ズルい作戦
外出のために騎士達の許可を得ようと決意した翌日の昼過ぎ。オレとネイさんは騎士団の廊下にて……
「――――ねぇシルベ。今さらだけど、本気であの作戦をやるつもりなの?」
「当然です。なぁに任せてくださいよ! 三人分の許可は何としても、もぎ取ってやりますから!」
不安そうにするネイさんに対し、オレは自信たっぷりに胸を叩いて答える。
「そう……じゃあ、ここはシルベにお任せるよ」
話し合いが終わると、いよいよ行動を開始する。
「さて……まずは最初の一人目は……いた!」
都合良く、奥の角から一人で歩いてくるワイマンさんを発見。
「ワイマンさぁーーーん!」
わざとらしく手を振りながら近づき、さっそく本題を入る。
「スミマセン、ワイマンさん。オレとネイさんに外出の許可をいただけませんか?」
直球的な要求に反応は?
「外出? ンなもんダメに決まってんだろ。だいたいオメェ達は、黒いフードにいつ狙われてもおかしくない身なんだ。そんな状況で許可なんか出せる訳がねぇ!」
思った通りの展開。よって、予定通りにことを進める。
「ですが、ワイマンさん。既にポールさんとゲルトさんからは許可を得ているんです。だから、あとはアナタからの許可さえもらえたら、オレ達は外に出れるんですよ」
当たり前だが、許可の話は嘘だ。っていうか、二人とは朝起きてから一度も顔を合わせていない。
「団長さんとゲルトが許可をした? それは本当か?」
「ハイ! 特にポールさんからは『たまには、姉弟で外の空気でも吸って来たらどうだブゥ』と言われました!」
もちろんこれも嘘だが、それでも一応の効果はあるらしく……
「ふ~ん。まぁ、あの二人が認めたならオレも許可を出すけどよ……危ねぇことはするんじゃねえぞ?」
「ハイ!それは約束します! ねっ、お姉さん?」
「う、うん……や、約束する……よ!」
話を急に振られたネイさんは、慌てながらで答える。
「じゃあ、ちょっと待ってろ……」
ワイマンさんはそう言うと、懐から何かの書類を取り出しから書き込む。
「……この者達の外出を許可する……ワイマン=モンド……っと。ほらよ、これがオレからの許可証だ。出かける時に他の許可証と揃えて提出すればいい」
「あ、ありがとうございます! ワイマンさん!!」
こうして無事に一つ目の許可を得られたオレ達は、礼を言い終えると、そそくさとその場を立ち去るのだった。
「――――よし、これで一人目はクリアだ。残る二人もこの調子で……あれ? どうしました、お姉さん?」
何かを言いたそうな目で見てるけど?
「シルベ……一つだけいい?」
「何でしょうか?」
「この作戦、やっぱりズルくない?」
「……そ、それは言わない約束です」
ちなみにネイさんが「ズルい」と言った作戦内容はこうだ。
まずはポールさん、ワイマンさん、ゲルトさんの三人。その内の誰かを一人の時に捕まえる。尚この時、くれぐれも近くに他の二人がいないかを確認することが重要。何故なら、この作戦は既に他の二人から許可をもらっていることを前提にして話を進める必要があるからだ。
つまりは捕まえる……話しかける相手に対し、こちらが他の二人から許可を得てると偽ることで自分だけが許可を出してないとする脅迫概念へ訴えた後に“ちゃんとした許可”を得ていくという内容になる。
「――――え~と、次は誰を……」
「ポールでいいんじゃないの? ちょうど近くに司令室があるし」
言われてみると、確かにすぐ側には司令室の扉が見える。
「じゃあ、次の犠牲者はポールさんに決定ですね!」
「……シルベ、その言い方はちょっと……ねぇ?」
オレは罪悪感に染まるネイさんを引き連れ、司令室の扉を軽く叩く。
コン!コン!
「シルベ=テルミチです。ポールさんに相談があって参りました!」
それらしい文句を使い、中にいるであろう人物へ伺いを立てる。
「どうぞ。開いていますブゥ」
「失礼します」
扉を開いて部屋へ入る……っがその時、とんでもない不測の事態が襲った!
「やぁ二人とも。今日も元気そうだね」
何と部屋の中にはポールさんの他に、ゲルトさんがテーブルを挟んだソファーに座って談笑中だったのだ!
「ど、どうも…….ゲ、ゲルトさん……」
冷静さを装って挨拶するが、内心では冷や汗タラタラ流れる。
「さて弟殿。相談とは何ですかなブゥ?」
座ったままにこやかに話しかけるポールさん。その向かいのゲルトさんもオレ達が何を話すのかと注目している。
こ、これはマズい状況なったぞ。本来なら一人づつ騙くらかして外出の許可を得ていく作戦だったはずだったのに!
思惑が外れたせいで焦りを覚えるなか、オレは今後の対応について思考を張り巡らせる。しかし……!
だが、下手に曖昧な対応を取りでもしたらかえって不審がられてしまう!
どうする?どうすればいい? 一か八かで、ワイマンさんからの許可をキッカケに話を切り出してみるか?
そうこう思い悩んでいると、再びポールさんが口を開く。
「弟殿、相談とは一体何でしょうかブゥ?」
「あ、それは……」
よって、この状況をいよいよ危機的と判断したオレは、意を決して開口しようとするが!?
「じ、じつは……」
「アタシ達に外出する許可をもらえないかしら?」
「へっ?」
何と、ネイさんはそれよりも早く決断し、自分達の要望を言葉にして発したのだった!!