舞台
『只今を持ちまして、“賢者の石と愚か者”の第三章を終了致します。尚、最終章になる次の幕は十五分後に開幕致します』
丁寧なアナウンスが終わり間幕の緞帳が下った直後。閉ざされた舞台上では……
「衣装だ、衣装! オレの衣装はどこにあるんだよ!?」
「ちょっと! 私に当たる照明が強過ぎなんだけど、どうにかならないの!?」
「そこ退いて! 次の幕で使うための背景板を運んでるだから!!」
花形役者から下っ端の裏方までが、慌ただしく次なる幕開けの準備に取りかかる。
そして、そんな皆が皆必死に動き回るなかでオレはというと?
「あ、ああ……そこよ……そこ……い、いいわ……」
「あの……もう少し押さえてくれないかな、春野さん?」
「ん~、だって導くんの……あっ……が気持ち良いんだもん♪」
「“だもん”って……肩を揉むだけで、そんな如何わしい声を出さないでよ」
ヒロイン役である彼女の状態を万全に保つため、懸命にマッサージを行っていたのだ。
「あ~本当に気持ちいいわ。もしかして導くんさぁ、こういう才能があるんじゃない?」
「こういうって……マッサージの?」
「そうそう。お店を出せば繁盛するかもよ?」「ハハハ……取り敢えずは参考にしとくよ」
周囲が忙しく動くなかでの和気藹々とした雰囲気を持つオレ達。だけど、これも彼女の舞台に対する精神をリラックスさせるためには重要なこと……らしい。
「ふぅ、じゃあ今度は少し強めにいくよ!」
「ん、お願い……あ、ああ……き、効く~!」
そうやって、相変わらずの悩ましい声に心中を乱されつつ肩を揉み続けていると?
『会場の皆様、大変お待たせしました。もう間もなく“賢者の石と愚か者”の最終幕が開始されます』
「そろそろみたいね。ありがとう、導くん。もう大丈夫よ」
春野さんはそう礼を言って椅子から立ち上がると、両頬をパンっと叩いて気合いを入れる。
「よしっ!」
先程までとは打って変わた表情。どうやら、完全に役者モードへ切り替わったようだ。
そして、それは他の団員達も同じみたいで……
「いいね、お前達! 次は最終幕だから、くれぐれも気を抜くんじゃないよ!!」
「「ハイ!!」」
劇団長のモニカさんからの叱咤を受け、皆が一斉に気合いを入れる!
『――――大変長らくお待たせしました。これより、賢者の石と愚か者の最終章が開幕です』
幕が上がった舞台には様々な役者達が登場し、歌い、踊り、演じることで観客達を別世界へ誘う。
やがて物語は筋書き通りに進んでいき、ついには王とその妻が対決する場面が訪れた。
「家族、同胞……そして、国の仇を今こそ取らせてもらうぞ、愚かな王よ!!」
妻役の春野さんが玉座でふんぞり返る大男……もとい、王様の前で小道具の石を高く掲げた瞬間!
パシュ!
玉座の周囲からは、演出用の白い煙が立ち上ぼって大男の姿を隠すと……
「ぐああああ~!やられたぁーーーー!!」
芝居かかった断末魔の叫び声をあげて舞台から消える。
『おお! 悪の王様をやっつけたぞ!!』
『カオリちゃああああんーーーー!!』
『いいぞ! いいぞぉぉーーー!!』
単純なトリックを使った演出だったが、それでも観客達は満足そうな歓声を上げて盛り上がる。
「ふぃ~、さすがはカオリはんや。同じ役者として、あの演技はホンマに惚れ惚れするわ」
既に舞台袖に戻って来てる大男は、実際に惚れてる彼女を誉め称えるので……
「ハハハ、大男さんだって立派なものですよ。何てったって、あんな大勢が見てるなかで堂々と演技をするんですから!」
「そうか? あんちゃんにそないに言われると、こそばゆいな」
オレは彼を労い、その力を称えた。
「さて、そろそろフィナーレやな」
「ですね。あとはこのまま……ん?」
「どないした?」
「いえ、あそこ……舞台の後ろの方を見てください」
「どれどれ……ん? 誰や、あいつは?」
一体いつの間にだろうか? 多数の役者達が演じてる舞台の背景に紛れる形で、黒色のフードを深くかぶった身長一八〇センチ程ある細身の男がに立っていた。
「彼……何かの演出ですかね?」
「……ちゃうやろな。仮にそうやったとしたら、劇団長はんが前もって知らせるはずやで」
大男は神妙な面持ちで言う。
「とにかく、あのままでは間違いなく演技の邪魔なる。あんちゃん。スマンけど、あいつをツマミ出すのを手伝ってや!」
「了解です!」
直後、オレ達は大目立たぬ様に舞台へ侵入。そして、怪しい黒いフードの男を捕らえよと手を伸ばす……その時!
「導 輝道だな?」
「なっ!?」
不意に自分の名前を言わたことで、オレは反射的に手を止める!
「観客には悪いが、ショーはここでお開きにさせてもらおう!」
「なんやと!? 勝手なことを抜かすなや!!」
男のセリフに憤る大男が、襟首を掴んだ瞬間!
ドンッ!!
二メートルはあるかという大男の巨体は、勢い良く客席へ向かって吹き飛ぶ!
「きゃああああーーーー!!」
突然の惨状に悲鳴をあげる観客達。この状態を危険と判断したモニカさんは、迅速に団員達へ指示を出す!
「早くお客さん達を避難させるんだよ! それから、騎士団への通報も急ぐんだ!!」
「「ハ、ハイ!!」」
それぞれに役割が振られる一方、オレは客席へ吹き飛ばされた大男の元へ駆け寄る!
「大丈夫ですか大男さん!?」
「う、ううう……平気や。それより何がどうなったんや?」
多少のダメージはあるものの、彼は明確な意識を持って立ち上がる……そんなタイミングだった。
『み、皆様方へ申し上げます! 誠に勝手ながら、本日の公演は中止にさせてもらいます!』
公演中止を報せる非情なアナウンスが会場全体に流れるのだった!!




