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AIで書いた小説  作者: 斉藤一


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8/71

(ファンタジー)世界改変のコード・エラー 第一話

――世界は記述されている


それが、この『グラノス聖統世界』における絶対の真理だった。人が生まれ、息を吸い、剣を振り、魔法を放つ。そのすべては、網膜の裏側に浮かび上がる半透明の文字列――『構造定義情報(ステータス・ウィンドウ)』によって厳密に管理されていた。


「――よって、ディルク・アシェル。お前を『不適合体』と断定し、我が聖騎士団から追放する」


厳かな大聖堂の最奥。大理石の床に膝をつく青年、ディルクに突きつけられたのは、かつて憧れた団長ガリアスの冷徹な声だった。ガリアスが手元の魔導端末を操作すると、ディルクの全身を拘束するように、彼の「存在定義」が空間に投射される。それはあまりにも惨めで、救いのない文字列だった。


【個体識別名】ディルク・アシェル (Dirk_Ashel)

【所属・階級】グラノス聖騎士団・見習い

【システム認証】一般アカウント(権限レベル:0 / Guest)

------------------------------------------------------------------------

[基本ステータス]

・Level : 1 / 99 (固定) ・Current_HP : 15 / 15

・Current_MP : 0 / 0 ・Current_SP : 12 / 12


[物理・魔導演算パラメータ]

・STR(筋力): 5 [一般成人男性平均: 12] -> 物理攻撃力補正: x0.4

・VIT(耐久): 4 [一般成人男性平均: 10] -> 物理防御力補正: x0.3

・AGI(敏捷): 4 [一般成人男性平均: 11] -> 移動・回避フレーム遅延: +6f

・DEX(器用): 6 [一般成人男性平均: 10] -> クリティカル発生率: 0.1%

・INT(知力): 10 [一般成人男性平均: 10] -> 魔導回路数: 0 (未開通)

・MND(精神): 8 [一般成人男性平均: 10] -> 精神干渉耐性: -15%

・LUCK(幸運): 1 [一般成人男性平均: 8]


[アトリビュート(属性・耐性値)]

・火: 0% ・水: 0% ・風: 0% ・土: 0% ・光: -20% ・闇: 0%

・物理切断耐性: 2% ・打撃耐性: 1% ・状態異常抵抗値: 0.02


[保有スキル / 固有権能]

・『概念編集(Edit_Concept)』: [パッシブ / 常時ロック状態]

- 詳細情報: 権限不足のため閲覧不可(Error_Code: 0x00000403)

- システム注釈: // 未実装または破損データの可能性あり。


すべての数値が底辺。さらに、どれだけ訓練を積んでもレベルアップのトリガーが引かれず、能力値は1ポイントも増えなかった。期待された固有スキル『概念編集』は、詳細すら伏せられた灰色(ロック)の状態。神聖国において、これは「神の設計ミス」すなわち生きていてはならないバグを意味していた。


「ステータスは神の法だ。数値の低い者は、世界の歯車として分を弁えて生きねばならん。お前のようなゴミデータを、神聖なる騎士団に置いておくわけにはいかないのだ」


罵声と嘲笑の中、ディルクは静かに立ち上がった。反論はしなかった。この世界では、ステータスの数値こそが法であり、物理的な絶対正義だからだ。STR 5の彼が、STR 85を誇るガリアスに剣を向けたところで、刃が肉に届く前にシステム的な「弾き計算」によって腕がへし折れる。彼はただ、耐久値が残り僅かな『錆びた鉄の剣』を一本だけ手渡され、聖都の重厚な門から放り出された。

行き先などない。向かうのは、ステータスの低い者たちが間引きされるためだけに存在する、最果ての監獄地帯『奈落の割れ目』だった。


「ハァ、ハァ……ッ!」


鬱蒼とした黒い森の中、ディルクは泥にまみれて走っていた。背後から迫るのは、この辺生地域に生息する魔獣『ソルファ・ウルフ』。漆黒の毛並みに、血のように赤い眼を持つ狼だ。ディルクが背後へ視線を向けると、フォーカスされた狼の構造定義が網膜にオーバーレイする。


【オブジェクト名】ソルファ・ウルフ (Solf_Wolf_042)

【種族・状態】魔獣(野生) / アクティブ(ターゲット:ディルク)

------------------------------------------------------------------------

・Level : 8 ・Current_HP : 110 / 110

・STR(筋力): 24 ・AGI(敏捷): 30

・主要スキル : 『不意打ち Lv2』『裂傷牙 Lv1』


勝てるわけがない。敏捷値の差は「26」。フレームレート換算で言えば、相手の動きはディルクの数倍速い。容赦なく振り下ろされた狼の爪が、ディルクの背中を大きく切り裂いた。


「が、あぁッ!?」


激痛とともに、ディルクの視界に真っ赤な警告ログが高速で流れ落ちる。


syslog[SYSTEM WARNING]--------------------------------------------------------

・オブジェクト [Solf_Wolf_042] の通常攻撃が命中。

・判定: クリティカルヒット(背後からの物理切断)

・ダメージ計算: [STR 24] x スキル倍率[1.5] - [ディルク: VIT 4] = 32ダメージ

・ディルクのHP変化: 15 -> 0 (内部演算中... 暫定生存バッファ適用により HP: 1 で固定)

・ステータス異常付与: 【重度出血: 毎秒 2 の持続ダメージ / 持続時間 30秒】


倒れ込み、冷たい地面に顔を伏せる。あと1秒で、持続ダメージによって自分の命の数値(HP)は完全にゼロになり、死体オブジェクトとして処理(デスポーン)される。

死が脳裏をよぎったその瞬間。ディルクの耳の奥で、カチリ、と硬質な電子音のような音が響いた。


『――例外処理(Exception)を検知しました』


『アカウント:ディルク・アシェルのHPが想定外の負の領域へ侵入するのを防ぐため、固有権能【概念編集(Edit_Concept)】のロックを緊急解除(セーフモード)します』


『世界のソースログへの割り込み(インジェクション)を開始します……』


「……え?」


直後、ディルクの視界が完全に静止した。迫り来る狼の第二撃の牙も、空間に飛び散る自身の赤い血飛沫も、すべてが一時停止したビデオのように固定されている。そして、彼の目の前に、世界の裏側でリアルタイムに処理されている「イベント・ログ(戦闘記録のRAWデータ)」が剥き出しになって浮かび上がった。


text[LOCAL_LOG_STREAM: 0x00AFFF12]

Line 001: OBJECT_ATTACK -> Source: Solf_Wolf_042, Target: Dirk_Ashel

Line 002: CALC_DAMAGE -> Type: PHYSICAL_SLASH, Value: 32

Line 003: APPLY_STATUS -> Target: Dirk_Ashel, Effect: BLEEDING, Stack: 1

Line 004: HP_DEDUCTION -> Target: Dirk_Ashel, Value: -32 (Result: -17)


それは、世界が「今まさに実行しようとしている処理」そのものだった。ディルクの手が、吸い寄せられるようにその文字列に触れる。前世の記憶などないはずなのに、なぜかこのデータの弄り方が直感的に理解できた。


(書き換える。俺が死んだという事実を、システムに認めさせない)


ディルクは、震える指先で Value: 32 という部分をタッチした。頭の中で「0」という数字を強くイメージする。すると、半透明のログデータが書き換わった。さらに、Line 003 のステータス異常付与の行を、丸ごとゴミ箱に放り込むようにスワイプして削除(デリート)した。


text[LOCAL_LOG_STREAM: 0x00AFFF12 (MODIFIED)]

Line 001: OBJECT_ATTACK -> Source: Solf_Wolf_042, Target: Dirk_Ashel

Line 002: CALC_DAMAGE -> Type: PHYSICAL_SLASH, Value: 0 // 0に書き換え

Line 003: // 記述削除(Null化)

Line 004: HP_DEDUCTION -> Target: Dirk_Ashel, Value: 0 (Result: 15)


直後、世界が再び動き出す。


「ガゥ!?」


狼の牙がディルクの首筋に深く突き刺さった――はずだった。しかし、キィンという金属音のようなシステム効果音とともに火花が散り、狼はまるでダイヤモンドの塊を噛んだかのように、牙を痛めて悲鳴を上げながら飛び退いた。ディルクの背中の傷が、巻き戻るように一瞬で塞がっていく。HPは最大の「15」へ。出血のデバフマークも消滅した。


「本当に……書き換わった……」


ディルクは自分の両手を見た。彼に与えられた『概念編集』とは、単に自分の能力を上げるような生易しいスキルではなかった。世界が決定した「演算結果」を、後から強制的に上書き・改ざんする、神の権威をハッキングする能力だったのだ。


「次は、お前の番だ」


ディルクは、怯える狼のステータスウィンドウを凝視した。本来なら一般権限(Guest)ではアクセス不可能な他者のパラメータ。しかし、今のディルクが指先を伸ばすと、狼のステータスの奥深く、コアデータへとシステムの手が伸びていく。


json[Target_Modify: Solf_Wolf_042]

・STR(筋力): 24 -> [ 1 ] に書き換え

・AGI(敏捷): 30 -> [ 1 ] に書き換え


【警告:他者オブジェクトのパラメータ書き換えはシステム規約違反――命令を強制実行します】


不気味なデジタルノイズと共に、狼の身体が急激に縮み、骨格がメキメキと音を立てて崩壊した。さっきまで凶暴だった魔獣は、いまや生まれたての小犬よりも脆弱な、ピクリとも動けない肉の塊へと変貌していた。

ステータスALL 1。それは、この世界のシステムが許容する最低の「存在値」だった。ディルクは錆びた鉄の剣を静かに振り下ろした。STR 5の非力な一撃。しかし、防御力(VIT)まで1に落とされた狼の首は、まるで熟した果実のように容易く落ちた。


syslog[SYSTEM NOTIFICATION]---------------------------------------------------

・対象 [Solf_Wolf_042] の消滅を確認。

・経験値(EXP)獲得: 80

・ディルク・アシェルのEXP: 0 -> 80 / 50 (MAX)

・レベルアップ・シーケンスを実行します。Level: 1 -> 2

------------------------------------------------------------------------


その瞬間、ディルクの前に新しい詳細ステータスが展開された。しかし、そこにはこの世界のバグそのものと言える、異様な光景が広がっていた。


【個体識別名】ディルク・アシェル (Dirk_Ashel)

【システム認証】一般アカウント(権限レベル:0 / Guest)

------------------------------------------------------------------------

・Level : 2 / 99 ・Current_HP : 15 / 15

・Current_MP : 0 / 0 ・Current_SP : 12 / 12


[物理・魔導演算パラメータ]

・STR: 5 (変化なし) ・VIT: 4 (変化なし)

・AGI: 4 (変化なし) ・DEX: 6 (変化なし)

・INT: 10 (変化なし) ・MND: 8 (変化なし)

// エラー: レベルアップに伴うパラメータの上昇処理がスキップされました。

// 原因: 個体定義ファイルが読み取り専用(Read-Only)に設定されています。


レベルが上がった。しかし、通常の人間なら必ず上昇するはずの各種パラメータは、頑なに『5』や『4』のままだった。やはり、この肉体自体は世界システムから見捨てられた『無能』、成長を拒絶されたデータのままであるらしい。

だが、今のディルクにはそれがどうでもいいことのように思えた。ステータスが低ければ、相手の数値をそれ以下に書き換えればいい。自分が受けるダメージのログを「0」に、あるいは敵の防御力を「1」にすれば、自身の数値など何の意味も持たない。


「俺を追放した聖騎士団や、このシステムを作った世界の神は、この力を何と呼ぶだろうな」


ディルクは、自嘲気味に微笑んだ。彼は森の奥へと歩みを進めた。目指すのは、かつて人類が足を踏み入れ、誰も戻ってこなかったとされる未踏の古代遺跡。そこには、世界のシステムそのものを記述した『原初の石碑(ソース・コード)』が眠っているという噂があった。

道中、彼は数々の凶悪な魔獣に遭遇した。レベル20の『フォレスト・アイアンベア』。レベル35の『ポイズン・キマイラ』。本来なら、一歩足を踏み入れただけで消し飛ばされるような脅威。しかし、ディルクの前に現れた魔獣たちは、例外なくその運命(バリュー)を書き換えられた。

キマイラが放つ一撃必殺の『ポイズン・ブレス(毎秒50の毒ダメージ)』は、ディルクがログの属性IDを書き換えたことで、浴びるだけでHPが全回復する【聖なる癒やしの霧】へと反転した。

アイアンベアの硬質な皮膚(物理カット率90%)は、プロパティ改ざんによって「マイナス500%(触れるだけで自壊する状態)」へと劣化させられ、ディルクの錆びた剣で容易く真っ二つに裂かれた。

一歩、また一歩と森の深淵へ進むたび、ディルクのレベルは10、20、30と爆発的に上昇していく。しかし、能力値は頑なに初期値のまま。それはまるで、「ステータスという神の枠組みそのものを拒絶する未知のバグ」が、世界を静かに侵食していくかのようだった。

やがて、森の最奥、空間が紫色のノイズを立てて歪んでいる漆黒の亀裂の前に、ディルクは立っていた。そこから溢れ出る魔力の奔流(リソース負荷)は、これまでの魔獣とは一線を画している。亀裂の奥から、巨大な、そして神聖な光の回路を全身に走らせた存在が、重低音のシステム音を響かせて姿を現した。


【オブジェクト名】聖域の守護騎士 (Sanctuary_Guardian_01)

【種族・状態】神聖防衛プログラム / 管理者直轄アクティブ

------------------------------------------------------------------------

・Level : 99 (限界値) ・Current_HP : 999999 / 999999

・STR(筋力): 999 (カンスト) ・VIT(耐久): 999 (カンスト)

・AGI(敏捷): 999 (カンスト) ・INT(魔力): 999 (カンスト)


[適用中パッシブ・パッチ / 常時発動]

・『絶対拒絶(Anti_Malware)』:

- 効果: このエリア内における一般アカウント(Guest/User)からの、ログ、プロパティ、及びメモリ領域へのあらゆる直接書き換え要求を遮断・破棄(ドロップ)する。


「不正なオブジェクトを検知。これより先は神の領域なり。駆除(デリート)を開始する」


地響きのような声とともに、守護騎士が巨大な光の剣を振り上げた。その瞬間、ディルクの視界に絶望的なエラーログが真っ赤に明滅する。


syslog[ACCESS DENIED]---------------------------------------------------------

・エラー: 固有権能【概念編集】の実行に失敗しました。

・原因: 対象エリアに『絶対拒絶(Anti_Malware)』が適用されています。

・あなたの権限(Guest)では、この空間のデータを書き換えることはできません。

------------------------------------------------------------------------


ディルクの最強の武器である『概念編集』のウィンドウが、強固なファイアウォールによって完全にロックされた。目の前には、すべての能力値が999の、世界最強の防衛システム。対するディルクのSTRは5、AGIは4。


「……なるほど、世界のセキュリティってわけか」


ディルクは、頭上から超高速で振り下ろされる、回避不可能な光の刃を見つめながら、静かに口元を歪めた。

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