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お披露目

大変遅くなって申し訳ございません。

 

 ソウマが無事生家へとたどり着いて一週間。

 昨日は公爵家お抱えの仕立て屋が訪れソウマの寸法を採寸していった。

 礼服は中世ヨーロッパの貴族が来ていたスーツに似た雰囲気のものである。

 黒を基調としたものであり着ると思わず背がピッとなってしまう。

 オーダーメイドのため仕立てられた礼服は彼のサイズにぴったりであり、これから成長することも考えたらすぐに着れなくなることは確実だ。

 思わず心の中で前世の勿体無い精神を出してしまう。


「おお、よく似合ってるぞソウマ!」


「本当に大きくなったのね」


 そんなソウマの姿を見たジルドキリアは喜ぶ。

 キリアに至っては思わず涙まで流している。

 今彼等が居るのは謁見の間の扉の後ろである。

 謁見の間はパーティ会場にも使われる事があるのでかなりの広さを誇る。

 今現在、そこにはアスタリス分家の貴族達がそこに勢揃いしているはずであり、嫡男の入場を待って居るところである。


「ねえ父さん。最後にもう一回段取りを教えて貰える?」


「分かったぞ。まず最初は入場だ。俺の後ろをついてくるだけでいい。その後は俺がお前の事を喋るから、それが終わればお前は頭を下げてくれ。そしてその後に挨拶をしてくれればいい。それとお前が大精霊の契約者だということも話しておくぞ?」


 大精霊との契約者。

 これが示す意味はとても大きい。

 まずは人格が保証される。精霊は奇特で自由奔放であるがそれ故に人間の欲にとても鋭い。

 その為、私利私欲に走る人間とは余程のことが無い限り精霊と契約を為すことは出来ない。

 そして次に力が保証される。

 精霊と契約するには最低限の魔力がいる。

 精霊とのパスをつなぐ為の器が小さければ精霊との契約は出来ない。

 そもソウマがそのラインを軽々突破していた為に話題になることはなかったが、大精霊と契約しようとするとかなりの量の魔力保有量を有していないと契約は適わない。

 そして契約によって得られる恩恵もまたでかい。

 魔力量は軒並み上昇し、その精霊が司る属性適性が大幅にアップする。

 大精霊との契約者が武門の貴族の長になるというのは武力面でも人格面でも安心が保証されたも同然なのだ。


「その時にフレアっていた方が良い?」


「ふーむ、それは、いた方がいいかもな……」


「分かったよ、今呼ぶね」


 ソウマはフレアに思念を送る。

 精霊と契約した恩恵の中に互いを魔力のパスで繋ぐというものがある。

 それを利用して魔力を媒介し相手に思念を送ることができるのだ。

 ただそれほどハッキリ伝えることは出来ず、あくまでフワッとした感情しか送ることが出来ない。

 だがそれでも遠くから呼び寄せるということは出来るのでこのような場合では重宝する技能である。


「呼んだかしら?」


「「早っ!!」」


 呼んで数十秒ほどでソウマ達の場所へと来た。

 元々近くにいたのか思ったより早くここへと来た。

 本当に遠くからでも呼べたということにジルドとキリアが驚くように感心している。


「うん、来てくれてありがとう。お披露目する時にフレアの事も紹介しておきたいんだ。だから一緒にお願い出来る?」


「それならこっちの方がいいかしら?」


 フレアはいつもの人型の形態から透き通る幽体型、本来の精霊の姿へと変わる。いや戻ると言った方が正しいかもしれない。

 体がふわりと浮き上がり全身から紅いオーラを立ち上らせている。


「おお、こうしてみると大精霊の凄まじさが伝わるな」


 ジルドが感嘆するように呟く。

 彼女は普段ヒトの身体に押し込むようにして魔力を外に漏らさないようにしているがこの状態だとそれが外に駄々漏れになる。

 謁見の間の分家貴族にも魔力に鋭い者がいればこの魔力にも既に気がついているだろう。


「よし、じゃあ行くぞ。お披露目だ。あまり緊張するなよ」


「はい、()()


 そしてジルドは謁見の間の扉を開いた。




 ☆★☆




 謁見の間では既に全ての分岐貴族が待機していた。

 分家貴族の当主にその子息及び令嬢達、そして彼等の抱える私有騎士団の団長及び副団長。

 彼らは全てこの国境に接するアスタリス領を守護する戦士であり、アスタリス家を頂きに置く臣下である。

 アスタリス家の分家は合計で五つ。


 第一分家、コーレン家、現当主アルバ・コーレン。

 筋骨隆々の武人肌であり“鏡”は持たないものの、その武技と魔法の腕は皇帝を守護するエリートの近衛騎士をも上回る。

 その剛腕は馬を片手で投げ飛ばすほどだとも言われる。


 第二分家、アイドン家、現当主メリス・アイドン。

 現在の当主達の中で唯一の女性であり“鏡”の保有者。

 若い頃は名の知れた女騎士であり、皇女の護衛を勤めたこともある。

 年を経た今でもその気迫は衰えておらず四十代を超えた今でも若々しい印象を保っている。


 第三分家、レク家、現当主ゴッフォ・レク。

 当主の中で最も若く四角いフレームの眼鏡をかけている。そのレンズの奥の目は鋭く厳しい印象を与えられる。

 魔法の腕は他の四人に劣るものの“鏡”の保有者でありどちらかと言うと前線ではなく後方で指揮官として戦うタイプである。


 第四分家、イドラ家、現当主パラス・イドラ。

 当主の中で最も高齢であり、本来なら息子にその座を渡す歳なのだがその息子が近衛隊に入ってしまい止む無く当主を続けている。

 その歳からくる経験は侮れず、“鏡”は持っておらずとも魔法操作技術では五人の中でもダントツである。


 第五分家、ファラク家、現当主ヤート・ファラク。

 細い体躯で猫背の弱々しい印象を与える外見をしている。

 だが“鏡”保有者でありこの五人の中で最も強く、外見からは想像も出来ない程の苛烈な戦いを見せる。

 最近の悩みはその外見と戦った姿を見たことがないということから子供達に侮られるということ。


 以上の五つが現存する五つの分家であり、五人の当主達である。

 第一、第二などはその貴族家が設立した順番であり特に深い意味はない。

 現存、という言葉を使うことから分かる様に分家は時代によって増えたり減ったりする。

 だがここ三百年ほどは今の状態から全く変化していない。


 その五人が各々の子息令嬢、配下を従え横一列に並んでいた。

 待つ準備は万端なれど彼等の雰囲気は丁度いい感じに緩んでいた。

 下品にならない程度に、隣に並ぶ当主達と雑談を交わしている。


「いやしかし、つい先日到着したばかりの嫡男のお披露目ですか。我々の新しき主人がどの様な方になるのか、楽しみですな!」


「アルバ、それは良いが少し声を抑えよ。些か声がでかい」


「む、すまん」と第一の武人は軽く謝罪する。

 注意した妙齢の女騎士も注意はすれど気にした風な様子も見せずに「よい」と返す。


「しかし、今の時期に発表とは、どう思いますか? 第四の翁」


「どうとは、どういうことじゃ? 第三の」


 長い整えられたヒゲを擦りながらこの場にいる最年長者は、最も若き当主へと質問を返す。

 しかし彼は「分かっている癖に」とでも言いたげに肩を竦める。


「閣下夫妻の、御嫡男の生存が発表されて数年。にも関わらず閣下の家に御子息が帰ってきたという報告は聞かなかった。つまりは御子息が第三者の手で育てられたということ」


「それの何か問題があるのかの?」


「問題というよりは、好奇心ですね。成人する十五ではなく、十三でこの発表。父上から聞かされた話を連想しても可笑しくは無いでしょう」


 パラスは髯をさすりながら「そうじゃのう」と返す。

 そしてその隣から「はぁ」という溜息が老人の耳に届く。

 その男は本来は結構な身長を持つのだろうが、曲がりに曲がった猫背のせいで身長どころか大の大人としての威厳すらも小さく感じられる。

 パラスはそちらの方へと顔を向ける。


「それで、先程から第五のは落ち込んでどうしたんじゃ?」


「ええ、実は昨日ばかし、息子に叱られたばかりでしてねぇ。『親父は威厳が無い!』だとか」


「そりゃいつもの事じゃろうて」


「フォッフォッフォッ!」と声を立てて笑う老人を見て彼はさらに気落ちした様子を見せる。

 そしてその様子をパラスを挟んで見ていたゴッフォが呆れた様に肩をすくめる。


「第五の当主、そんなだから息子さんにも舐められるのですよ。所でその息子さんはここに来ているので? 姿が見えないようですが……」


「一番最後尾にいるように言っておきました。流石にここであの子の不満を、閣下や御子息に見せるわけにはいきませんから……」


「そういえば、ヤートのところが今までの次期当主筆頭だったな。それと関係があるのか?」


 ヤートの息子は最もソウマと歳が近い“鏡”を持つ分家子息であり、ソウマが見つかっていない時は彼が次期当主の最有力候補と見なされていた。

 反対側からアルバがそうヤートに問い掛ける。

 それを彼は難しい顔をしながら頷いた。


「ええ、そうなんですよ。確かにあの子は歳も若く、“鏡”を持ってはいますが……その為に過ぎた野望を抱いてしまったのでしょう」


 暗にその言葉は彼の息子が次期当主になるという事に乗り気だったということに他ならない。


「なっ!? むぅ、それは大変だったでしょう……」


「ええ、お陰でまたあの子の私に対する好感度が下がってしまい……」


 まるでトホホと言いそうなほどに落ち込むヤートの背中をパラスはポンポンと叩く。

 代によって分家同士の関係はやはり変わってくるものだが、この代の分家はかなり良好な関係を築いていた。


「それで、次期当主のことだが……むっ!」


 その瞬間分家当主の、そして魔力に敏感な者達が一斉に驚愕の表情を浮かべる。

 当主達が並んでいる向かいの壁の向こう側。

 そこから膨大な火の魔力が彼等の体に叩きつけられるように発せられていた。


「……なるほど、これが大精霊様の魔力。思っていた以上に凄まじいな」


 アルバが言った言葉を沈黙を肯定として周りが返す。

 そしてこうもあからさまな魔力を発したということは準備が整ったということである。


「さて、次期当主殿のお披露目だ」


 メリスがそう言った瞬間、ガチャリとドアが開かれた。


 そして扉が開かれると同時に、分家当主達を筆頭にザッとその場に全員が跪く。


 まず最初に入ってきたのはアスタリス家の当主、ジルド・アスタリス。

 そしてその次に当主夫人、キリア・アスタリス。


 そして次にこの謁見の間に足を踏み入れたのは一人の少年だった。

 艶やかな黒髪に藍色の瞳。

 その顔立ちはジルドをそのまま幼くした様な面持ちだった。


 そしてその後ろに続くのは赤い髪の赤い魔力をまとった精霊。

 膨大な魔力を撒き散らしながらソウマの後ろを浮遊しながら着いて行っている。


 それまでの瞬間その空間は静まり返り、誰一人として呼吸音すら漏らしていなかった。


 そしてジルドが「立ってくれ」と言うと同時に跪いていた者達が立ち上がる。


「さて、皆の者。今日はわざわざ集まって貰って感謝する」


 その言葉に当主達が軽く頭を下げる。


「多くの言葉は必要ない。紹介しよう。彼が私の息子であるソウマ・ウィストリアだ」


 その言葉で後ろにいたソウマが前に出る。


「どうも、皆様。私の名前はソウマ・ウィストリアと申します」


「我が息子が数年前に見つかったということは皆も既に知っているだろう。だが今の今まで息子をここに呼び戻さなかったのは信用できる方に我が息子を預けていたからである。そのお陰で息子は類い稀ない才能を開花させこの地に戻ってくるに至った」


 その言葉に質問を挟むことなく黙ってその場にいる者達は聞き入れる。

 そこでジルドは言葉を一旦切った。


「今此処に、アスタリス家の正当後継者たる証を見せよう。ソウマ、当主の証明である“鏡”を出せ」


 その言葉の通り、ソウマは自らの頭上に鏡の魔法をこの部屋にいる全員に見える様に発動する。

 そして今ソウマが正式に当主を受け継ぐ権利を見せたことにその場にいた者達が僅かにざわめく。

 だがそれは否定的なものではなく肯定的なものだった。


「これにて我が息子が正式にこの家に継ぐ資格があることが証明された。どうか皆の者、次期当主にもさらなる忠誠を誓ってくれれば幸いである」


「第一分家当主、アルバ・コーレン、誓います」


 大柄な武人が跪く。


「第二分家当主、メリス・アイドン、誓います」


 妙齢の女騎士が跪く。


「第三分家当主、ゴッフォ・レク、誓います」


 若き指揮官が跪く。


「第四分家当主、パラス・イドラ、誓います」


 老獪な軍師が跪く。


「第五分家当主、ヤート・ファラク、誓います」


 弱腰な最強が跪く。

 その場に五人が跪き続くように全員が跪いた。

 それを見てジルドが満足そうに頷く。


「よし、これにて次期当主のお披露目を終了とする! 皆の者、ご苦労であった!」



誤字脱字や文章の違和感などの指摘大歓迎です。


ただでさえ遅い更新がさらに遅くなりそうです。

次からは最低月一回は更新します。


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