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〜久遠の過去編〜 死霊使い

 

「世界の脅威は異世界人じゃなくて、別の存在……?」


「成る程、そう言う考え方もあるのか」


 レイラが推論を述べた後に帰ってきた反応はこの通りであった。

 レイは困惑し、バルムントは神妙な顔で頷く。


「飽くまで推論です。もしかしたら世界の脅威は異世界人である彼等であり、レイが持つ圧倒的な素質も神々が保険として授けたのも否定できません」


「ふむ、しかし備えをすることは悪いことじゃないじゃろう。いきなり土壇場でその事実が分かったとして、対処できずに世界が滅ぶと言うことは考えたくないの」


 困惑しながらもレイはゆっくりとレイラの言葉を頭で理解する。

 バルムントはふむふむと頷きながら「それで、話を戻すが」と切り出す。


「レイラはどうしたいんじゃ?」


「そうですね……“地下牢”への扉を開いてくれませんか?」


「……何をする気じゃ?」


「“彼”と話をさせて下さい」


「ダメじゃ」


 レイラが頼むがしかし、バルムントの反応は冷ややかなものだった。


「奴がしたことを忘れたわけじゃあるまい。ましてやお主がその当事者じゃろう。一体何を考えておるのじゃ?」


「“彼”って?」


 レイは首を傾げながら二人に尋ねる。

 流石にこのまま話を続けられると蚊帳の外になりそうで、それはレイとしても勘弁して欲しかった。

 バルムントは眉を顰め数度、口を開けたり閉じたりする。余程彼女に言いたくないことのようだが、一つため息を吐いてレイに話し始めた。


「“彼”とはな、地下牢に収容されておる罪人じゃ」


「つまりは犯罪者ってこと?」


「ああそうじゃ、じゃがただの犯罪者では無い」


 バルムントは近くの棚から魔法で一つの巻物を手元に引き寄せる。

 そして巻かれた紐をくるくると解きながら二人と一人の間にある机に巻物を広げた。


「これは我等が学院国家の詳細な地図であり魔道具じゃ」


「うわ、凄い詳しく書かれてる……」


 その地図は彼女がこの世界で見知っている地図のどれよりも遥かに詳細かつ綺麗に書かれている地図だった。

 彼女の人格の基盤となっている現代日本人男性の記憶にある地図と見比べても何ら遜色がないほどだ。


「この地図はこの都市そのものと繋がっており建物が建て替えられたりなどする度にこの地図の内容もまた変わるのじゃが……今はそれはいいじゃろう」


 そしてバルムントは東西南北に存在する同じ建物をそれぞれ指差す。


「これはこの年にある監獄じゃ。監獄とは言っても軽犯罪を犯した者らの一時的な牢屋みたいな者じゃがの。基本的に重犯罪者はここに入る事はない」


「えっ、どうして?」


「牢屋に入るだけという軽い刑罰だけじゃ済まんからじゃ。死刑か奴隷に落として重労働送りか……」


 声の低くしての言葉にレイは思わずブルっと震える。


「じゃが一般には知られていない監獄が一つある。それがこの学園の地下にある地下監獄じゃ」


 都市の中央にある一番でかい建物、即ち今レイ達がいる場所である。

 そしてバルムントはその指をススーッと下に移動させた。


「その監獄には余りの力の強さに奴隷に落とすことも出来ず、尚且つ殺すには惜しい価値を持つ者を収容する施設じゃ」


「殺すには惜しい?」


「知識は時として命よりも重い価値を持つことがある。奴、フロイス・ノウの持つ知識は殺すには惜しすぎるほどの研究をしておった。まあ、それが原因で地下に収容されることになったのじゃがな」


「フロイス・ノウ?」


「彼はアンデッド作成などの死にまつわる魔法を得意としていた死霊術師です」


「死霊術師? それって特殊属性の魔法のこと?」


「いえ、死霊術師は霊属性の、さらにその中でも一分野の魔法を得意とする魔導師のことをそう呼びます」


「奴は十年前に地下監獄に収監されることになったのじゃが、その原因が奴のしておった研究の内容じゃ」


「どんな研究だったの?」


「それは、死者の蘇生じゃ」


「えっ?! それって世界中で禁忌とされてるやつじゃ……」


「うむ、その通り。死者は輪廻に入りそして次の生へと生まれ変わる。これを人の身で乱すのは遥か昔から禁止されており研究すら禁じられておる」


「けど情報の価値っていうことは……」


「もちろん死者の蘇生の方じゃなく、奴の死霊術の研究の方じゃ。そこら辺は安心して構わん。魔術にのめり込んでおる儂等とてそこら辺の分別はついておる」


 ギョッとした表情のレイにバルムントは苦笑しながらそう訂正する。


「しかし何故レイラは奴と話がしたいんじゃ?」


「彼の死霊術が今後必ず役に立つからです。異世界人の軍勢と戦うには質が重要とはいえ数もまた必須になるはず。彼という戦力を腐らせておくには惜しいからです」


「成る程の……」


「そんなに凄い人なの?」


「ええ、彼は死霊術なら世界で右に出る者がいない霊属性に特化した“戦略級魔導師”です」


「戦略級?! レイラとかと同じ?!」


 戦略級はヒトの域を超えた生物としての最高到達点。

 扱いの難しいと言われる霊属性の戦略級魔導師は確かに、失うには惜しすぎる人材だろう。

 その間バルムントはソファーに深々と座り込み暫しの間熟考していた。

 そして口を開いた。


「分かった。ただし、牢から出てまた蘇生の研究を再開となっては意味が無い。奴に研究をしないと明言させよ。それを以って誓約の魔術を発動させて奴の行動を縛り付ける。それが出来るのであればその許可を出そう」


「分かりました」


 バルムントの要求にレイは即答する。


「なら良かろう。ついて来い」


 バルムントはそう言ってその場から立ち上がった。




 ☆★☆




 地下牢へ続く道はというと、レイとしては意外な事にバルムントが彼女達を招待したその執務室にある机、その後ろ側にそれはあった。

 下方向へと延々と続く螺旋階段。塔の外周をぐるっと一周するような構造であり、それがバルムントの執務室から伸びていた。


「ねえ、何で入口があの部屋にあったの?」


 そうなると出て来るのは疑問である。

 当然の事ながら、地下牢へ行く事を考えるのならば地上部分である一階に作った方が効率が良い。

 そうであるのに実際に入口があったのは最上階であるレイ達がいたあの部屋であった。

 地下牢がどれだけ深い部分にあるのか分からないがこれでは時間が無駄になるような気がした。


「地下牢への道は原則、この国の長とそれに近しい者しか入ることは許されん。そしてあそこの扉を開くにしても代々伝わるこの鍵を使う必要がある」


 バルムントはそう言ってレイに見せるように一つの鍵を掌の上に浮かべた。


「これが……?」


「うむ、そうじゃ」


 そうして彼は掌を閉じてまた前に向き直る。


「まあ、レイちゃんが言いたいことも分かる。無駄が多いということじゃろう?」


「うん」


「そこに関しては“否”と答えておこう。ここの空間は空間属性によって歪められておる。距離も思うほどではないし、例え鍵を奪われてここに入られようとも資格がなければ深部には辿り着けん」


「資格?」


「儂の許可が無ければ入っても意味がないんじゃよ。許可が無いまま入れば出口に辿り着くことが出来なくなる。進んでも戻ってもあるのは階段。矛盾するようじゃが“一本道の迷宮”と称すことも出来よう」


「なんか、凄い……けど、ていうことは今のこの道にも彷徨っている侵入者がいたりするの?」


「居たとしても、死んでおろう。種族に関わらず食料が無ければヒトは生きていけん。それに侵入者が入った瞬間にその空間ごと亜空間に飛ばされるという。異世界人には“パラレルワールド”に飛ばされると言えば分かるかな?」


「パラレルワールド、並行世界?」


「そうじゃ、とは言ってもその世界は延々と続く階段しかないがの」


 ホッホッホと笑うバルムントとは対照的にレイは顔を蒼褪めてその背に悪寒を走らせる。


「バルムント、レイを余り脅かさないで下さい」


「良いではないか。年寄りの戯れじゃ。ほれ、出口が見えてきたぞ」


 気付けば階段の終着点が見えていた。

 階段の道は薄暗く、ずっと話し続けていた為に、いまいち時間感覚が麻痺しているがそれ程時間は経っていないように思える。

 その終着点にある扉をガチャリと開けた。今度は鍵のようなものは無いらしい。

 その向こうに続くのはこれまた一本道であった。しかし今度は階段ではなく廊下が伸びている。余程長いのか、相変わらずの薄暗さでその奥行きの全てを見通すことは出来ない。

 しかしレイの目を引いたのはそのどこまでも続きそうな真っ直ぐと伸びる廊下ではない。


「扉がいっぱいある」


 扉を開けてから左右の壁にある無数の扉、それが等間隔に配置されていた。

 おそらくこの一つ一つが牢屋となっているのだろう。しかし中にヒトがいないのか、それとも完全な防音空間となっているのか分からないが何一つ音すら聞こえない。


「ふむ、何処じゃったかの……」


「ボケましたか?」


「失礼な! おぉ、思い出した思い出した。確か……」


 バルムントが記憶を探るようにして足を進める。その後ろにレイとレイラの二人は付き従う。

 そして歩き始めて一分程、バルムントは右側にある一つの扉の前で止まった。


「ここじゃな」


 バルムントは鍵を鍵穴に刺してガチャリと回す。

 そしてドアを開けた。




『あぁ……誰だ?』




 レイはその声を聞いて身体がまるで石のように固く、硬直してしまう。

 声に魔力を含んで発すると威圧のような効果を相手に与えることがある。しかし今の声にそれは含まれていない。

 ただ純粋に本人の気迫によって発せられる威圧感にレイは完全に気圧されてしまっていた。


「儂じゃよ。それにレイラもおる」


「もう一人居ますけどね。あとフロイス、この子を怖がらせないでください」


「おお、バルムントとレイラか。久しいな。ん、もう一人?」


 牢屋の中にいたのは安価な魔法使いのローブを見にまとった痩せぎすの男。

 この男が蘇生魔法の研究によって幽閉されているフロイス・ノウだろう。

 そんな彼はレイラとバルムントの二人を見た後、片眉を上げながらレイの方にジロリと目をやる。

 その目を向けられたレイは思わずレイラの背中に隠れた。

 レイラはそんなレイを励ますように彼女の頭を撫でながら前に出るように促す。


「この子は私の弟子です」


「ほう、お前が弟子をとったのか。それなりの時は流れたようだな」


 フロイスはカラカラと乾いた笑い声をあげる。その心境を推し量ることはレイにはまだ出来ない。


「それで、どうしてここに来たんだ。別にそいつを紹介したいがために来たわけじゃないんだろう?」


「貴方の力を借りたいのです」


「おいおい、お前ら俺をここに押し込んだ癖して都合の良いことを。研究がバレた以上ここに入れられるのは仕方ねえ。俺も魔導師だからな。そこら辺は理解していた。だがだからと言ってそれこれは話が別だ。はっきり言おう。嫌だ」


 犯罪者としては随分理性的な発言である。

 自らがした事を理解し、その上でこの結果を許容している。

 痩せぎすなのはここの環境故かそれとも元々なのかレイには分からないがそれでも彼には自らの確固たる信念がある様な気がした。


「異世界人を……貴方は知っていますか?」


「ああん? なんだ、藪から棒に。そりゃ知ってるさ。奴等は俺らにとっちゃ敵といっても過言じゃねえからなぁ。手がお前のその弟子もそうだろう?」


 レイはフロイスの言葉に驚きで目を瞠る。

 その反応を見たフロイスは満足そうに降格をニヤリと釣り上げた。


「優れた霊属性の術者は魂を見ることが出来るんだぜ、嬢ちゃん」


「それは貴方だけですよ」


「そうなの?」


「そうじゃ、儂やレイラでさえそれが出来ん。なぜ出来るか原理さえ分からんのじゃ。じゃから蘇生の研究よりもそちらの解明を儂らはして欲しかったんじゃがのう」


「今更そんなこと言われても遅えよバルムント。だがまぁなんだな。俺に協力して欲しければ蘇生の研究の再開を認めるんだな」


 ニヤニヤとこちらを見下す様に見つめるフロイス。

 鎖に縛り付けられた彼の目線は子供のレイよりも下の方にあるのにそれはそれは見事な見下しっぷりだった。

 レイはそんな彼を見て決意を固めた表情でレイラの背中から出てきた。


「お願いします。私に協力してください」


「おぉ? なんだ、レイラの後ろに隠れるだけかと思ったら、ちゃんとお願い出来るんじゃねえか」


「私は、神様から言われてこの世界を救う様に言われました」


「よくその話は聞くぜ。この世界を救って下さいと態々別の世界から人間を引っ張り出すのがこの世界の神様のやり方だ」


「違います。私が託されたのは私が元いた世界の神様にです」


 ここで初めて彼のニヤニヤ顔が崩れ、怪訝そうな顔に変化した。


「どういうことだ?」


「元々私達の世界の神々はこの世界を統治していた様なんです。それが私達の世界に移住するにあたっての後釜がこの世界の神みたいなんです」


「初めて聞いたな」


「この世界の異世界人がすることがこの世界の滅びに直結する為に、私という存在が作られました」


「確かに、そんなぐちゃぐちゃのどうして形を成せているかも分からないようなごっちゃ煮の魂が天然物な訳無いわな」


「貴方が、私達に協力してくれないのはメリットが無いからですよね」


「有り体に言えばそうだな。蘇生の研究の許可があればしてもいいんだが、お前からもバルムントを説得してくれよ」


「無理です。爺ちゃん先生は私を可愛がってくれますがそこらへんはきっちりと分けています」


 バルムントはうんうんと頷く。

 彼にとってレイはまるで孫の様に可愛いがそれとこれとは別。

 例えレイから泣き落としをされようとも許可を出すつもりは無かった。


「じゃあ何が俺のメリットになるんだ」


「私の魂を研究する許可を出します」


 そのレイの言葉に驚いたのはバルムントとレイラの二人だった。


「ちょっと! 何を言ってるんですか?! レイ!」


「そうじゃ! そんなことは儂らが許さん!」


「別にいいんです! それにこれは私にも利があることです。この魂の秘密を知ることが出来れば私はもっと強くなれる気がするんです。それに魂の研究といっても、抜き取るとか死ぬ様なことはしませんよね?」


「あぁ、そうだな。というより出来ねえ。こっから見ただけでもそれが分かる。それに、見れば見る程好奇心が湧いてくる」


 レイの方を見ながらフロイスは段々と目を輝かせてくる。


「良いだろう! 協力してやる。ゆめゆめその約束を忘れるなよ」


「勿論です」


 何とか許可を取れたレイはホッと胸をなでおろした。

 そして大人組二人もトントン拍子で進んだ話の内容についてレイを叱らなければならないと目線で相談しあっていた。

 そのためフロイスがポツリと呟いた内容を聞き取った者はその場にはその言葉を発した本人しかいなかった。


「……それに、何だかお前はあいつに似てるしな」



次話の投稿はおそらく今年中は無理です。プロットが個人的に納得出来なかったので書き直すことになりました。個人的な都合ですいません。


誤字脱字や文章の違和感などの指摘大歓迎です。

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