食堂から戻って自分の席に座る。

 いまは無人だけど、昼休みが終わるころには由上さんが戻ってくる。うーん、贅沢だなぁ。

 いつまでこの席でいられるかはわからないから、近いうちにイメチェンして、由上さんに見てもらいたいって思う。

 さっき初音ちゃんに教えてもらったブランドやショップは、さっそくスマホで検索してブックマークした。見ていて可愛いと思える洋服はたくさんあったけど、それが自分に似合うかどうかはまた別の話だ。

 普段着は楽なものが多いし学校には制服で来ているし、おしゃれ…と言えるかわからないけど、気遣っているのは津嶋くんとおでかけするときに着るものくらい。でもその服装で学校に来るのはなんとなく抵抗がある。

 うー、自分めんどくさい……。

 口をとがらせながら次の授業の準備をしていたら由上さんが戻ってきた。

 あ。

 思わず声を出しそうになって、飲み込む。うーん、まだ慣れない。

 一緒に戻ってきた田町くんと冨谷(トミヤ)くんは由上さんになにやら目配せしている。由上さんは苦笑いを浮かべてそれを受け止めていた。

 そういえば食堂ではテラス席に座ってたみたいだけど、顔を動かさないと見えない位置だったから確認ができなかった。なんでわかったかっていうと、目線に入る女子たちの視線が私の斜め後ろ、ガラス窓の外に向けられていたからだ。

 何人かの女子たちはテラス席に視線を注ぎ、ささやきあったり色めきだったリしていた。その中には誰かが立ち上げたらしい“蒼和様ファンクラブ”の会員だと噂の人たちも混ざっていた。

 どこへ行ってもなにしてても注目されるのって大変そう。私もたまにチラ見されたりするけど、ただ制服を着ているのが珍しいってだけだし、私自身が注目されているわけではない。

 由上さん、なにか困ったりしてないかな。なんて私なんかが気にすることでもないだろうけど……。

 色々心の支えになってもらったりしてるから、なにかお返ししたいんだよなー。というのは私の勝手な考えで、由上さんは心の支えになってるのは知らないだろうし、なにも必要としていないだろうから。うーん。

 由上さんのことになると、なんでかいつも以上にグルグル考えてしまう。

 自分から話しかけるのも難しいというのに、なにをお返しできることがあるのだろう。

 そうこう悩んでいるうちに時間が経って、始業のチャイムが鳴った。

 頭の中で授業の内容とさっきまで見ていた洋服の写真と隣で授業を受けている由上さんの気配が入り混じる。

 それじゃダメだって、目は教科書と白板とノートに、耳は先生の話に集中して、昼食あとの数学の授業を乗り切った。

 腕を伸ばしてグーッと伸びをする。肩のあたりがパキパキ鳴って、無意識のうちに緊張して身体が固まっていたことに気付く。

 別に見られてるわけでもないのになぁ……。

 次の授業の準備をしつつチラッと見てみたら、案の定由上さんも同じように教科書とノートを次の授業のものと入れ替えてた。

 ほら、自意識過剰なんだって……。

 ふぅ、と小さく息を吐いて、先生が来るのを待つ。

 帰ったらママに欲しいもの決まったよって伝えて、今度の土曜か日曜に一緒に買い物に行く約束をしよう。

 ママが良いって言ったら渋谷か原宿……うーん、でも行ったことないし迷ったら困るか……休みの日とか混みそうだし。ウニクロで練習したほうがいいのかな。それともネット……だと“一緒にお買い物行く”って感じじゃないもんなぁ……。

 なんて、帰ったあとのことを色々考えていたら、いつの間にか先生が教室に来ていて、日直の人が号令をかけた。「きりーつ」

 少し慌てて立ち上がる。

 あぶないあぶない、ぼーっとしてた。心ここにあらずってこういう状態だよね。

 この時間で今日の授業は終わりだから、と、はやる気持ちを抑えて、いまは授業に集中しようと考え直す。これで成績落ちちゃったら本末転倒だし。

 こんな風に気持ちが浮つくなんてめったにないことで、いい変化だなと思いつつもちゃんと気持ちを切り替えなきゃって、数学の時間と同じように授業に集中した。


* * *


 今日も部活があるという初音ちゃんとバイバイして、帰宅する。

 頭の中はママになんて切り出すかのシミュレーションでいっぱいだ。

 どう言っても断られたりしないってわかってるけど、慣れないことは緊張する。

 いつもの道を通って帰宅する。ママに帰宅の挨拶をして、着替えたり手洗いうがいしたりしてリビングへ向かった。いつもは先に宿題を終わらせるけど、今日は多分、集中できなさそうだから先に任務を果たすことにする。

「ママー」

「なにー?」

「昨日言ってたお買い物の件なのですが」

「うん、決まった?」

「うん。電車乗ることになっちゃうんだけど」

「いいわよ。土曜か日曜よね?」

「うん、そうだね」

「どんなの買うかも決めたの?」

「うーん、イメージは、一応」

「写真とかある?」

「うん……」

 言いつつスマホを操作する。いまいち自信はないけど、これなら自分に似合うんじゃないかと思った服のスクショを見せた。

「これなんだけど……」

 ママの賛同が得られるか不安でおずおずとスマホを差し出した。

「あら、いいじゃない」

 スマホの画面を見るや、ママの顔がパッと明るくなった。

「そう? 良かった」

「うん、みぃちゃんの雰囲気に合ってるし。去年もたまにおめかししてお出かけしてたもんね。その人用?」

 ママが言っているのはきっと津嶋くんのことだ。

「ちっ、違う! そのひとじゃない!」

「あらそう? 彼氏なら連れておいでって言おうと思ってたんだけど」

「ない! 違うから」

 思っていたより強い口調で否定してしまって、頭の中で津嶋くんに謝った。決して嫌いじゃないんです……。

「あらそう」

「同じのじゃなくても、こういう感じのだったらどこのでも大丈夫なので」

「うん。じゃあ今度の土曜日に行こう。何時頃にしよっか」

「うーん、そうだねぇ」

 それからママと相談して、出かける時間を決めた。ママと二人で買い物なんていつ以来だろう。

「あれ? みーなとママ、お出かけするの?」リビングにやってきたおねーちゃんが会話に加わってきた。

「そうよ~。久しぶりにおでかけ」

「いいなー、どこ行くの?」

「原宿、かな」

「見つからなかったら渋谷も行こう。近いからすぐよ~」

「そうなんだ」

「えー、私は~?」

「おねぇちゃんはこないだ買ってあげたばっかでしょ? 自分のお小遣いで買うならいいんじゃない?」

「え、それは無理。今月もう金欠だもん」

「じゃあおねぇちゃんはお留守番ね」

「うー。まぁいっかぁ。どこのお店行くか決めたの?」

「う、うん……一応」

「えー、見せて見せて」

 おねーちゃんが私に身を寄せてきたから、服の写真が表示されたスマホの画面を見せたら、おねーちゃんの口からすぐにそのブランド名が出てきた。

「いいじゃん、清楚系でみーなに似合うよ」

「おねぇちゃんとは好みが全然違うのね~。ママ楽しみだな」

「えー、いつか貸してもらおうかな」

「あっ、そうよね。みぃちゃんもおねぇちゃんのお洋服、借りたりしたらいいじゃない。自分じゃ選ばないタイプの服が似合うこともあるわよ?」

「いいの?」

「いーよいーよ、減るもんじゃないし、みーななら汚したりしなさそうだし」

「は、入るかな……」

 中肉中背の私と違って、おねーちゃんはスリムだ。その分色々頑張ってるみたいだけど、サイズが違うのは見るからに明らか。

「着てみて入らなかったらあきらめるか、ダイエットだね~」

 おねーちゃんがカラリと笑う。

 うーん、そこまでしてキレイな服着たいと思わないかも……でも確かに初音ちゃんもクラスのみんなも、なんだか色々頑張ってるみたいだし、学校内でノーメークなの、ごく少数派みたいだし……私はもちろんその少数派に入るわけで……。

 頑張ったら、由上さんに褒めてもらえるかな……?

 ふと思い出した由上さんの手の感覚。あれをもう一度、今度はちゃんと味わいたい。

 そう思ったら、口から言葉が出ていた。

「するってなったら、協力してくれる?」

 モジモジしながら言ったその言葉に、ママとおねーちゃんはウンウンうなずいてくれた。

「私のでイヤじゃなければメイク道具も貸すし」

「そういえばおねぇちゃん、みぃちゃんが小さいころ、ママの道具使ってメイクしてあげてたわよね~」

 ママが急に遠い目になって思い出話をしだして、あ、これは長くなりそうだぞっておねーちゃんと顔を見合わせた。

 そんな時間、なんだかすごく久しぶりで、一歩踏み出してみるのも悪くないって思えた。


* * *


 夕食を食べ終えておねーちゃんがお風呂に入っている間に宿題をすませて、私もお風呂に入る。

 なんとなく、入念に身体を洗ってみたりする。

「自分磨き……」

 ふと口を出たのは良く聞く言葉。でもいま私がしているのはそういう意味ではない、ただ“身体の表面を磨いている”ってだけ。

 勉強以外でそういうことをしようって気になる日が来るとは……。

 由上さんの影響力ってすごい。

 お風呂からあがって書いた日記に、思ったことをそのまま記した。

 高校に入ってからほぼ毎日、由上さんの名前を日記に書いている。“恋”のほうが、重くなくていいんじゃないかって思うほど、毎日由上さんのことを考えている。

 人気者だから? かまってくれるから? ピンク色の髪が珍しいから?

 こんなにも気になる理由を考えてみるけど、もうよくわからない。

 ただ、目を引くその人を追ってしまう。そして、気付いてしまう。

 もしかしたらこの人は、本当は孤独なんじゃないかって。

 ふとした瞬間に。一人でいるときに。笑いの中の一瞬の静寂(しじま)に。

 ただの私の妄想なのかもしれないけど……それでも。

 だから、とても、気になってしまうんだ。

 そう思うことで、自分の気持ちに理由と意味を付けた。

 それは“恋”とか“愛”とか、そういう好意ではないって、そう思いたくて。

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