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Chapter.29

 土曜日、午前中からママと電車に乗って原宿へ行った。

 私なんかよりママのほうが道やお店に詳しくて、迷いそうになる私を先導してくれたりした。

 店員さんとのおしゃべりもママが買って出てくれて、店員さんが二人に増えたようなトークをされた。二人のおすすめもあって、目当てのお洋服に合うトップスやボトムスも買ってもらった。試着室で着替えるなんて久しぶりすぎてちょっと慌てたけど、特に問題なくお買い物できた。

 お昼ご飯はママと一緒に人気のカレー屋さんに入った。チーズを乗せたドライカレーが美味しくて、普通のドライカレーを頼んだママと半分こして食べた。

 おねぇちゃんはパパと一緒にお家でデリバリーしてるらしい。

「みぃちゃんとお出かけするの、いいわねぇ。いつ以来かな? 二人きりでおでかけなんて」

 ママは嬉しそうに言って、セットドリンクのラッシーを飲んでいた。

「また、お願いしてもいい……?」

 おずおずと言ってみたら

「もちろん!」ママは快諾してくれた。「普通に近所のおさんぽとかもしたいわぁ」

「うん、お休みの日に行こう」

「二人でもいいしおねぇちゃんと三人もいいわねぇ」

「パパは?」

「あぁ、そうね。四人でおでかけもいいかもね」

 思い出したように言ったママの口調に思わず笑ったら

「パパには忘れてたこと、内緒ね? 拗ねちゃうから」

 少しバツが悪そうに笑ってた。


* * *


「おー、いいね、似合う」

 家で待ち構えていたおねーちゃんとパパの前でファッションショーをする羽目になった。ものすごく恥ずかしいけど、みんなの前に出る練習になっていいかも? と考えながら買ってもらった洋服をいくつかの組み合わせで着替えた。

 ママと店員さんが選んでくれた服は、どの組み合わせでも違和感なく着ることができて、なにかと重宝しそう。

 ママもご満悦でうなずいたりおねーちゃんやパパと感想を言い合ったりしてくれた。

 いまのクラスでは会話できる人も増えたから、いつも制服の私が私服で行ったら、きっと誰かしらがどこかしらいいところを見つけて褒めてくれる――と思う。だからいまこの時間は、そのときの予行演習。とでも思わないと恥ずかしくて逃げ出したくなるくらい褒められた。

「今度はパパとも買い物行こうよ」

「え、うん、いいけど……」

「えー、パパが原宿とか行ったら浮いちゃうんじゃない?」

「そんなことないだろー。部下には“若いですね”って良く言われるぞ」

「社交辞令だよー。そう言えば優しくしてもらえるかもだし、気分も悪くならないしさぁ」

「そうかなぁ」

 パパとおねーちゃんのやりとりをママが優しく見守る。

 そっか、大人の人って若いって言われると嬉しいんだ。私はまだまだ子供だから、大人っぽいって言われたほうが嬉しい。でも確かに“若い”とか“オトナっぽい”はいいけど“子供っぽい”とか“老けてる”はイヤかもな……。

 小説読んでるときでも、ん? その表現は違うほうがいいんじゃない? って思っちゃうときもあるし。日本語の言い回しって難しいなって改めて感じる。

 おしゃべりする機会も増えてきたし、気を付けないとな、なんて考えていたら

「みーな、またなんか違うこと考えてるでしょ」

 気付いたおねーっちゃんが笑った。

「よくわかるね」

「難しそうな顔してんだもん。せっかく可愛い服着てるんだから、表情とか姿勢にも気を付けないとだよ~」

「そっか……意識したことなかった」

「少しメイクもしたらいいのに。おねぇちゃん教えたげたら?」

「うん? うん。みーながいいなら」

「いやっ、それはまだ早いんじゃないか?」

 私が答えようとしたら、パパが会話をさえぎった。

「えー? 私みーなくらいのときもうメイク始めてたけど」

「いや、星凛(アカリ)はいいんだよ。子供のころからそういうの興味あったみたいだし。光依那はさ、そういうのじゃないんじゃないか? って」

「なによ、そういうのって」

「ほら、そのー、光依那は性格がパパに似ておとなしいしさ」ママの言葉にパパが慌てて付け足した。「化粧なんかして、悪い人に目ぇつけられたりさ」

「やだパパ、古~い」

「ねー?」

 おねーちゃんの意見にママが賛同する。

「みーなだってもう高校生なんだしさー、カレシの一人や二人」

「ふっ、ふたりは多い! ひとりでも多いけど、ふたりもいらないでしょ」

「例えじゃーん。必死。パパ必死じゃん。昔からそうだよね。パパはみーなに甘いっていうか、過保護なんだよ。私んときなにも言わないくせに」

「星凛は言っても聞き流すじゃないか」

「だって私の人生なんだから、悪いことしてなきゃいいでしょ。みーなだってそうだよ」

 なんだか話が派生してパパとおねーちゃんが言い争いを始めてしまった。なんとかしなきゃとアワアワしてたら、目が合ったママが困ったように微笑んだ。放っておけ、という合図だ。

「さー、みぃちゃんは服がシワにならないうちに部屋着に着替えちゃいなさい。着替えたらお茶でもしよっか。いっぱい試着したから疲れたでしょ」

 パパとおねーちゃんを余所に、ママがソファから立ち上がった。

「う、うん」

 ママに促されて服が入った紙袋を抱えてリビングを出る。

「おねぇちゃんはママに似て勝気だからねー」ママが笑う。「パパとのアレは、意見交換みたいなものだから、心配しなくてだいじょぶよ」

「うん、それはわかるけど……」

 小さいころからパパとおねーちゃんはなにかにつけて言い争う。どっちが勝つか負けるかというのじゃなくて、そういう考えもあるんだ、的な決着に落ち着く。

 私はおねーちゃんみたいに“自分の意見”をたくさん持ってはいないから、パパとディベートできるおねーちゃんが時々うらやましくなる。

 あんな情熱や気力、私にはないもんなぁ。

 ママに似てパワフルなおねーちゃん、パパに似て大人しい私。うちの家族は、絶妙なバランスで保たれているなって感じる。

 ママに見送られて階段をのぼり、自室に戻って姿見を確認した。

 ……うん、カワイイ……。

 服もだけど、服の可愛さにつられて顔も気持ちも変わってるみたい。

 髪型がいつもと同じなのに少し違和感をいだいているくらい。

 おねーちゃんだったら、初音(ウブネ)ちゃんだったら、この服に合わせてどんな髪型、どんなメイクにするんだろう。

 由上(ヨシカミ)さんは、どういうコを可愛いと思うんだろう。

 いままで考えなかったことが次々に湧いてくる。

 パパとおねーちゃんのディベートが終わったらおねーちゃんに聞いてみようかな。

 部屋着に着替えながら色々考える。

 ハンガーに新しい服をかけてクローゼットの扉に飾ってみる。

 服だけでも可愛いしマネキンが着ていたときも可愛かったけど、中身(わたし)が入ると印象が違う。顔や体形のせいだろうから、おねーちゃんや初音ちゃんが着たらまた別の印象になるんだろう。

 ファッションって面白い。初音ちゃんはこういう面白さに惹かれているんだろうか。

 明後日学校で会ったら聞いてみようかな。

 真新しい服をながめながら想像をしていたら、楽しい気分になった。


* * *


 バッグの中身を整理したり片付けてからリビングに戻ったら、パパとおねーちゃんはもう普段通り、ソファに座ってパパはテレビを視て、おねーちゃんはファッション誌を読んでいた。ディベートは終わったらしい。

 ここで下手にメイクの話とか持ち出したらまた再燃しちゃうかなと思ってた私におねーちゃんが声をかけた。「メイク道具、どのくらい揃ってるの?」

「え? あ、えっと、リップクリームくらい……?」

「リップはメイク道具ってよりスキンケア用品かなー」言いながらおねーちゃんが雑誌をめくる。「ほら、こういうの。マスカラとかファンデとか」

「そういうのはないや」

「なんだー、ティントくらい買ってもらえば良かったのに」

「あぁそうねぇ、そっちまで気が回らなかったわ~」

 てぃんと……?

 良くわからないけど、そういうメイク道具があるらしい。

「あの服、いつ着るの?」

「できれば明後日、学校行くとき……」

「そっか、音ノ羽は私服おっけーか」

「うん」

「みーないつも制服だから忘れちゃうね」

「うん……却って目立ってるみたいで……」

「ほかはみんな私服?」

「割と」

「メイクは? 校則おっけー?」

「うん、あんまりしすぎない程度ならってなってる」

「えー、いいなー。うちそこまでゆるくないやー」

 おねーちゃんは私とは別の高校に通っていて、音ノ羽とは違う校則がある。

「してない人もいるけどね」

「そりゃねぇ。うちもしてる子いるし」

「おねぇちゃんいつもしてるじゃない」

「うすーくね。その程度ならみんなしてるし、先生も黙認してる」

「へぇ~。学校によっていろいろあるんだね」

「そーだよ。明後日なら、いまからか明日にでもちょっと見に行く?」

 おねーちゃんが言ってるのはメイク道具のことだと思うけど、うーん。

「買って、使わなくなっちゃったらもったいないし……」

「じゃあ私の貸す? 顔立ちが違うから似合う色も違ってきちゃうと思うけど」

「そうなんだ?」

「リップは自分の持ってたほうがいいわよ~。出先でも頻繁に直す機会多いから~。リップくらいなら追加で出してあげるから、おねぇちゃんとお買い物行ってきたら? それで、ついでにおつかいしてきてほしいわ~」

「え? あ、いまから?」

「そう。お砂糖切らしてたの忘れてたの。他にもちょっと、色々ね」

「だって。どうする?」

「近くで買えるの?」

「ティントくらいならコンビニでも買えるよ。ブランドとか気にしないでしょ?」

「うん、しない。似合う色もわかんない」

「じゃあ行くかぁ~。今日、天気良さそうだし」

「すっごい良かったわよ~。いまの時間ならまだ明るいし」

「行く?」

「うん」

 ママから買い物メモとお金を預かって、おねーちゃんと二人で家を出た。

 メイクに関してなにも言わなかったパパが不思議でおねーちゃんにパパとのディベートの話を聞いたら、私が社会に出たときに困らないように、いまからメイクの勉強をしておくべきだ、という意見が通ったらしい。なるほど。

 行きつけのスーパーでお買い物をした帰りに、近くのコンビニに寄ると、いつも素通りしていたコーナーにメイク道具一式が揃って陳列されていた。

「へぇ、すごい」

「ほとんど緊急時用だよ。ドラッグストアのほうが品揃えいいかな~。行ってみる?」

「うん……どっちでも」

 面倒とかじゃなくて、正直よくわからない。

「じゃあちょっと行ってみよ。私も新しいの見たいし」

 ママからはおつかいのおだちんとしておねーちゃんと私がちょっとしたものを買える額もらってる。

 スーパーでの買い物が入ったマイバッグをぶら下げて、おねーちゃんと二人、歩く。なんだかこういうのも久しぶりで、ちょっと懐かしい。

 五分くらい歩いた場所にあるドラッグストアの、いつもは足を踏み入れない二階の一角にコスメコーナーがあった。コンビニの数倍ある棚の中を通る。

 カラフルな陳列の中、わーとかおーとか思いながらおねーちゃんに着いていったら、ある一角で足が止まる。

「ここの、プチプラだけど品質いいから、ここのにしよ」

 おねーちゃんがひとつのブランドの棚を指した。

 おねーちゃんが私のためにあれこれ選んでくれて、なんだか照れくさくてむずがゆくて、でも楽しい時間を過ごした。

 無事に選んでもらった“ティント”は、透明の液体を唇に塗ると、その人の体温によって色合いが変わる口紅のようなコスメだった。

 おねーちゃんも同じティントを買って、おしゃべりしながら帰宅した。

 部屋に戻ってさっそく塗ってみたら、確かにちょっと印象が違う。

 月曜日、どんなリアクションしてくれるかな……。

 思い浮かべた猫の笑顔。こんなに週明けが待ち遠しいなんて……前向きな自分が少し恥ずかしくて、少し、いとおしかった。

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