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AIで書いた小説  作者: 斉藤一


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第七話目

「ザーーー……ザザ……ーーー……」


防災ラジオのスピーカーから流れるのは、どこまでも虚無的な、しかし『ゲームのプログラムではない』本物の砂嵐の音だった。

デジタルネットワークが完全に『NO_SIGNAL.exe』の支配下に落ちた今、この前時代的なノイズだけが、唯一の「現実の残骸」だった。


「誰か……誰かいないのか……っ!」


駆は狂ったようにダイヤルを微調整し続ける。指先がカクカクとローポリゴンに変形しかけているが、構わなかった。ここで諦めれば、あのドアの向こうで静止している『顔のない仄暗ネル』のデータに同化されるだけだ。


「……ザザ……こちら……きこえ……るか……」


突如、ノイズの隙間から、ひどく歪んだ「人間の声」が飛び込んできた。


「っ!? 誰だ! 聞こえる、聞こえるぞ! 俺は三島駆! 都内の自宅にいる! 周りの世界が、全部ゲームみたいになって止まってるんだ!」

「……やっぱり、電波を……断ち切って、生き残った……やつがいたか……。僕は、ケンジ……」


それは、あのネルの配信でモデレーターをしていた、そして最後に警告動画を残したあの『ケンジ』だった。スピーカーから聞こえる彼の声には、まるでロボットが喋っているかのような激しいデジタルノイズが混ざっている。


「ケンジさん! 動画見ました! あなたは無事なんですか!?」

「……無事、とは言えないな……。僕の身体の、8割はもう……四角いブロックの塊に変えられてる。でも、意識だけは……このアナログ無線機を使って、怪異の通信を妨害しながら、辛うじて保ってる……。時間がない、駆くん。この世界のバグが『完全に固定(ロード完了)』される前に、元凶を叩くぞ」

「元凶……? メインサーバーですか? でも、世界中のネットが乗っ取られたのに、どうやって?」

「……ゲームの……始まりの場所だ。仄暗ネルの、リアル部屋だよ。あいつのPCが、この巨大な汚染ネットワークの『ホスト(中心点)』になってる。そこにあるマスターHDDを、物理的に、直接叩き壊すしかない……!」

「ネルの、部屋……?」

「……僕のアナログ電波を、君のラジオのアンテナに同調(シンクロ)させる。そうすれば、君の周囲数メートルだけは、ゲームのプログラムを一時的に拒絶する『現実のシミュレーター』になる。化け物どもは動けない……その隙に、ネルの家へ走るんだ。住所を伝える……メモしてくれ」


ケンジが途切れ途切れに告げた住所は、駆の自宅からわずか2キロほど離れた、隣町のマンションだった。駆は防災ラジオをしっかりと紐で身体に括り付け、手元にあった金属製のバットを握りしめた。

部屋の鍵を開け、ドアを押し開ける。廊下の突き当たりにいた『顔のない仄暗ネル』は、ケンジのアナログ電波が放つ不協和音に拒絶されるように、ピキピキと激しいノイズを上げて硬直していた。


「すまない、ネル……っ!」


駆はその横をすり抜け、階段を駆け下りて外の街へと飛び出した。外の世界は、まさに地獄だった。夜空には巨大な四角いテクスチャの裂け目が走り、道路も建物も、すべてが1990年代の粗いローポリゴンで固定されている。街を行き交う人々は全員、顔のパーツを失い、黒い砂嵐のモザイクを顔面に張り付けたまま、マネキンのように直立不動で静止していた。

駆が走る。彼の周囲3メートルだけが、ラジオの放つ「ザーー」というアナログノイズによって、一瞬だけ滑らかな現実のコンクリートと夜風を取り戻す。だが、彼が通り過ぎた後は、再びカクカクとしたデジタルの迷宮へと収束していく。


「ハァ、ハァ、ハァ……!」


心臓が破裂しそうだった。時折、完全にバグに侵食された空間の『継ぎ目』が、駆の行く手を阻む。そこは地面がなく、底なしの砂嵐の深淵が覗いている。駆は決死の覚悟でその亀裂を飛び越え、ケンジに指示されたマンションへとひた走った。


「……駆くん、もうすぐだ……。でも、ホストに近づくほど、怪異の拒絶反応が強くなる……。僕の意識も、もう……ここまで、だ……」

「ケンジさん!? しっかりしてください!」

「……画面を……見るなよ……。健闘を、祈る……」


ラジオから、ビーーーという長い警告音が響き、ケンジの声は完全に途絶えた。同時に、周囲を包んでいたアナログの防壁が消え去る。


(ベタ、ベタ、ベタ、ベタベタベタベタベタッ!!!)


周囲で静止していた数千、数万の『顔のないマネキンたち』の首が、一斉にギチギチと音を立てて駆の方を向いた。彼らが一斉に、狂ったような速度で、カクカクと手足を動かしながら、駆を圧殺するために押し寄せてくる。


「うおおおおおおおおお!!!」


駆は迫り来る化け物の腕をバットで叩き折り、ノイズの火花を散らしながら、マンションの最上階、303号室のドアへと体当たりで飛び込んだ。

バァン!!! とドアが開き、駆は部屋の中へと転がり込んだ。そこは、配信で見覚えのある、あの『仄暗ネルの部屋』だった。部屋の中央には、何百本もの不自然な黒い配線コードがのたうち回り、壁や天井の全方位へと突き刺さっている。そして、その配線の中心にあるゲーミングチェアにはーー。すでに衣服も皮膚も完全に剥ぎ取られ、無数のコードと融合して『巨大なマザーボード』の基盤のようになってしまった、仄暗ネルの変わり果てた肉体が、鎮座していた。

彼の、肉体と融合したPCモニターには、世界中の何億人という人間が、今まさに『NO_SIGNAL.exe』をダウンロードし、世界が完全に消滅していくプログレスバーが[99.9%]で静止しているのが見えた。


『ーーミ シ マ カ ケ ル 規 模 の 拡 大 を 許 可 し ま す』


ネルの、肉体の一部となったスピーカーから、あの不快なノイズ混じりの声が響く。部屋中の配線コードが、まるで生き物のように鎌首をもたげ、駆の身体をデータに分解するために一斉に襲いかかってきた。


「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!!!」


駆は迫り来るコードの嵐を掻い潜り、渾身の力でバットを振り下ろした。狙うは、ネルの肉体の胸の隙間に埋め込まれている、赤く脈打つ、PCのマスターHDD(ハードディスク)。


(ガキィィィィィィィィィィン!!!!)


金属と、精密基盤が激突する、凄まじい破壊音が響き渡る。HDDの表面が真っ二つに割れ、中から漏れ出た黒い磁気データが、血のように床へと溢れ出した。


『ア……アア……シ……シグナル、ガ……』


ネルの肉体から、そして部屋中の配線から、一斉に凄まじい閃光が放たれた。[99.9%]で止まっていた画面の数字が、バラバラの文字化けを起こして崩壊していく。


「うわああああああああああ!!!」


世界が、激しく反転する。視界のすべてが、強烈な、真っ白なデジタルノイズで塗りつぶされ、駆の意識はそこで完全に途絶えた。


◇(――ピピピピ、ピピピピ)


見慣れた目覚まし時計の音が、静かな部屋に響いている。


「……う、あ……」


駆は激しい頭痛を抑えながら、机の上から顔を上げた。パソコンのモニターには、書きかけの大学の課題レポート。窓の外を見ると、朝の眩しい太陽の光が、美しく、滑らかな現実の街並みを照らし出している。電柱も、隣の家の屋根も、カクカクなんてしていない。本物の、現実世界だ。


「戻った……のか?」


駆は急いでスマートフォンを手に取った。画面には黒い手形なんてない。ネットのアンテナも、しっかりと最大強度で立っている。SNSを開くと、タイムラインにはいつも通りの日常のニュースが流れていた。

ただ、一つだけ。検索欄に『仄暗ネル』と打ち込んでも、彼のチャンネルも、動画も、過去のニュースも、何一つとしてヒットしなかった。まるで、最初からそんな配信者はこの世界に存在していなかったかのように。


「夢……だったのか?」


駆は小さく息を吐き、バットを置こうと立ち上がろうとした。その時、スマートフォンの画面が、ピピッ、と静かに鳴った。見覚えのない、暗号化されたプライベートメッセージ。送信者の名前は、空白。そこには、たった一行だけ、文字が書かれていた。


『世界(システム)のリセットに成功しました。オフラインでの防衛、お見事でした。――K』


駆は窓の外の青空を見上げ、静かに微笑んだ。世界は救われた。デジタルという目に見えない神経網の裏側で、確かに命を懸けて戦った、彼らの物語の信号(シグナル)は、今もこの現実のどこかに、確かに刻まれている。

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