大男奮闘!!
「わーーー! わーーーー!!」
「何だ!? 何がおきたんだ!?」
「結末はどうなったんだぁーーーー!?」
『皆様、落ち着いて団員の指示に従って下さい!!』
突然の非常事態により混乱する観客達を団員達が懸命に避難させるなか、舞台上では王様に扮した大男とオレが黒いフードの男と対峙していた。
「せっかくの公演を台無しにしおったんや。お前、五体満足で帰れるとは思うなや!!」
怒りに燃える大男が物凄い形相で睨みを効かせるが、当の相手はどこ吹く風だとばかりに先制攻撃をしかける!
「来ますよ、大男さん!」
「わぁっとる!」
大男は正面から来る黒いフードの男による前蹴りに対し……
「くたばれやボケェ!!」
力任せに腕を振り回すラリアットを放つ!
ブン!!
しかし、その強烈な一撃は敢えなくジャンプ一番で躱されて逆に攻撃の隙を与える結果に!
「しもた!」
急いで体勢を整えようするも、黒いフードの男はそれよりも早く大男の頭へ両足を絡み付かせると……
「こ、この! 離れんかい!!」
もがかれるのを気にすることなく、すかさず身体全体を捻って両足で固めた大男の頭を丈夫な舞台の床へ叩きつける!!
「ぐはっ!」
「大男さん!!」
見た目にはかなりのダメージがあると思えたが、やられた大男は何事もなく立ち上がって自分を投げ飛ばした相手の胴体を乱暴に蹴る……っが、残念ながらこの反撃は両腕を交差したガードに防がれたせいで四、五メートル程度後退させただけで終わる。
「くそ……ええ反応をしよるな」
意外にも冷静な大男。どうやら今の一撃はダメージよりも相手の実力を推し量るのが目的だったようだ。そして、それは一方の黒いフードの男も同じだったらしくて……
「なるほど。おかしな格好をしてる割には、それなりに喧嘩慣れしてるか……」
黒いフードの男は淡々とそう言うと、おもむろにかぶっていたフードを脱いで素顔を晒す。
「これで視界は良好だ」
現れたのは短い天然パーマの二十歳前後に見える若い男。
「ふん。まるでここからが本気だとでも言いたげな感じやな?」
「ああ、そうだ。確かにここからは本気だ。もっとも、アンタにとっては最悪の展開になると思うがな」
「ハッ! 弱い犬ほどよく吠えるってヤツやな。なぁ、あんちゃんもそう思うやろ?」
「え、オレ!?」
急にヤンキー系の会話の巻き込まれて慌てるが、ここですんなりと何か言わないのも格好が悪いので……
「そ、そうだぞ! 小さくて可愛らしいチワワだって、立派に吠えるんだぞ!」
「「…………」」
どうやら、この場には合わないセリフだったらしい。
「フッ……まぁ、チワワの話はさておき……」
天パ男は何事もなかったように流すと、再び前へ飛び出す!
「フン、今度は簡単にいかへんで!」
大男もこれに応えるが如く前へ出ると、両者はそのまま舞台中央で手四つに組みつく……っと思った瞬間!
「ぐおおおおおーーーー!!」
「うおおおおおーーーー!!」
示し会わせたかのように、フリーになっていた頭をぶつけ合う!
ゴンッ!!
鈍く響く音……勝負に勝ったのは体格で勝る大男の方だった。
「つぅ……」
額に血を滲ませてよろける天パ男。だが、直後に起死回生となる前蹴りを鳩尾へ打ち込み、その反動で手ッ四つの状態から脱出して距離をあける。
「……な、なかなかの石頭だな?」
「当然や。ワシはこう見えて頭脳派やからのう!」
いや、石頭と頭脳は関係ない。
だが、オレのくだらない心のツッコミが届く訳はなく、二人の戦いは続いていく。
「頭脳派…….ねぇ。なら、こういったのはどうかな?」
みたび前へ出る天パ男。今度は組み合わずに蹴り主体の連続攻撃で攻め立ててる!
「どうだ! 反撃できるならやってみろ!!」
「ぬぅ……!」
息つく暇もない連続蹴りの嵐に、大男はガードを固めたまま防戦一方……いや、あの目は明らかに何かを狙っている!
「ここや!!」
攻撃の僅かな間撃を突き、強引な体当たりをしかける!
「フッ、そんな破れかぶれの奇襲が……なに!?」
体当たりが躱されようとした一瞬、大男は着ていた王様の衣装を脱ぎ捨て天パ男の眼前に投げ広げる!
「し、しまった!」
さらに視界を奪われて狼狽えてる隙に背後へ回り込み、両腕でガッチリ組み付き……
「お返しやで……」
「なっ、しまった!!」
天パ男の両足がふわりと浮いた次の瞬間、彼の身体は大男のバックドロップによって美しい弧を強制的に描かされて……!!
ベキィィィーーーー!!!
分厚い板が割れる程の威力で後頭部を打ちつける!!
「どないや! ワシらが毎日練習してる舞台の感触は!?」
感想を訊ねるも、答えるべき本人は生気がない。おそらくは今の一撃で失神させられてしまったのだろう。
「ふぃ~。もうちょいはやると思ったんやが……案外楽勝やったかもな」
大男は余裕そう言ってるが、彼の全身の傷や痣はそれが嘘だと訴える。
「――――ところで、大男……この人はどうするんですか?」
戦いの一部始終が終え、オレはこの後の始末をどうするのかと質問……すると?
「そういうのは騎士団へ突き出してからだよ」
答えたのは舞台袖から現れたモニカさんだ。
「あ、劇団長。スンマセン、ワシが不甲斐ないばかりに舞台がこげなことになって……」
項垂れながら謝る大男。だけど、モニカさんは左右に首を振って何でもない顔で言う。
「アンタが謝る必要なんてないさ。全てはそこでくたばってるバカのせいだよ」
彼女の言う通りだ。よって……
「――――じゃあ、取り敢えずはコイツがまた動かないように縛っておきます?」
「お、気が利くねテルミチ。それじゃ、その辺にある適当なものでふん縛っておきな」
「わかりました!」
ということで、オレは天パ男を縛り上げるロープみたいなものを探し始める。
「ええと、縛るもの縛るものはと……?」
「ああ、テルミチ。それならそこにある……って、何をやってんだいアンタは!?」
急に大声をあけるモニカさん。彼女の視線を追っていくとオレの背後へ……
「動かないで!」
「こ、この声は……春野さん!?」
反射的に振り向こうとするが……
「“動かないで”と言ったでしょ!!」
「うっ!」
首筋には冷たく尖った感触が当たっている。
「もう一度だけ言うわよ? 動かないで!」
口調からは一切の迷いを感じない。それどころか、いざとなったら“本当にやる!”といった覚悟や凄味すら伝わってくる。
い、一体何が彼女をここまで……
オレは理由を問い質したくても、それがおいそれと出来ない状況に、ただただ困惑するしかなかった。




