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シルベ=テルミチのチートナシ異世界ライフの物語  作者: なめなめ
第二章 お姉さん
6/89

現実

 ネイさんの提案により、オレ達は今いる森から街へ向かうことになった。


「あの、お姉さん? 街への道順は、大丈夫なんですか?」


 移動を続けている道のりが大量の草や木で囲まれる代わり映えのない景色のため、オレは不安になりながら訊いてみた。


「それは安心していいわシルベ。方角と位置は、太陽と夜に見た星でわかっているからね」


 少々アバウトな考え方は気になるが、何の知識もない身としては大人しく従うしかない。


 ちなみに「川沿いには歩かないのか?」とも質問してみたが、川は大型の獣が水を飲みに来た際に遭遇する場合があるので無闇に近づくのは危険とのこと。よって近づく時は、飲み水を確保する等のやむ得ない場合に限る……だそうだ。


 それから、火を焚かないで野宿するのも厳禁だと教えられた。これは単純に火を焚かなかったら夜行性の獣に襲われかねないという話。なので、オレが「昨日は火を焚かずにそのまま寝た」と話した時には、無茶苦茶に青い顔をされていた。


 最後にぜんぜん別の話になるが、ネイさんと一緒に歩いて気づいたことがある。それは……ネイさんの身長がオレよりも五センチ程高いということだ。別に女性より背が低いことを気にしすることはないが……ないが……若干は男のプライドが傷ついた気がする。


 ついでに言うと、オレの身長は一六五センチになる。


 ――――数時間後……相も変わらずに鬱蒼(うっそう)とした森を進んでいたオレ達は、ようやく開けた場所に出られる。そして……


「シルベ、あそこで一休みしない?」


 ネイさんが指差した先には、木陰のある人が休めそうな場所があった。


「――――ふぅ、やれやれ……」


 クタクタに疲れて腰を下ろすと、オレはリュックからペットボトルを取り出してネイさんへ手渡す。


「どうぞ、お姉さん」

「いいの? これはシルベの水だからシルベが先に……」

「レディーファーストです。お先にどうぞ」

「……何だかか難しい言葉を使ってるけど、“お先”ということなら甘えるわね」


 ネイさんは受け取った水を一口含み、ゆっくりと喉を(うるお)す。一方、オレは周囲の景色を眺めながら、(ここ)に来なかった()()()()()を想像する。


「そういえば本来の今頃は、初めてのクラスメート達と共に華々しい高校生活をスタートさせてたはずだったんだよなぁ」


 高校生のオレ……彼は一体、どんな学生生活を送ろうとしていたのだろうか?


 勉学に励んでいたかも知れない?

 部活に明け暮れていたかも知れない?

 もしかしたら、女の子にもてるため必死に自分磨きをしていたのかも知れない?


 様々な想像を巡らせるが、その全てが“かも知れない”のが現実だ。


「シルベ?」

「…………」

「シルベったら!」

「あ、ハイ!」


 不意に呼ばれて反射的に返す。


「お水、ありがとね。シルベも飲んだ方がいいわよ?」


 そう言ってネイさんは、自分が口をつけた後のボトルをオレに渡す……オレに? ネイさんが飲んだ……口をつけたボトルをオレに!?


 こ、これは……()()()()では!!


 待て、待て、待て何を焦ってるんだオレは!? 小学生じゃあるまいし、こんなのは普通に流せば済む話じゃないか!


 しかし、理解はしていても身体は緊張で硬直し、額からは大量の汗が流れる!


「オオオオレは……一体どうすればいいんだ!?」


 迷える子羊の如く悩み、苦しみ、頭を抱えていると……


「しっかりして、シルベ!!」

「ハッ!」


 激しく肩を揺すられて、意識を引き戻される!


「シルベ、あなた本当に大丈夫?」 

「だだだ大丈夫ですよ、ハハハ……」

「でも、すごく顔が赤いわよ」

「え、え? や、やだなぁ~お姉さん。オレの顔は元々リンゴみたいに赤いですよ。ハハハ……」


 いや、実際に今のオレはリンゴよりも赤いかも知れない?


「う~ん、まぁシルベがそう言うなら……あ、これ、お水ね……」

「あっ!」


 ネイさんが再び口をつけたボトルを向けるので……


「お、お姉さん! み、水なら、まだありますから大丈夫です!」


 結局雰囲気に負けたオレは、リュックから別のボトルを取り出して水を飲むしかなかったのだった。


 ――――数分後……


「ところでシルベ。このペースなら街に着くのは早くても明日のお昼くらいになると思うけど……それで大丈夫?」


 ネイさんは今後の計画(プラン)について話し始める。


「オレはかまいませんが……明日の……昼?」


 となると、今夜は……?


「あの、お姉さん? そうなると夜はどうするつもりで?」

「え? 二人で一緒に野宿するに決まってるじゃない?」

「二人で一緒!? 一つ屋根の下で若い男女が!?」


 いや、野宿だから屋根は関係ないか……って、オレとネイさんが二人で夜を過ごす!?


「ブホォ!!」


 突きつけられた現実に興奮し過ぎて、先ほど飲んでいた水が鼻から勢い良く吹き出る!!


「ちょ、シルベ! あなた本当に大丈夫なの!?」


 心配するネイさんは、慌ててオレを気遣う。


「ゴホッ!ゴホッ!だ、大丈夫です……少し、むせただけですから」


 やれやれ……どうやら《《こっち》》のオレの“現実”は、なかなかに刺激的なものになりそうだな。

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