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Chapter.27

「由上ー、メシ行かね?」

 由上さんに声をかけたのは、席替えで由上さんの後ろになった田町くんだ。

「おー、いいよ。どこ行く?」

「うーん、学食」

「ん」

「あー、俺もー」手を挙げて冨谷(トミヤ)くんが近付いてきた。

「おう、じゃあ行くか~」

 由上さんは二人と連れ立って席を立つ。隣で聞いていた私は、内心ホッとしてる。

 やっぱりずっと隣に座っているのは緊張する。授業中は集中してるからいいんだけど、ふとした瞬間、右側の気配に気付く。そして気になる。

 隣なの嬉しいけど、勉強頑張らないと成績落ちそう……。

 使っていた教科書を片付けながら考えていると、

「ミイナちゃん」

 初音(ウブネ)ちゃんに呼ばれた。

「はい」

「お昼なに食べるの?」

「今日は買ってきてるパンだよ」

「そーなんだ。今日わたし学食なんだけど、一緒にどう?」

「うーん、どうしようかな……」

 学食は、そこでなにも買わなくても使って良くて、お弁当持参で学食のテーブルを使う人もいる。

 私は大勢の人に囲まれて食べるのがあまり得意ではないから、高校に入ってから使ったことがない。

 でもせっかく誘ってもらったんだし……「行こうかな」

「うん、行こ~」

 小さなサブバッグを持って、初音ちゃんに着いていく。各教室からも続々と生徒が出てきている。

 そういえば由上さんたちも学食行くって言ってたなぁ。

 学食に着いてすぐ、食券を買う人の列にピンク色の髪が似合う人を見つけた。田町くんたちと喋りながら自分の番を待っている。

 近くで同じように並ぶ女子たちがコソコソきゃっきゃ喋っているその視線の先に由上さんがいる。由上さんは特に気にしていないそぶりで、田町くん、冨谷くんとしゃべってる。そういう光景ももう見慣れたけど、それでもたまにすごいなぁって思ってしまう。

「ごめん、わたしも並ばなきゃだ」

「あっ、じゃあ、先に席、探しておく」

「ありがとう! どこでも大丈夫だからね」

「うん」

 うなずいてその場で初音ちゃんと別れて席を探す。

 見渡す限り私服の生徒たち。の中にちらほら混じる先生方は、生徒に囲まれて談笑しつつ昼食を食べている。

 学食ってこういう感じなんだ。

 冷蔵庫やレンジを使うためにたまに来ていたけど、そのときはそそくさと目的だけ果たして屋上なり教室なりに移動してしまっていた。

 喋る声が混じりあってガヤガヤとした音に変わる。その中に私も入るんだって思ったら、不思議な感じがした。

 窓際に二人分の空席を見つけて陣取る。

 ここで良かったかな。すぐ見つけられるかな。話し声ちゃんと聞こえるかな。

 心配しながら待っていたら、初音ちゃんがトレイを持ってやってきた。

「お待たせ~。ありがと~」

「ううん? 早かったね」

 初音ちゃんの席確保用に置いたサブバッグを引き寄せて座り直す。

「そうだね。いつもはもうちょっと並ぶんだけど、いい時間にこれたみたい」

 この席すぐわかった? と聞こうとして、やめた。食堂内で制服着てるの私だけだし、多分目立ってる。

 うぅ、私服増えたらそれ着て登校するか……そうだ。

「ね、初音ちゃん、聞いてもいい?」

「ん? うん。なぁに?」

 私はスーパーで買ったパンを、初音ちゃんはオムライスを食べながら喋り始める。

「初音ちゃんって、いつもお洋服どこで買ってるの?」

「うーん、いろいろあるけど、渋谷とか原宿行ったり、あとはネットショップとか?」

「そうなんだ!」

 いつも地元の量販店でしか買わない私には珍しいように聞こえるけど、みんなにはそれが普通みたい。

「ミイナちゃんは?」

「私は……地元のウニクロとか……」

 決して悪くはないのに、なんだか引け目を感じてしまうのは“もうここでいいや”って思ってるからだろうな。

「いいよねウニクロ。お手頃だし、色も豊富で。これそうだよ」

 初音ちゃんが自分の着ているジャケットをつまんだ。

「へぇ! そうなんだ」

 プチプラでも、似合う人が着ると高級そうに見える不思議。多分、初音ちゃんが着ている服一式まるまる私が着たら、違う印象になるんだろうな。

 そう考えたら、コーディネイトってすごく大切。すごく奥が深そう。

「お買い物行く予定あるの?」

「うん。買うもの決まったら、なんだけど……」

「へぇ、デート? デート?」急に色めき立った初音ちゃんに

「まっ、ママとね? その、おしゃれに興味が湧いたんならって」慌てて弁解する。

「言われてみれば、ミイナちゃんあんまりそういうの興味なさそうだよねぇ」

「そうなの……良くわからなくて……」

「色々似合いそうなのに~」

「あ、ありがとう。そんなのあんまり言われたことない……」から照れてしまう。

「ほんと? 意外。じゃあじゃあ、ママとのお買い物でもっと興味湧いたら、わたしとも行こうよ」

「いっ、いいの?」

「もちろん! 色々一緒に選んでみたい!」

「嬉しい!」

 初音ちゃんみたいにオシャレで可愛い子に選んでもらえたら、自分もそうなれるんじゃないかって思える。

「いつでもいいから誘ってね。わたしも誘うし」

「うん、ありがとう」

 初音ちゃんの誘いと気遣いが嬉しくて、いつものパンがより美味しく感じた。


* * *


 光依那たちがいる場所とはガラスを挟んだ屋外、テラス席に陣取る男子三人が、丸い鉄製のテーブルを囲みラーメンを食べている。

「なんか由上が急にニヤニヤしだした」

「えっ? してないよ」

「いやしてるよ」

「そうかなぁ」

 田町と冨谷の指摘に、蒼和は自分の頬を手のひらを当て上下させた。どうやら自覚がないらしい。

「たまにそういう顔するよね」

「そう? 良くわかんない」

「由上って崇拝されてるわりにフツーだよな」

「なに崇拝って。されてないからそんなの」

「いやいやいや、ソワ様って呼ばれてんじゃん」

「それはあだ名でしょ? 別に偉くなったわけじゃないし、珍しがられてるだけだよ」

 ラーメンをすすりながら蒼和が苦笑する。

「モテてる自覚もないもんな」

「なー」

 冨谷の言葉に田町が同意する。

「モテてないって」

「なに言ってんの」

「ずっとめっちゃ見られてんの気付いてんでしょ?」

「そりゃあねぇ。二人だって見られてたら気付くでしょ」

「うん」

「まぁ」

 田町と冨谷も同じようにラーメンをすすりながらうなずく。

「遠目からチラチラ見られてるだけでモテてるとか言われても実感ねぇって」

「えー、それだけじゃないでしょ」田町がニヤニヤと箸で蒼和を指す。「何人かに告られてんの見たっていうやついたけど」

「う……」

 思い当たるふしがある蒼和は小さくうめいて、そのまま黙った。

「でも全部“お断り”してるんでしょ?」

「“みんなのソワ様”だもんねぇ」

「そんなんじゃないから」

 からかい半分の二人の言葉に、蒼和は苦笑いを浮かべながら返答する。本当にそんなんじゃないと思っているのだが、それが伝わっているのかどうか……。

「で? 誰見てニヤニヤしてたの?」

 田町が蒼和と同じ視線になれるよう、上半身を移動させた。

「そんなんでわかんねぇだろ」

 蒼和は苦く笑いながら言う。

「うーん……あそこ!」

 田町が指さした先には、制服姿の女子がいた。

「…………」

 蒼和は何かを言いたげに口を開けるが、なにも発声できないでいた。

「由上めっちゃわかりやすいからね」

「うそっ」

「ほんと。な」

「な」

「ダダ漏れ」

 ラーメンを食べ終わり、水を飲みながら冨谷が笑う。

「うっそ」

「マジだって。他の女子と喋ってるときと表情(かお)が違うもん。そもそも由上から女子に話しかけるようなとこあんま見ないし」

「うわ、そっか……気をつけよ……」

「あーね」主語を言わなかった蒼和の言葉を察して田町がうなずく。「女子のそういうの怖そう」

「由上本人じゃないとこ行っちゃいそうだよな」

「わー、オレそれやられたらめっちゃいやだ~」

「責任感じるよなぁ。そりゃちゅうちょするわ」

「うーん……」

 田町と冨谷の会話を受けたようにみせて、蒼和が小さくうなる。

「でもあれだよな。普段地味だけど、眼鏡外すと意外と可愛くね?」

「あ、それ思った! 体育祭んとき」

「な」

「あれでけっこう人気出たっしょ? 人気投票のやつさ」

「な」

「え」

「あれ? 由上知らない?」

「オレあれ参加してない」

「マジか。そうなんだよ、見る? 参加者に回ってきた結果」田町がスマホを出そうとするが

「……いや、いい」

 少し考えてから蒼和が断った。

「そ? けっこう上位にいたよね」

「いたいた。普段から制服なのも目立つしな」

「体育祭以降、目ぇつけたやつまぁまぁいたみたいよ?」

「マジで?」蒼和が声をあげる。

「うん。でもなんか、ガードしてくるやついたみたいで、みんなそこまでしていこうとしなかったみたい」

 そう言われた蒼和の脳内に津嶋が浮かんだ。何度か一緒にいる場面を見たことがあるし、なんならたまに敵視されていたように思う。

「モテてんじゃん……」蒼和が頭を抱えてつぶやいた。

「そうみたいね。本人はぜんっぜん自覚なさそうだけど」

「そう! そーなんだよ!」言って、ハッとしたように口を押え、蒼和が辺りを見回した。他のテーブル席とは距離があるし、室内とはガラスで隔たれているから幸い周囲には聞こえていなかったようだ。「まぁオレもいまはハッキリさせるつもりないからいーんだけどさ」声のトーンを落とし、蒼和が口をとがらせる。

「まーいまはまだ様子見っしょ」

「なに田町、そういうの詳しい系?」蒼和の問いに

「詳しいわけじゃねーけど、経験上?」田町が首をかしげる。

「え、田町ってカノジョいんの?」

「違う学校だけどね」

「へ~、みんないんだね」

「すげー他人事」蒼和の言葉に冨谷が笑った。

「うーん、そういうわけじゃないんだけど……自分のそういうのが想像つかないんだよね」

「人気者は大変だね」

「関係あるかなぁ」

「無意識にセーブしてるかもだよねー」

「そうなのかなぁ」

「いままでいたことないの? カノジョ」

「ないねぇ」

「へ~、意外」

「そう? 中学のころはずっと部活で忙しかったし、卒業後に引っ越すの決まってたからさ。もし作っても続けるの難しいかな~って」

「そーなんだ」

「え、転校生? じゃないよね? 入学式んときいたもんね」

「うん、いた。高校入る前に引っ越してきて、普通に音ノ羽入った」

「へー。ここが第一志望だったん?」

「幼馴染がここ受験するって聞いて、家が近ければどこでも良かったから受けたら受かった感じ」

「なんだよ、頭もいいのかよ」

「いや努力はしたけどね? いまだってそう見えないだろうけど、予習復習したりしてるし、色々頑張ってんだからね?」

「まぁ確かになんでもそつなくこなしてる感じあるわ」

「でしょ? 努力のあとが見えないってのも大変なのよ」

「なにげに授業のレベル高いよな~」

「そのぶん色々自由だしいーけどね」

「確かに。そういや別の公立いったやつから聞いたんだけどさ~」

 冨谷が振った“他の公立高校は校則が厳しいらしい”という話に興味が逸れ、蒼和の話題は終わった。追及されすぎないで良かったと、蒼和は胸をなでおろす。

 しかしまさかクラスメイトにバレていたとは思わなくて、今後なにかアクションを起こすときは客観的にどう見えるかを考えながらにしないと……と思う蒼和の視線の先で、制服姿の女子は蒼和の幼馴染と楽しそうに笑いあっていた。


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