ネイと黒いフード
『ちょ、お姉さん! お願いですから、もう勘弁してくださいよ……』
『何が“勘弁”よ! まったく、昔はあんなに素直な子だったのに、どうして今になって……』
あのネイさん宅の風呂場で交わした何気ないやり取り。あれに対してオレは、明らかな違和感を持っていた。
特に“昔はあんなに素直な子だったのに”という件については……
「――――その顔……どうやら、思い当たる節があるみたいだな?」
「!!」
父さんの指摘にされるも、すぐに返すべき言葉は出てこない。
「ふぅ、彼女については一旦やめて……騎士団の世話になってるに件ついてはどうなんだ?」
「え~と……それはネイさんが黒いフードに拐われたから、成り行き上でそうなってるというか……」
「成り行き上? 要は二人揃って保護されてる訳か?」
「うん、その解釈で間違ってないよ」
「そうか……なら、外出する際は護衛がついたりはしていんだよな?」
「もちろん。一度目はゲルトさん。二度目はオレ一人だけだったけど、ワイマンさんがついていたよ。もっとも、後者の場合は向こうから気晴らしにって誘ってくれたけどね」
「気晴らしか……なかなかに良くしてもらっているようだな」
「うん。部屋も与えられたし、食事だって三食問題なかったよ」
「ほう、それはよかったな」
オレの待遇を聞いて安心したのか、父さんは安心した表情を浮かべる……っが、すぐに気を取り直す。
「じゃあ再びネイ=サンの話に戻らせてもらうが……彼女が騎士団へ現れた際、それまでの経緯については何か聞いたか?」
「それまでの経緯? いや、特に聞いてなかったような……」
「やはりな。お前の態度や反応を見て、そうじゃないかとは思っていたんだ」
「思っていたってどういう……?」
父さんは深い息を吐いて続ける。
「はぁ……お前は、彼女が黒いフードに拐われたと言ったな?」
「う、うん」
「悪いが、その発想自体が完全に間違ってるぞ」
「え!?」
「大方、バーバラ辺りに吹き込まれたんだろうが、そもそもネイ=サンは拐われていない。お前が拐ったとする連中に同伴しただけだ」
「同伴?バカな!? 彼女を脅迫する過程でそんな形になったんじゃないの!?」
「それはない。第一、オレ達黒いフードとネイ=サンは協力関係にあるから」
「なっ!?」
「まだ言ってなかったか? 黒いフードはネイ=サンが自らの目的を遂行するために彼女自身が作った組織であり、オレ達はそんな組織で手足となって働く存在になるんだ」
「ネイさんの手足? そんなデタラメを……!」
「認めたくないだろうが紛れもない事実だ。その証拠に、騎士団に戻って来た時の彼女にははかすり傷一つ負ってなかっただろ?」
「そ、それはそうだけど……」
思い返せば父さんの言う通り、確かに彼女は無傷で戻って来ている。
「だいたいだな。オレ達転移者は……」
「待って! “転移者”って?」
不意に出た謎のワードの意味を知りたく、オレは咄嗟に訊ねた。
「ああ、転移者とはオレ達みたいにこの世界へやって来た者の便宜上の呼び名だ」
「呼び名……」
「話、戻すぞ? 転移者はネイ=サンに協力する立場。よって、オレ達が彼女に危害を加えることはあり得ないんだ」
この話が事実かどうかは今の段階はできない。なのでここは、取り敢えず情報を探ることを選択する。
「ねぇ父さん。黒いフードと彼女には、一体どんな協力関係にあるの?」
「うむ。それはだな……」
コンコン……!
「邪魔が入ったな。少し待ってくれ」
部屋の扉がノックされたことにより、父さんは話を中断して外へ移動。その後、しばらくの時間が過ぎて再び部屋へ戻ると?
「輝道、部屋を移動するぞ」
「部屋を? どうして?」
「……いいから来い」
「わ、わかったよ……」
どこか切迫した雰囲気に流され、オレは大人しく従う。
「――――ここだ」
案内されたのは同じ二階にある部屋。さっきまで居たところに比べて二回り程狭く、オマケに窓もない。
ただ中央には安っぽい木製のテーブルと二人分の椅子が置かれてるため、殺風景ながらも部屋としては最低限の体は保たれている。
「じゃあ、オレは野暮用でしばらく離れるから、お前はこの部屋でゆっくりしていくれ」
父さんはそれだけ伝えると、足早に部屋を出ていく。
「ゆっくりしていてくれと言われてもなぁ。こんな何もない部屋でどう過ごすんだ?」
取り残され、仕方なく椅子に座って部屋の様子を眺めてみるが……
「う~ん、やっぱりこのままだと退屈なだけだな」
そう考え、さっそく部屋から出ようと扉に手をかける……が?
「何だこれは?」
不可解なことに、扉は押そうが引こうがビクともしなかったので……
「おーい、誰かぁーーー! ここを開けてくれませんかぁーーー!!」
しかし、呼びかけても返ってくるのは沈黙だけ……ということは?
「も、もしやこれって……閉じ込められたってことなのか!?」




