想定外の彼
「じ、じつは……オレ達に外出する許可を……」
「アタシ達に外出する許可をもらえないかしら?」
「へっ?」
オレが発言するよりも早く発したのはネイさん。彼女は迷うことなくこちらの要望を口にしたのだ。
「外出の許可ですかなブゥ? しかし、アナタ方は……」
「保護の件については理解してる。でも、どうしてもアタシ達は外に出る必要があるの!」
「ふむ……理由を伺ってもよろしいですかなブゥ」
ポールさんからの質問に、ネイさんは一度頷いてから答える。
「自宅の研究室に置きっぱなしにしている実験器材を取りに戻りたいの」
それらしいことを述べてるが、正直、見え透いた嘘にしか思えない。
「錬金術のですか……よろしい! そういう理由でしたら、外出の許可を出しましょうブゥ!」
だが、そのあまりにも見え透いた嘘は意外に肯定的に捉えられ、あっさりと認められる結果となった。
「ありがとう。感謝するわ」
「いえいえ。では、さっそく許可証の作成に取りかかりますブゥ」
何はともあれ、これでポールさんは陥落。そして残るは……
「あとはボクだけかな?」
「お願いします」
団長のポールさんが目の前で外出を承諾したことにより、彼も何の疑いもなく許可証の作成を始める。
「――――両名の外出をゲルト=ロロの名において許可する……ハイ、これがボクからの分だ」
「ありがとうございます。ゲルトさん」
許可証を受け取ってからの礼を終えると、視線は隣にいるネイさんへ。
「無理を言って悪かったわね、ポール」
「なぁに、これくらいは造作もないですブゥ」
どうやら、こちらも無事に許可証を受け取れたようだ。
「じゃあ用は済みましたので、オレ達はこれで失礼します」
目的を遂げ、いよいよ司令室を去ろうとした時だ。
「待ってくだされブゥ」
「!?」
突然、ポールさんから呼び止められる!
な、何だ? もしかして「やっぱり、気が変わったブゥ!」とか言わないよな!?
訳がわからないまま、その場で固まっていると……
「外出の際は、ゲルトを護衛として同行させてくださいブゥ。さすがに被保護者だけを歩き回らせるのは無謀過ぎますからなブゥ」
マズいな……彼も一緒に行動を共にするというなら、せっかくの外出気分が台無しになってしまう。けど、“護衛”という正論ワードを出された以上は拒否するのも不自然になるので……
「お、お気遣いありがとうございます。それではゲルトさん。オレ達は準備がありますので、夕方頃に声をかけさせてもらっていいですか?」
「ああ了解したよ。ボクもそれくらいの時間になったら一階のフロアで待ってるから」
ここは下手なことをせずに、彼等の善意を受け入れる道しかなかった。
――――数分後、自分達が寝泊まりしている客室に戻って来てから……
「あの、お姉さん。これでよかったんですかね?」
「ゲルトのこと? あれは仕方ないわよ。まさかあそこで『本当は遊びたいだけだから、彼は邪魔です!』なんて言えないもの」
「そりゃ、ごもっとも」
予想外の事態について会話を交わしつつ、オレ達は互いに向き合う形で自分等が眠るベッドへ腰を下ろす。
「……っで、彼のことだけど、アタシはそこまでも深刻に悩む必要はないと思ってるわ」
「……と言いますと?」
「だって、彼と一緒に向かおうとしてる場所はアタシが最も慣れ親しんだ自宅じゃない? それなら騎士の一人や二人なんて、どうとでも対処出来るというものよ」
自信たっぷりに語るネイさん。オレはそんな彼女に向かって訊ねる。
「あの、“どうとでも”って……ゲルトさんに手荒な真似でもするつもりですか?」
もし本気でそんな物騒なことやろうするなら、オレは全力で彼女を止める。
「はぁ……あのねシルベ。仮にもアタシは錬金術師よ? それなら物事の分別くらいは普通にあるし、目的のためだけに無闇に人を傷つけるつもりなんて……毛頭ないわ」
「そ、そうですか。安心しましたよ」
よかった。一応の安全面は考慮してるみたいだ。
「まぁそうね……妥当案としては適当に研究室へ閉じ込めて、その間にズラかるのがいいかしら?」
“いいかしら?”と言われても、実際に閉じ込められたことがある身としては賛同しにくい。
「えっと、それはちょっとゲルトさんがかわいそうじゃありませんか?」
「そう? なら、他に良い案があるかしら?」
よってオレは、頭に思い浮かんだ代案を口にする。
「あの、街中でオレとネイさんが別々の方向に逃げて、彼をその場で撒いてしまうのはどうでしょうか?」
「うーん。でもそれだと、どちらか一方が捕まった地点で意味が失くなるんじゃない?」
「た、確かに……」
片方だけが逃げ仰せたとしても、残った片方は面白くないだろうしな。
「ではいっそ、人知れずにここから抜け出すのはどうですか? ほら、おあつらえ向きに窓もありますし」
しかし、この提案には微妙な表情で答えられる。
「一つの方法としてはアリかもだけど、それをやると騎士団へ迷惑をかけるだけじゃなく、下手をすれば今後の彼等からの信用を失くす羽目になるかもよ?」
「そ、そう……ですか」
どうやら今のは、少々浅はか過ぎたか。
「じゃあ、結局はやっぱり……」
「ええ。純粋に外出を楽しもうとするなら、アタシの家でゲルトをどうにかする他ないってことね♪」
「で、ですよね~」
ふぅ、いろいろ悩んだ挙げ句に元鞘か……
オレは自身の努力がただの徒労に終わってしまった事実に、虚しく自嘲するしかなかった。




