三話目
ネオンの光が人工の海のように煌めく、地球の巨大沿岸都市「ネオ・トウキョウ」。
平和を謳歌するその街の夜空を切り裂き、一筋の赤黒い流星が激突した。
ドゴォォォン!!
轟音と共に、工業地帯の埋立地に激しい土煙が舞い上がる。
クレーターの中心に立ち上がったのは、左右非対称の歪な巨躯を持つ怨念の塊――ガイスト・リベンジャーだった。二連動同調システム(ツイン・エーテル・ドライブ)が不規則な重低音を響かせ、機体の隙間から毒々しい紫色の熱粒子を排気している。
「ここが、奴らの守る街か……」
モニターに映る美しい夜景を見つめながら、アルスは低く呟いた。
エンパイヤの地下ドームでは、人工光すら制限され、子供たちが冷たい配給のスープを分け合っている。この豊かさは、自分たちの犠牲の上に成り立つものなのか。胸の奥から湧き上がる怒りを抑え込むように、アルスは操縦桿を握り直した。
今回の作戦目的は、都市のインフラを破壊することではない。沿岸部にある地球防衛軍の「エーテル貯蔵プラント」を急襲し、故郷へ持ち帰るためのエネルギーを強奪することだ。
「アルス、プラントの制圧を急げ! アースセイバーが来れば、持ちこたえられんぞ!」
通信回線からボルクチーフの焦燥を含んだ声が響く。
アルスはガイスト・リベンジャーを跳躍させ、プラントの防壁へと迫った。しかし、その時、夜空の雲が文字通り「割れた」。
『見つけたぞ、宇宙の悪党め! これ以上の悪事は、このアースセイバーが許さない!』
天空から降り注ぐまばゆい黄金の光。
超エネルギーの翼を広げ、超常の威容を誇るスーパーロボット『アースセイバー』が、夜の帳を昼間のように照らし出しながら降臨した。
「来たか……正義の化け物が!」
アルスは歯を剥き出しにし、ツイン・エーテル・ドライブの出力を強引に引き上げた。
コックピット内に不吉な警告音が鳴り響き、アルスの全身に凄まじい重力負荷(G)がかかる。脳が揺れ、視界が赤く染まるが、レバーを引く手に迷いはなかった。
『ボクの街をこれ以上傷つけさせない! 喰らえ、セイバー・スラッシュ!』
アースセイバーが手から光の巨剣を形成し、一瞬で距離を詰めて一閃した。
並のロボットであれば、その機動力についていくことすらできず、一刀両断されていただろう。だが、アルスはあえて回避しなかった。
「うおおおぉぉぉッ!!」
アルスはガイスト・リベンジャーの強固な右腕――亡きガルバ隊長の機体から移植した装甲――を突き出し、光の剣を真に受けて止めた。
ギギギギギギ、と金属とエネルギーが激突する狂気的な金属音が鳴り響く。隊長の形見である装甲が、摩擦熱でまたたく間に真っ赤に融解していく。しかし、アルスは冷酷に笑った。
「肉を切らせて、骨を断つ……! この瞬間を待っていたんだ!」
『なにっ!? ボクの剣を受け止めるなんて……!?』
アースセイバーのパイロット、トオル少年が驚愕の声をあげる。
ヒーローの動きが一瞬、硬直した。アースセイバーはこれまで、圧倒的な力で敵を蹂躙してきたがゆえに、「攻撃を受け止められ、至近距離で泥臭く組み合う」という泥濘の戦いを経験したことがなかったのだ。
「ボルクチーフ! ドリルのリミッターを解除しろ!」
「おう! いけ、アルス! 地球の神様を引きずり下ろせ!」
アルスは左操縦桿のトリガーを全力で押し込んだ。
ガイスト・リベンジャーの左腕に装備された、工業用の巨大掘削ドリルが、二基のエーテル炉の全出力を受けて超高速回転を始める。キィィィィィンという、鼓膜を破らんばかりの高周波が周囲の空間を支配した。
「喰らえぇぇぇッ!! リベンジャー・ドリルッ!!」
火花を散らしながら、アルスはアースセイバーの胸部、あの七色に輝く絶対不敗の障壁へとドリルを突き立てた。
ガガガガガガガガガガッ!!!
黄金の光の障壁と、泥にまみれた暗灰色のドリルが激突する。
アースセイバーの障壁は強固だった。しかし、アルスのドリルは単なる武器ではない。星の底を穿ち、資源を掘り起こすために作られた、エンパイヤの執念の塊だ。さらに、二連動同調システムによる過負荷のエネルギーが、ドリルの刃先に赤黒いプラズマとなって集中していく。
『う、嘘だ……!? ボクのバリアが、破られるなんて……そんなの、間違ってる!!』
「間違っているのは、お前たちのその傲慢な正義だ!!」
バリィィィン!!!
ガラスが砕けるような絶叫と共に、アースセイバーの絶対障壁が霧散した。
突き進むドリルは、そのままアースセイバーの美しい黄金の胸部装甲へと食い込み、火花と金属片を撒き散らしながら、その肉体を確かに「抉った」。
ドズゥゥゥン!!
衝撃波が周囲のビル群のガラスを一斉に粉砕する。
アースセイバーの巨体が、初めて大きくよろめき、背後のコンテナヤードへと倒れ込んだ。
「やった……傷をつけたぞ……!」
アルスは荒い息を吐きながら、手応えを噛み締めた。
しかし、喜びも束の間、コックピットのモニターには「ツイン・エーテル・ドライブ限界まであと90秒」の文字が冷酷に点滅していた。そして、倒れ伏したアースセイバーから放たれる気配は、衰えるどころか、むしろ底知れない狂気へと変質し始めていた。




