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AIで書いた小説  作者: 斉藤一


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十三話目

「……拓海(たくみ)……? お前、なんでここに……」


 神代一樹の喉から、ひび割れた掠れた声が漏れ出た。

 数台の大型モニターに囲まれた豪奢なワークチェアに座り、優雅に足を組んでいるのは、一樹の大学の同級生であり、唯一の親友であるはずの阿久津(あくつ) 拓海(たくみ)だった。数日前、一樹のアパートが火事で焼け落ちた日、連絡が取れなくなり警察に行方不明届が出されていた男だ。


「おいおい、そんなに驚かないでくれよ一樹。せっかく感動の再会を果たしたっていうのにさ」


 拓海はいつもと変わらない、人当たりの良い、どこか飄々とした笑みを浮かべていた。しかし、その瞳の奥には、これまで一樹たちを散々弄んできた『ゲームマスター』としての、底知れない冷酷さと歪んだ知的興奮がギラギラと渦巻いていた。


「カズキ、知り合いなの……?」


 ミサキが【危険察知】のアンテナを全開にしながら、怯えたように一樹の背後に隠れる。彼女のサファイアブルーの瞳は、拓海の身体から発せられる「異次元の悪意の波形」を捉えて震えていた。


「知り合いなんてレベルじゃないわ。……この男の生体ログ、間違いない。このコア・サーバーを立ち上げ、私たちに数々の無理難題を突きつけてきた『元凶』そのものよ」


 レイがナイフの柄を強く握り締め、いつでも拓海の首を刈り取れるようにスタンスを取る。しかし、拓海は気にする風でもなく、手元の端末を軽快に操作した。


「そこのお姉さん、物騒な玩具を向けるのはやめてほしいな。いくら君たちが【ランクS】のマスター権限を手に入れたからって、この部屋の物理的な防衛プログラムまではハックできないよ?」


 拓海が指をパチンと鳴らす。瞬間、一樹たちの周囲の壁や床から、数千本ものレーザー照射の光軸が伸び、四人の急所を寸分の狂いもなくロックオンした。


「拓海……お前が、全部やったのか?」


 一樹は【精神耐性】で激しい動揺をねじ伏せ、親友の顔を見据えた。


「僕のアパートを焼いたのも、タカシの家族の記憶を消したのも、ミサキを孤独に追い詰めたのも……レイさんの妹さんを消したのも、全部お前なのか!?」


「そうだよ」


 拓海は悪びれる様子もなく、あっさりと頷いた。


「すべては『サバイブ・リンク』という至高のエミュレーションを完成させるための、必要不可欠な『仕様(デバッグ)』さ」


「お前……よくもそんな涼しい顔して言いやがったな!」


 タカシが激昂し、振動バットを床に叩きつけた。超微細な振動が基盤を震わせる。


「何が仕様だ! 何がデバッグだ! 俺たちの命を、人生を、なんだと思ってやがるんだ!」


「ただの良質な『データ』だよ、タカシくん」


 拓海は椅子から立ち上がり、ゆっくりと部屋の中を歩き回り始めた。彼の背後のモニターには、これまでに脱落し、ノイズとなって世界から消え去っていった数百万人のプレイヤーたちの「エンドデータ」が、冷酷な文字列となって高速で流れ落ちていた。


「一樹、お前は大学の講義で、いつも僕の隣に座ってノートを写していただろ? あの時、僕がいつも何を研究していたか、覚えているかい?」


 一樹の脳裏に、数週間前のありふれた大学のPC室の光景が蘇る。拓海はいつも、大学の課題とは全く無関係な、奇妙な「脳波解析」と「量子空間の同期プロトコル」のプログラムを黙々と組んでいた。


「人間の精神、特に『死の恐怖』や『裏切りの絶望』に直面した時の脳の出力エネルギーはね、現在のスーパーコンピューターの限界を遥かに超越した、未知の演算能力(プロセッシングパワー)を秘めているんだ。僕はそれを利用して、現実の肉体をデジタルデータに変換し、量子サーバー内で完璧に同期・制御するための新世代OS……つまり、この『サバイブ・リンク』を開発したのさ」


 拓海は両手を広げ、陶酔したように笑った。


「事前登録者一千万人突破、なんて広告は嘘じゃない。本当に世界中で一千万人以上の人間に、このアプリを『バックグラウンド』で強制インストールさせた。そして、彼らの精神エネルギーを少しずつ吸い上げて、このコア・サーバーの肥やしにしたんだ。……君たち4人はね、僕が仕掛けた数々の『バグ(絶望)』を乗り越えて、最も純度の高い精神エネルギーを出力してくれた、最高の実験体なんだよ!」


「妹は……」


 レイの声が、怒りで低く地鳴りのように響いた。


「私の妹は、あなたのそのクソみたいな実験のために、消されなきゃいけなかったっていうの!?」


「ああ、星野零さん。君の妹さんの消去(デリート)は、実は僕にとっても不本意なエラーだったんだ」


 拓海はレイを憐れむような目を向けた。


「あの子は精神が繊細すぎて、最初のフェーズの過負荷に耐えきれず、データが破損(クラッシュ)してしまった。システムは自動的に不具合のあるオブジェクトを排出しただけさ。君が僕を恨むのは筋違いだよ。君のハッキング技術をここまで高めてくれたのは、他ならぬあの子の死という『最高のバグ(動機)』のおかげなんだから」


「ふざけるな……!」


 一樹の拳から、爪が肉に食い込むほど強く血がにじみ出た。

 目の前にいるのは、かつて一緒にラーメンを食べに行き、将来の夢を語り合った親友ではない。人間の形をした、ただの狂った「怪物」だった。


「さあ、お喋りはここまでだ」


 拓海はデスクに戻り、メインモニターの大きな赤い起動スイッチに手をかけた。


「君たちは【ランクS】のマスター権限を手に入れ、システムの根幹ロジックにまで干渉できるようになった。それは認めるよ。だけど、この『サバイブ・リンク』を完全にアンインストールするコマンドは、僕のこのメイン端末(ホスト)からしか実行できない。……僕を倒して、その権限を奪い取ってごらん」


 ピコン。

 四人のスマートフォンが、かつてない禍々しい音色の電子音を鳴り響かせた。


『最終フェーズ:【デス・トーナメント(ラスト・プレイヤー)】を開始します』

『ルール:これより、ゲームマスター:タクミ と、プレイヤー:カズキ、タカシ、ミサキ、レイ による、完全な直接対決を行います』

『クリア条件:ゲームマスターのライフメーター(HP)を『ゼロ』にするか、あるいはプレイヤーが全員【バグ消去】されること』

『──警告:ゲームマスターは、コア・サーバーの全リソース(生命エネルギー)と同期しています。彼の肉体は【不死(無敵)】の状態です──』


「不死……!? んなの、どうやって倒すんだよ!」


 タカシが叫ぶ。


「ハハハ! どうする、一樹? 君たちの得意な『システムの脆弱性(バグ)』を突く戦術、この僕の完全な部屋の中でも通用するかい?」


 拓海の身体が、まばゆい紫色の光に包まれた。

 彼の背後から、数百万人の脱落者たちの未練と怨嗟のデータが、巨大な「黒い翼」のようなホログラムとなって収束していく。彼のステータス画面に表示されたのは、ランクSをさらに凌駕する【ランク:GM(ゲームマスター)】の称号。


「いくわよ、みんな! 泣いても笑っても、これが最後のデバッグよ!」


 レイの鋭い一喝と同時に、四人の最終決戦の幕が切って落とされた。


「オラァァァァァ!」


 先陣を切ったのは、タカシだった。彼は【絶対衝撃(インパルス・マックス)】を起動し、大理石の床を粉々に砕きながら、拓海の脳天に向けて振動バットをフルスイングした。空間の歪みが拓海を襲う。

 しかし。

 拓海は避けるどころか、身じろぎ一つしなかった。バットが拓海の顔面に直撃する寸前、彼の周囲に展開された透明な「数式(数理防壁)」が、タカシの放った衝撃波のエネルギーを一瞬にして『0(ゼロ)』へと吸収・中和してしまった。


「な……ッ!? 手応えがねえ!」


「無駄だよ、タカシくん。君の攻撃は全て、このサーバーの『仕様の範囲内』だ」


 拓海が軽く右手を振る。直後、数千本の光ファイバーの触手が床から噴き出し、タカシの巨体を容赦なく打ち据えた。


「がはっ……!?」


 タカシの防刃ベストが破裂し、彼は壁のモニターに激しく叩きつけられた。


「タカシくん!」


 ミサキが【危険察知】を全開にしながら叫ぶ。


「カズキさん、レイさん、ダメです! 拓海さんの周りの防御壁、このコア・サーバー全体の全データ容量を『盾』にしてます! 私たちのランクSの攻撃力じゃ、どれだけ叩いても、サーバー全体の容量を削りきる前に私たちの体力が持ちません!」


 レイが神速のナイフで拓海の背後から奇襲を仕掛けるが、やはり数式の壁に阻まれ、火花を散らすだけに終わる。逆に、拓海の放った追尾型のノイズ弾がレイの細い身体をかすめ、彼女のライダースジャケットを赤黒く染めていく。


「ハハハ! どうしたんだい、一樹! 君はさっきから、ただ僕の姿を見ているだけじゃないか!」


 拓海は黒い翼を羽ばたかせ、無数の電子ダガーをエリア全体に掃射し始めた。

 一樹は【解析の眼】を発動したまま、拓海の周囲を激しく動き回るデータの流れを、血走った目で必死に追っていた。


(落ち着け、落ち着け……。どんな完璧なシステムにも、必ず設計者の『癖』や『妥協』が残る。拓海は、このサーバーの全リソースを盾にしていると言った。だけど、それは裏を返せば──サーバーの全てのデータを、彼の肉体という『単一のプロセッサ(CPU)』で処理しているってことだ!)


 一樹の画面の奥、拓海の防衛コードの周期に、わずか【0.003秒】の、奇妙な「ラグ(待機時間)」が発生しているのを見逃さなかった。


「レイさん、タカシ、ミサキ! 僕に時間をくれ!」


 一樹が瓦礫を飛び越えながら叫んだ。


「いいわ、私の命、使い切りなさい!」


 レイは【仕様変更(ソース・リライト)】を起動し、自分のスマートフォンの全演算能力を一時的に暴走させ、拓海の足元の空間をドロドロの液体ノイズへと変質させた。


「タカシ、追撃!」


「うおおおおお!」


 タカシは口から血を流しながらも立ち上がり、バットを逆手に握って拓海の数式防壁へと肉弾戦を挑んだ。自身の肉体を盾にして、拓海の注意を完全に自分たちへと引きつける。


「ミサキ、拓海の『予測演算』の邪魔をしてくれ!」


「はい! ……レーダーパルス、最大出力ォォォ!」


 ミサキの放ったスカイブルーの精神波動が、拓海の頭上のモニター群を一斉にショートさせ、彼の視覚と予測ロジックに強烈な「ジャミング」を引き起こした。


「チッ、鬱陶しいな……!」


 初めて、拓海の余裕に満ちた顔に焦りの色が過った。彼が3人の同時攻撃を処理するために、脳内の演算リソースを99%まで引き上げた、その瞬間──。

 一樹の【解析の眼】が、拓海の胸の奥に隠された、本当の『元凶のバグ』を捉えた。


「拓海……。お前、大学のプログラミング演習の時、いつもループ処理の最後に【ブレイクポイント(強制停止命令)】を仕込むのを忘れる癖があっただろ」


 一樹の言葉に、拓海の目が見開かれた。


「このシステム全体を統括しているお前の肉体。……お前は数百万人のデータを盾にしているけど、お前自身が『全データの処理落ち』を起こした時、その膨大な負荷を逃がすためのエスケープコードを……お前、記述していない(忘れている)んだよ!」


 一樹は右手のタクティカルペンを真っ直ぐに拓海へと向けた。彼のスマートフォンが、ランクSの最終出力を超えて、空間そのものを白く塗りつぶすほどのマスター・パルスを放ち始める。


「僕たち四人のランクSの全ポイントと、これまで消えていった人たちの未練のデータ……。これら全てを一つにコンパイルして、お前の処理能力(脳)の限界を超える【100万倍のダミーパケット】として、今からお前に直接、叩き込む!!」


「な……何だと!? 待て、一樹! そんなことをしたら、サーバーごと君たちも──」


「僕たちは、誰も見捨てないって誓ったんだ。……お前のその歪んだ世界ごと、すべてをここで『強制終了(キル)』する!!」


「みんな、いくよ!!」


 一樹の叫びと同時に、タカシ、ミサキ、レイの三人は、自身のスマートフォンの全権限を一樹の端末へと一斉に「譲渡・同期」させた。

 四人の絆、四人のスキル、そして四人がこれまでに背負ってきた全ての命の重みが、一樹の右手のタクティカルペンへと収束し、まばゆい純白の「反逆の劫火」となって爆ぜた。


【ランクS・最大解放:【完全消去(フォーマット・オール)】】


「拓海ィィィィィ!!!」


 一樹は拓海の数式の壁を突き破り、彼の胸元へと全力の突きを放った。

 ペンの先端が、拓海の胸の【ゲームマスターのコア(メインアクセス権)】へと、正確に、そして深く突き刺さる。

 直後、コア・サーバーの空間全体が、これまでにないほどの凄まじい「白い閃光」に包まれた。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!!!

 空間を構成していた無限のサーバーラックが、光ファイバーの網が、そして拓海の背後にいた黒い翼のホログラムが、一瞬にして数億の光のドットとなって分解され、虚空へと消え去っていく。


「あ……、あ……」


 拓海の口から、加工されていない、本物の彼の声が漏れた。

 彼の胸から、すべての『サバイブ・リンク』のシステムデータが逆流し、彼のスマートフォンがパキパキと音を立てて粉々に砕け散っていく。


「流石だな……一樹……。僕の、負け、だ……」


 拓海はいつもの、大学の講義の時のように、ふっと優しく微笑んだ。

 その身体が、まばゆい光のノイズとなって世界から切り離され、ゆっくりと、しかし確実に、消滅(アンインストール)の渦の中へと消えていった──。


 ピコン。

 一樹たちの手の中にあるスマートフォンの画面に、静かな、一文のテキストが表示される。


『ホストサーバーの完全消去を確認しました』

『サバイブ・リンクのアカウントを……デリートします』

『──全てのプレイヤーを、現実世界へと【同期(復元)】します──』


 一樹の視界が、真っ白な光の中に完全に溶けていく。

 隣で、タカシとミサキが、そしてレイが、お互いの手を強く握りしめながら、涙を流して笑っているのが見えた。

 私たちは、勝ったんだ。

 命を賭けた20日間のデスゲームは、今、本物の日常の夜明けと共に、完全に終わりを告げた。

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